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 お母さまも交えて改めてお願いをすると、話はあっという間にまとまりました。
 ビランチャ侯爵家からお帰りになったお母さまは、ある程度の段取りはすでにつけてきてくださったようで、お父さまも本日のお母さまの予定を把握しておりますから、玄関ホールのやり取りだけでそこまで見越しておりましたのね。
 お兄さまのお手紙を添えて、すぐにでも招待状を送っていただけることに。

(さあ、これでお友だち作戦が一歩前進ですわ。
 たくさんお友だちがいたほうが、万が一何か起こった時も味方になってくれるかもしれませんし、まだまだこれからですわね!)

 どうやらわたくしがお友だちに飢えていることは両親とも察しているらしく、ならばやはり王城に、ということになりそうな雰囲気は華麗に回避いたしました。
 そんなアウェイのところでお行儀の良い関係を築きたいわけではないのですもの!
 もっと親密に、さらにフラットに!
 ということはこの貴族社会では難しいことではございますが、お母さまとアクアーリオ侯爵夫人や、ビランチャ侯爵夫人のような関係がうらやましいのだと素直に申し上げましたら、ご納得いただけたみたい。

 お父さまにも、恋のキューピッドを買って出てくれる伯爵のようなお友だちが他にもいらっしゃいますし、やはり良いお友だちに出会うのはこの人生での大きな目標のひとつですわね。

 そう、伯爵と言えば。
 リオーネ伯爵家は代々騎士団の団長を勤めておられる由緒ある家系で、こちらも攻略対象になりえるご子息がいらっしゃるかと思えば、まだご結婚もされていないそう。
 婚約者が若くしてお亡くなりになり、以降、どなたとも縁を結んでいらっしゃらないとか。
 うーん、要素的に隠れ攻略キャラ、の可能性も否定できないのですが、それにしても年齢が離れ過ぎておりますし、ここは保留というところですかしら。
 伯爵様も素敵な紳士ですし、わたくしの精神年齢的にはまったく問題ない年齢差、というか前世に今世を足してしまえばわたくしのほうがかなり年上ということになりますし、ありよりのあり、ただしお父さまが泣くかもしれないので難しい縁組ですわね。
 攻略キャラでしたらなしよりになります。
 あらでもご婚約はされていないのだから、クソヤローにはならないのかしら?
 まあでも、わたくしが成長するまでにご婚約、ご結婚される可能性のほうが高いですもの。
 惜しい気もしますが、やはり「なし」と考えて差し支えございませんわね。

 ここまで、アンジェロお兄さま、ファウスト、ベアトリーチェ様、リオーネ伯爵様(仮)、お名前だけならエンディミオン殿下、ビランチャ宰相子息のシルヴィオ様、と攻略対象や登場人物たり得る方々が出てきましたが、やはり思い出すことがありませんわ。
 王道パターンの乙女ゲームの要素はこれでもかと詰め込まれておりますから間違いなくそうなのでしょうけど、プレイした覚えのない世界観と登場人物で、シナリオ展開がまだまだ見えません。

(破滅のキーパーソンとなる婚約者……王子殿下のお顔を見た瞬間に思い出すパターンかしら?
 いえでももし違ったら、まだお顔を合わせるのは早い気がいたします。まかり間違ってその瞬間に婚約!なんて流れになることを考えたらヘタは打てませんわ)

 そう、まだ焦る時ではありません。
 学園入学時とか、最悪、破滅直前とか婚約破棄された瞬間とか、ゲームの内容を思い出す瞬間がかなりシビアな場合も考えられますもの。
 それに、ゲームのシナリオがまったくわからないとはいえ、転生していることだけは思い出せているのですから、それまでにも手の打ちようはあるというもの。
 持ちうる知識が多岐に渡りすぎて、破滅回避の対策をとろうにもまったく準備が足りていないというのが現実ですけれど。

(……人手が欲しいですわね)

 転生悪役令嬢が華麗に逆転する小説なら、有能な侍女や従者がいたり、協力者を囲っていたり、何ならこれだけの高位貴族なら隠密っぽい護衛がいたりするものですが、今のところそれらしい人物はおりません。
 もちろんわたくしにも侍女はついておりますけれど、もとは母の身の回りの世話をしていた侍女たちで、わたくし個人の専属ではありません。
 7歳にはなりましたがわたくしもまだ小児の部類ですから、乳母から侍女は、母と同年代かそれ以上の年齢で固められているのは当然のこと、公爵令嬢の教育やお世話係に年端もいかない少女を充てがうのはこの世界では一般的ではないようです。
 もちろん年若い見習いの使用人もおりますが、合格ラインに到達するまではわたくしやアンジェロ、ファウストの身の回りにつくことはできませんし、目に入る配置にすらつけないのです。
 徹底した公爵家の管理ぶり。
 さらに言えば、市街に出て身寄りのない子供を助けて自身の従者や侍女に召し上げるようなことができる余地もありませんわ。
 そもそも外出が制限されているのですし、たまの外出で馬車が通るのも貴族街の整備された道か、王都と領地を行き来する街道で立派な護衛つき。
 何かイベントはないかと窓から顔を覗かせても、精悍な騎士の顔が見えるばかり。手を振ると笑い返してくださる対子供用の柔和な印象の方々で馴染みの護衛ばかりですが、ガラッシア公爵家に仕えるほどには有能ですから、不審者はネズミ一匹でも近寄れる雰囲気はなく、これも現実的ではありません。
 いくらステラフィッサ王国が比較的平和な国と言っても、貴族の子どもの外出自体を制限されるような文化ですから、大人の目を盗んで抜け出して街へ行ってみるという気にもなれません。
 前世の知識にも、学校の行き帰りでさえ子どもの一人歩きが推奨されていない国がありましたが、あれほどの大国でも誘拐は横行しているのですから、考えなしにそんなことをして、悪役令嬢の破滅よりひどい目に合っては前世の記憶を思い出した意味すらなくなってしまいますわ。

 これは詰んだかと少し頭を悩ませましたが、こういう場合にはその道のプロに頼めばいいというのが定石ですわね!

 ここで登場するのが我が家の執事セルジオ。
 広大な領地を誇るガラッシア公爵家は、王都にあるタウンハウスからはじまり、ガラッシア領の各都市に邸宅を構え、そのメインとなる領都のそれは城です。ガラッシア王城としばしば妬みめいた批判を受けることがあるほどの城なのです。
 そのすべてに厳選された精鋭の使用人がおり、どこに行っても快適な生活環境が保たれ、不便を感じたことがありません。
 そしてその配置から何から何まで、すべてこのセルジオの管理下にあります。
 セルジオはそう、人材発掘、育成のプロなのです!
 人材不足にあえぐ所領もあると聞きますが、我がガラッシア家はつねに適材適所の人員が配備され、完璧な布陣なのです。
 それを一手にまとめあげているのがセルジオなのですから、その手腕は言わずもがな。
 そんなセルジオは、先代の公爵、お祖父さまの頃から鍛え上げられた執事で、執事職というよりは退役軍人のような野生味のあるお顔立ちの美中年、という風貌。
 執事と言えば白髪老人、という夢は、お祖父さまと共に引退した先代の執事が持っていってしまいました。
 今はおふたりともガラッシア領都のお城と、サダリ湖畔の別荘を行き来しながら、お父さまのフォローもしつつ隠居生活を楽しんでおります。
 お祖父さまはわたくしたち孫を目に入れても痛くないほどの可愛がりようで、先代執事もわたくしが少し思ったことを口にすれば、どんな些細なことも余さず叶えてくれます。
 そんなふたりに鍛えられたセルジオですから、ちょっとお願いすればこの人手不足解消にも一役買ってくれるはず。

(でもお願いの仕方を考えませんと変に思われてしまいますわね)

 侍女や従者については、10歳になった時に改めて専属の者が選出されるのがガラッシア家の習わしで、今は来年10歳になるお兄さまの側近になる従者候補を大選抜中とのこと。
 お兄さまの側近となると未来のガラッシア公爵の側近ともなり、領地の運営にも盛大に関わることになりますから、ガラッシア家に連なる貴族家の二男、三男の名が多く上がっているようです。
 領地運営に関しては将来的にはファウストとも相性を見られますから、あまり出生についてこだわりのない方が望ましいですけれど、そのあたりプロのセルジオが抜かりあるはずもありません。

(お兄さまの従者選抜にかこつけて、セルジオにお願いしておくのがいちばん効率的かしら)

 わたくしの場合は、主に侍女選抜となります。
 年近い姉のような頼れる存在になり得る人物がいいですわね。
 しっかり者の秘書タイプを筆頭に、気配りの上手な朗らかな方と、恋バナを楽しめるようなコミュ力高めの方なんて理想的。
 ルクレツィアはさすがに筆頭貴族のご令嬢なので、これにあと2~3人専属が付くのですけれど、そのすべての方に、何かあった時にわたくしを守り対処する戦闘力が備わっているととても頼もしいです。
 この場合の戦闘力には、物理だけでなく政治的な立ち回りの補佐も含まれます。
 物理の前に情報戦を制さなければ、旗色も悪くなるというもの。
 加えて経済的な面でも備蓄があるほうが強いに決まっていますから、個人的な資産も蓄えられるように方法を考えたいところです。


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