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2 棒人間の静かなる攻撃
2-2 棒人間の熱い攻撃
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「ほやけん、私がしたいんはコレなんよ」
棒人間が熱く語っている。
ゆるく方言が入った語り口で、フリップボードを立てて大きなジェスチャーで訴える。
口がないのにどこから声が出ているのかなどを考えてはいけない。
ここはイメージの世界である。
深層心理世界の中で二人を待っていたのは棒人間だった。
棒人間は、二人を大喜びでもてなしてくれた。
椅子と同じテイストの鉄の文様でつくられたテーブルが用意され、二人は紅茶を飲みながら棒人間講演会を聞き続けている。
棒人間は冗談まで交えてテンポよく語る。
その分かりやすくまとまった説明は、相談中の前田を思い出させ、同じ人間の違う面でしかないことに真守は不思議な気持ちになった。
「私は死にたいんよ」
棒人間は、死への憧れを熱く語る。
雪の中に埋もれ春に発見される死体が綺麗な凍死。
仲間がいっぱいいそうな樹海の一部となる首吊り。
電車に轢かれて細切れになって都市伝説となる轢死。
「ちっちゃい頃からずっと憧れやったんよ……」
棒人間は、前田千恵が封印して忘れてしまった裏の人生を語りだした。
両親は共働きで顔を合わせる時間が少ないのに、喧嘩ばかりだったこと。
両親の怒号から逃れるように自分の部屋にこもって死ぬことを想像することが救いだったこと。
小さい頃は太っていて周囲にからかわれることが多く生きることが辛かったこと。
そんなとき、ふと思ったのだ。
「別に死んでもええやんって」
中学1年生を迎えた前田は遺書の下書きをしていると嫌なことに気づいた。
「ちゃんとした理由にせんと馬鹿にされるかもしれん……」
遺書に綴られた理由は、正直に書いたのにとても薄い気がした。
無視されて嫌だった。
悪口を言われて人が怖くなった。
人としゃべるたびに消えたくなって死にたくなる。
そんな気持ちを抱えたまま今日と同じ明日が来ることが嫌だった。
老衰で死ぬゴールはとても遠くてそれまで積み上げないといけない時間はとても重荷だ。
そんな気持ちを込めて書いたのに、読み返すと「無視されて悪口を言われたから死にます」としか読み取れなかった。
テレビで取り上げられるようないじめや悲惨な目に遭わないと「これで死んだの?」と言われてしまいそうだった。
SNSやニュースで、「こんなに薄い理由で死んでしまった中学1年生」として取り上げられ、炎上することを想像してとゾッとした。
「そこで考えたんよ」
棒人間は、誇らしげに宣言した。
「死んでもおかしくない人生を歩むことにしたらええやんって」
前田は「そんな失敗をしたなら自殺をしたくなるよね」と言われることを目指すことにした。
そこから、前田の人生は周囲から見て成功し続けた。
ダイエットをすれば成功し、
偏差値の高い高校を受験してうっかり受かってしまい、
絶対に振られると告白した人にはOKされる。
いつの間にか周囲には優しい人ばかりになり、周囲にどんどん「自殺する理由」が消えていく。
高望みのつもりで挑戦したことは全て成功し、何もかも手に入れたはずなのに、いつもむなしかった。
ワタシガ、ホシイノハ、コレジャナイ。
そんな思いに付きまとわれた。
苦しかったから、「自殺したい」を封印した。
なかったことにした。
けれど、どんなになかったことにして忘れても、「コレジャナイ」という思いだけは消せなかった。
いつも家族にさえ嘘をついているような気持ちに押しつぶされそうになる。
それが前田千絵が封印した人生だった。
棒人間が熱く語っている。
ゆるく方言が入った語り口で、フリップボードを立てて大きなジェスチャーで訴える。
口がないのにどこから声が出ているのかなどを考えてはいけない。
ここはイメージの世界である。
深層心理世界の中で二人を待っていたのは棒人間だった。
棒人間は、二人を大喜びでもてなしてくれた。
椅子と同じテイストの鉄の文様でつくられたテーブルが用意され、二人は紅茶を飲みながら棒人間講演会を聞き続けている。
棒人間は冗談まで交えてテンポよく語る。
その分かりやすくまとまった説明は、相談中の前田を思い出させ、同じ人間の違う面でしかないことに真守は不思議な気持ちになった。
「私は死にたいんよ」
棒人間は、死への憧れを熱く語る。
雪の中に埋もれ春に発見される死体が綺麗な凍死。
仲間がいっぱいいそうな樹海の一部となる首吊り。
電車に轢かれて細切れになって都市伝説となる轢死。
「ちっちゃい頃からずっと憧れやったんよ……」
棒人間は、前田千恵が封印して忘れてしまった裏の人生を語りだした。
両親は共働きで顔を合わせる時間が少ないのに、喧嘩ばかりだったこと。
両親の怒号から逃れるように自分の部屋にこもって死ぬことを想像することが救いだったこと。
小さい頃は太っていて周囲にからかわれることが多く生きることが辛かったこと。
そんなとき、ふと思ったのだ。
「別に死んでもええやんって」
中学1年生を迎えた前田は遺書の下書きをしていると嫌なことに気づいた。
「ちゃんとした理由にせんと馬鹿にされるかもしれん……」
遺書に綴られた理由は、正直に書いたのにとても薄い気がした。
無視されて嫌だった。
悪口を言われて人が怖くなった。
人としゃべるたびに消えたくなって死にたくなる。
そんな気持ちを抱えたまま今日と同じ明日が来ることが嫌だった。
老衰で死ぬゴールはとても遠くてそれまで積み上げないといけない時間はとても重荷だ。
そんな気持ちを込めて書いたのに、読み返すと「無視されて悪口を言われたから死にます」としか読み取れなかった。
テレビで取り上げられるようないじめや悲惨な目に遭わないと「これで死んだの?」と言われてしまいそうだった。
SNSやニュースで、「こんなに薄い理由で死んでしまった中学1年生」として取り上げられ、炎上することを想像してとゾッとした。
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