全てを手に入れたのに、生きることが苦しい

ヒカリサス

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1 家庭も仕事も全てを手に入れたのに生きることがツライんです。

1-4 装置のそばで理不尽を叫ぶ

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真守は、パソコンの中に並んだ書類をチェックして安堵する。
無事に前田との契約が交わされ、装置を使うための事前書類も整った。
装置は、御神の独断で使うことを許されているものの、データをちゃんと残さなければ共同研究を打ち切られてしまう。
どんな相談内容で、どんな身体的反応が起き、どのように通常の治療が止まったか。
それを装置に入る前にまとめておかないといけない。
御神は書類関係を真守に丸投げしている。
教えてくれる人がいないので、仕方なく共同研究先の大学の院生に学びながら学術的な表現を学んだ。
大学を卒業できるぐらいの学力を持っているが、文系だった真守にはなかなか難しい世界だ。
理系のおとなしくて変人が多い人種と馬が合い、とても楽しいことが救いだった。
怖がらずに理系に行けばよかったと今では少し後悔している。

真守は、パソコンを落として、簡易テーブルと椅子をたたむ。
真守は、本当に集中したいときは、装置の部屋の片隅を借りることにしていた。
装置を見ながらだと、テンションが上がるのだ。
主装置となる片隅に置かれた170センチもある大きな長方形の黒いボックス。
そこから配線され横たわる三つの黒いカプセル。
大人が一人入ることができる大きさが並ぶ姿は壮観だ。
普通の部屋に置いてあるため、余計にその異様さが際だっている。
真守はうっとりと眺めてクローゼットに机と椅子をしまった。

鞄にパソコンをしまい、帰る前にトイレへ行こうとドアを開けようとするとドアが思い切り跳ね返ってきた。
最近のジム通いのおかげで踏ん張りはきいたが、転んで装置に傷をつけそうになってしまったことが真守の心臓をつかみ上げて早鐘を打っている。

「真守。何してるの?
もう佐保さん来てるんだから、ドアを開けるなら開けるってちゃんとホウレンソウしてくれる?
社会人でしょ」
ドアの向こうから現状を理解した御神の声がした。

「聞いてない」という言葉を飲み込む。
御神が単独で動くようにしてもらい、真守は午後からこの部屋に入っていた。
イヤホンをして音楽を聴きながら作業していたとはいえ、佐保の来訪はちゃんと教えてくれないと困る。

佐保は、装置のサポートとして雇われている。
御神と、真守、クライアントが仮想空間に入っている間、生命維持を管理し、仮想空間を現実のものとして整える操作をしてくれているのだ。
必要になった道具もその場で用意してくれるので、とても頼りになるのだが、やっかいな癖を持っていた。
人に姿を見られることを嫌がるのだ。

御神以外に姿を見せようとせず、真守も仮想空間の中でブリキの姿のアバターでしか接触したことがない。
佐保は、装置のある隣の部屋で作業するので、佐保が来たときは、「ドアを開けます」と一声かけて、佐保が隠れる時間を稼がないといけないことが決まりとなっていた。
「ドアを開けます」
と大声で告知してドアを開けた。

仮想現実世界でイメージしやすいよう体幹を鍛えておいてよかったと思いながら、トイレへ駆け込んだのだった。
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毎週月曜日朝5時に更新します。
読むカウンセリング御神玲香シリーズ
1話完結型。
どこから読んでも大丈夫なように作ってあります。
1 試運転     ~保護者会問題~
2 先生からの暴言 ~乗り越え方問題~
3 生きるは義務 我慢は正義
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