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いじわるばばあ
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いじわるばばあ
あるところにデリーという、小さな魔女が住んでいました。
デリーは村はずれの小さな小屋で、ひとりぼっちで住んでいました。
デリーは他人が大嫌いでした。
人は、小さな魔女を見て、「なんて醜いばあさんなんだ」とデリーに聞こえるように大きな声で言いながら、ペッとつばを吐きます。
そのつばは、だいたい道の脇に飛んでいきますが、ときどき、デリーの方に向かって吐き出されるときもあります。
すると、デリーはすかさず、魔法を使ってそのつばを避けます。
そんなとき、たいていの人は、
「うわあ。こいつ魔法を使ったぜ。にげろ」
と逃げていってしまいます。
そういった心無い人に対して、デリーは、
「ケッ。自分はそんなに美しいのかい?」
と、逃げて行く村人の後ろ姿に一言投げつけます。
そして、何事もなかったかのように歩いていくのです。
デリーに対してつばを吐く人ばかりではありません。
別の日のことです。
きれいなお姉さんが、えっちらおっちら歩くデリーを見て、
「おばあさん、大丈夫?」
と言って、手を差し出しました。
またまた別の日には、市場のおばさんが
「ついでにこれ持っていきなよ。」
と、頼んでもないのに、おまけの物を押し付けようとしました。
しかし、デリーは、別の日も、またまた別の日も、ものすごく迷惑そうな顔を向けて、
「いらないよっ」
と叫んで去っていきました。
デリーは、同情されたり、よけいなおせっかいを焼かれるのが大嫌いなのです。
一番大変なのは子供たちです。
「子供は天使だ」
「宝物だ」
などとふざけたことを言う大人に、その本性を見せてやりたいものだ、とデリーは常々思っていました。
「自分の子供のころを思い出してみろ、どこが天使なんだ」
言う機会さえあれば、デリーは叫んでやったのにちがいありません。
もっとも、デリーは、みんなと一緒におしゃべりをすることがなかったので、叫ぶことなどありませんでした。
子供たちのやることといったら、
畑は荒らす
きたないばばあと歌いながら石を投げてくる。
エトセトラ エトセトラ
それはもう、手の込んだものから、馬鹿らしいものまで、手がつけられません。
ですから、いつもデリーはすばらしいお仕置きを考え出しては、魔法の罠をたくさん張って待っています。
子供達と知恵比べです
デリーの大切な子牛にペンキでいたずら書きをしようとした子供は、ペンキを子牛に塗ろうとした途端、牛柄に染まってしまいました。
デリーが影から見ていたにちがいありません。
子供は泣きながら、家に帰っていきました。
また、あるときは、デリーが大切に育てている野菜をもいで食べようとした子供が、デリーの畑に入った途端、野菜がいっせいに怖い顔をして怖い歌を歌い始めました。
デリーに見つかってしまったのに違いありません。
子供は泣きながら逃げていきました。
子供の中には、デリーの魔法が見たくていたずらしようとする子もいました。
デリーはそれを知ってか知らずか、必ず罠に魔法を使っていました。
子供で困るのはそれだけではありません。
小さくて、デリーのことをあまり知らない子供が
「おばあちゃん、遊んで」
と、まとわりついてきます。
「あっちへおいき」
と怒った声を出すと、子供が大泣きをして大変な目に会うので、いつも無視しています。
しかし、時々、しつこく裾をつかんで
「遊んで」
とせがむ子供にデリーは困ってしまいます。
何とか下手に泣かさずに子供から逃れようとするデリーの様を見て、昔何度もデリーの罠のお仕置きに泣いた大人達は笑います。
「おい、見ろよ。デリーが困ってるぜ。」
そんな風にデリーは村はずれに住んでいました。
小さなころ、おっかなびっくり一度はいたずらに入る、へんつくばばあの家。
それがデリーの家でした。
ある日のこと。
近くの町で大金が盗まれたため、村に犯人を探して警官がやってきました。
警官はデリーに目をつけました。
大金を盗むのに魔法が使われており、ここら辺で魔法が使えるのはデリーしかいなかったのです。
それにデリーの家はとても貧乏だったので、ほとぼりが冷めたら、そのお金を使って贅沢をするつもりにちがいないと警官は考えました。
警官は、デリーを捕まえ、牢屋に入れました。
「何すんだい。この大トンマ。私はあの家が気に入ってるんだよ。大金盗む理由がどこにあるんだい」
そう叫んでも警官は取り合ってくれません。
魔法封じのブレスをはめられたデリーは、冷たくて狭い牢屋に放り込まれてしまいました。
デリーは、牢屋の小さな窓から見える夜空を見上げながら、家に残してきた牛や鶏が心配になりました。
おなかが減っているだろうなあ。
デリーには、牛と鶏と畑が家族です。
とても大事に育ててきました。
しかし、このまま、長いこと牢屋にいて、世話をしなければみんな死んでしまうでしょう。
デリーは不安ともどかしさで、ダンダンと足を踏みならしました。
次の日、警察はびっくりしました。
デリーの村から、たくさんの抗議の電話と手紙が殺到したのです。
「あの、へんつくばばあが盗みなんかするはずがない」
皆が言葉を変え、口調を変えて訴えてきました。
「今は捜査中です。
無実が判明すれば、釈放しますから。」
警察は、何度も何度もこの言葉を繰り返さなくてはいけませんでした。
「おまえがやったんだろう。
魔法が使えるのがその証拠だ」
「ああ、本当にあんたは使えないね。ああ、いまいましい。
そうやって、いままで無実の人を無理矢理犯罪者にしたんだろうが、わたしゃそうはいかないよ」
「本当に口の減らないばばあだな」
警察とデリーがこの会話に飽きた頃、他の街で犯人が逮捕されました。
警察は、苦々しい顔をしてデリーを釈放しました。
デリーは、警察の玄関先で、ぺっと吐いたつばを魔法でえいっと飛ばしました。
つばは、一番しつこく取り調べをした警官の顔にぴぅと飛んでくっつきました。
警官は顔を真っ赤にして怒ったので、デリーは、もう少しで不敬罪として再逮捕されるところでした。
デリーは、怒っている姿に満足したかのようににやりと笑ってふいと警察署から消えてしまいました。
デリーが、顔を心配でくしゃくしゃにして、どうすることもできなかった家に向かいます。
牛や鶏は、まだ生きているだろうか?
よく見ると、家の前に人垣ができていました。
家の前に村人が総出で出迎えるために集まっていたのです。
「よかったね」
「よかったね」
デリーは苦しくなってうつむきました。
バカにされるのも、いじめられるのもデイリーは平気です。
相手を嫌いになればそれで済むからです。
おせっかいも平気です。
「あんたに施しを受けるほど、落ちぶれちゃいないよ。」
と跳ね除ければいいのです。
しかし、当然のように仲間として迎えられる。
これがデリーには一番つらいことでした。
相手が自分を好きでいてくれるからです。
デリーは、自分が嫌いだったので、好きになってくれる人が信じられなかったのです。
好きでいてくれる人にいつ嫌われるかとびくびくして暮らすより、周りに嫌われて安心して暮らしたかったのです。
「はいはい、そこどきな。わたしを家に入れておくれ」
デリーは、そそくさと家に入って行きました。
何かから逃げるように牛と鶏のいる家畜小屋へ行くと、元気な牛や鶏が出迎えてくれました。
よく見ると、きちんと世話をされた形跡があります。
村人達に違いありません。
「まったく、おせっかいなやつらだよ」
そうつぶやいて、何かをこらえるように口をへの字に曲げて横を向きました。
すると、窓から、数人の村人がのぞいているではありませんか。
口をへの字に曲げたデリーをニヤニヤと見ているようです。
デリーは、目を剥いて、小屋の中の熊手を持ち上げると窓に向かってぶんぶん振り回しました。
わあ、と叫んで村人達は消えていきます。
デリーは、こらえているものを吐き出さないようにつんと上を向きました。
それから何年も経ちました。
デリーはやっぱり意地悪です。
しかし、デリーの家にいたずらしようとする子供は後をたちません。
大人達は、温かい顔をしてデリーをからかいます。
時々など、わざとデリーに子供をけしかけたりします。
デリーは、とてつもなく嫌な顔をしながら魔法の罠を張って、待っているのです。
あるところにデリーという、小さな魔女が住んでいました。
デリーは村はずれの小さな小屋で、ひとりぼっちで住んでいました。
デリーは他人が大嫌いでした。
人は、小さな魔女を見て、「なんて醜いばあさんなんだ」とデリーに聞こえるように大きな声で言いながら、ペッとつばを吐きます。
そのつばは、だいたい道の脇に飛んでいきますが、ときどき、デリーの方に向かって吐き出されるときもあります。
すると、デリーはすかさず、魔法を使ってそのつばを避けます。
そんなとき、たいていの人は、
「うわあ。こいつ魔法を使ったぜ。にげろ」
と逃げていってしまいます。
そういった心無い人に対して、デリーは、
「ケッ。自分はそんなに美しいのかい?」
と、逃げて行く村人の後ろ姿に一言投げつけます。
そして、何事もなかったかのように歩いていくのです。
デリーに対してつばを吐く人ばかりではありません。
別の日のことです。
きれいなお姉さんが、えっちらおっちら歩くデリーを見て、
「おばあさん、大丈夫?」
と言って、手を差し出しました。
またまた別の日には、市場のおばさんが
「ついでにこれ持っていきなよ。」
と、頼んでもないのに、おまけの物を押し付けようとしました。
しかし、デリーは、別の日も、またまた別の日も、ものすごく迷惑そうな顔を向けて、
「いらないよっ」
と叫んで去っていきました。
デリーは、同情されたり、よけいなおせっかいを焼かれるのが大嫌いなのです。
一番大変なのは子供たちです。
「子供は天使だ」
「宝物だ」
などとふざけたことを言う大人に、その本性を見せてやりたいものだ、とデリーは常々思っていました。
「自分の子供のころを思い出してみろ、どこが天使なんだ」
言う機会さえあれば、デリーは叫んでやったのにちがいありません。
もっとも、デリーは、みんなと一緒におしゃべりをすることがなかったので、叫ぶことなどありませんでした。
子供たちのやることといったら、
畑は荒らす
きたないばばあと歌いながら石を投げてくる。
エトセトラ エトセトラ
それはもう、手の込んだものから、馬鹿らしいものまで、手がつけられません。
ですから、いつもデリーはすばらしいお仕置きを考え出しては、魔法の罠をたくさん張って待っています。
子供達と知恵比べです
デリーの大切な子牛にペンキでいたずら書きをしようとした子供は、ペンキを子牛に塗ろうとした途端、牛柄に染まってしまいました。
デリーが影から見ていたにちがいありません。
子供は泣きながら、家に帰っていきました。
また、あるときは、デリーが大切に育てている野菜をもいで食べようとした子供が、デリーの畑に入った途端、野菜がいっせいに怖い顔をして怖い歌を歌い始めました。
デリーに見つかってしまったのに違いありません。
子供は泣きながら逃げていきました。
子供の中には、デリーの魔法が見たくていたずらしようとする子もいました。
デリーはそれを知ってか知らずか、必ず罠に魔法を使っていました。
子供で困るのはそれだけではありません。
小さくて、デリーのことをあまり知らない子供が
「おばあちゃん、遊んで」
と、まとわりついてきます。
「あっちへおいき」
と怒った声を出すと、子供が大泣きをして大変な目に会うので、いつも無視しています。
しかし、時々、しつこく裾をつかんで
「遊んで」
とせがむ子供にデリーは困ってしまいます。
何とか下手に泣かさずに子供から逃れようとするデリーの様を見て、昔何度もデリーの罠のお仕置きに泣いた大人達は笑います。
「おい、見ろよ。デリーが困ってるぜ。」
そんな風にデリーは村はずれに住んでいました。
小さなころ、おっかなびっくり一度はいたずらに入る、へんつくばばあの家。
それがデリーの家でした。
ある日のこと。
近くの町で大金が盗まれたため、村に犯人を探して警官がやってきました。
警官はデリーに目をつけました。
大金を盗むのに魔法が使われており、ここら辺で魔法が使えるのはデリーしかいなかったのです。
それにデリーの家はとても貧乏だったので、ほとぼりが冷めたら、そのお金を使って贅沢をするつもりにちがいないと警官は考えました。
警官は、デリーを捕まえ、牢屋に入れました。
「何すんだい。この大トンマ。私はあの家が気に入ってるんだよ。大金盗む理由がどこにあるんだい」
そう叫んでも警官は取り合ってくれません。
魔法封じのブレスをはめられたデリーは、冷たくて狭い牢屋に放り込まれてしまいました。
デリーは、牢屋の小さな窓から見える夜空を見上げながら、家に残してきた牛や鶏が心配になりました。
おなかが減っているだろうなあ。
デリーには、牛と鶏と畑が家族です。
とても大事に育ててきました。
しかし、このまま、長いこと牢屋にいて、世話をしなければみんな死んでしまうでしょう。
デリーは不安ともどかしさで、ダンダンと足を踏みならしました。
次の日、警察はびっくりしました。
デリーの村から、たくさんの抗議の電話と手紙が殺到したのです。
「あの、へんつくばばあが盗みなんかするはずがない」
皆が言葉を変え、口調を変えて訴えてきました。
「今は捜査中です。
無実が判明すれば、釈放しますから。」
警察は、何度も何度もこの言葉を繰り返さなくてはいけませんでした。
「おまえがやったんだろう。
魔法が使えるのがその証拠だ」
「ああ、本当にあんたは使えないね。ああ、いまいましい。
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「本当に口の減らないばばあだな」
警察とデリーがこの会話に飽きた頃、他の街で犯人が逮捕されました。
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デリーは、警察の玄関先で、ぺっと吐いたつばを魔法でえいっと飛ばしました。
つばは、一番しつこく取り調べをした警官の顔にぴぅと飛んでくっつきました。
警官は顔を真っ赤にして怒ったので、デリーは、もう少しで不敬罪として再逮捕されるところでした。
デリーは、怒っている姿に満足したかのようににやりと笑ってふいと警察署から消えてしまいました。
デリーが、顔を心配でくしゃくしゃにして、どうすることもできなかった家に向かいます。
牛や鶏は、まだ生きているだろうか?
よく見ると、家の前に人垣ができていました。
家の前に村人が総出で出迎えるために集まっていたのです。
「よかったね」
「よかったね」
デリーは苦しくなってうつむきました。
バカにされるのも、いじめられるのもデイリーは平気です。
相手を嫌いになればそれで済むからです。
おせっかいも平気です。
「あんたに施しを受けるほど、落ちぶれちゃいないよ。」
と跳ね除ければいいのです。
しかし、当然のように仲間として迎えられる。
これがデリーには一番つらいことでした。
相手が自分を好きでいてくれるからです。
デリーは、自分が嫌いだったので、好きになってくれる人が信じられなかったのです。
好きでいてくれる人にいつ嫌われるかとびくびくして暮らすより、周りに嫌われて安心して暮らしたかったのです。
「はいはい、そこどきな。わたしを家に入れておくれ」
デリーは、そそくさと家に入って行きました。
何かから逃げるように牛と鶏のいる家畜小屋へ行くと、元気な牛や鶏が出迎えてくれました。
よく見ると、きちんと世話をされた形跡があります。
村人達に違いありません。
「まったく、おせっかいなやつらだよ」
そうつぶやいて、何かをこらえるように口をへの字に曲げて横を向きました。
すると、窓から、数人の村人がのぞいているではありませんか。
口をへの字に曲げたデリーをニヤニヤと見ているようです。
デリーは、目を剥いて、小屋の中の熊手を持ち上げると窓に向かってぶんぶん振り回しました。
わあ、と叫んで村人達は消えていきます。
デリーは、こらえているものを吐き出さないようにつんと上を向きました。
それから何年も経ちました。
デリーはやっぱり意地悪です。
しかし、デリーの家にいたずらしようとする子供は後をたちません。
大人達は、温かい顔をしてデリーをからかいます。
時々など、わざとデリーに子供をけしかけたりします。
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