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50.絶対に確実に何があろうと逃がさない

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 さて、どうやって逃がそうかな。

 はっきり断言する。カリム君を連れ帰る気なんてもうない。いや、元々は連れ帰るつもりだった。こんなガキなんて、どうだって良かったからな。だけど、ほんの少しだけ事情が変わった。
 俺には目的がある。その目的の為にあらゆるものを利用してきた。俺にとって魔王という存在もその利用してきたものの中の一つに過ぎない。まあ、元々お互いに利用し合ってきた関係だ、状況が変われば従う意味も義理も無いのさ。
 それに、魔王がなぜあそこまで落ちぶれているのか意味が分からない。正直ガッカリしたよ、見損なった。だからこそ、今やろうとしている行動の方が有意義なんだ。

 あー話を戻すけど、適当にシエルちゃんに負ける演技して逃がせば良いと思ってる。ノイズになりそうなカリム君には、失血で確実に戦力外になってもらった。スムーズな引渡しが出来るだろうね。
 準備は整えたし、暇潰しに雑談でもしようかな。

「カリム君。知りたい事があれば質問を許可してあげる。知っている限り教えてあげるよ。」

「……あなたが僕の立場なら質問するような事を教えてくれ。」

 クソめんどくさい質問の仕方するなぁ。質問の仕方ってのを学校でちゃんとお勉強してないのか?
 いやぁ? 教えられる事は山ほどあるだろうけども。君が何を知っていて、何を知らないのか、分からないからわざわざ聞いたんだよこっちとしては。ったく……まあ、答えてやるか。

「お前の立場ならまず名前を聞くだろうな。そして俺の名前はビスクだ。呼び捨てでいいよ、覚悟さえあればね。あと、普通に質問しろ、回答に困るんだ。」

 ったく、近頃の若いやつは、質問の仕方すら知らないのか。

「魔王の正体について……。」

「ん……、その質問を答える為にはいくつか逆に質問しなければいけないな。君は学問についてどの分野に精通しているのかな? ある程度を学んでいれば、掻い摘んだ上で全て話せるんだけど。」

「学園に通ってないんだ、分からない。」

 学校に通ってなかったんだ。なんかデリケートかもしれないし、触れないであげよう。

「じゃあ詳しく教えるのは時間的に無理。ただ、ざっくりとなら教えてあげれる。かつて、数多もの世界を滅ぼしていた化け物だよ。現状は肉体を失っていて、新しい肉体を求めている何かとでも思っていればいい。」

 あいつは、死んだも同然だけどね。

「ビスクさんの弱点は?」

 馬鹿正直に敵に聞くなよ。答えるんだけどさ。

「目立った弱点とかは無いけど、大体は人間と同じかなぁ、すぐ再生ってだけでね。普通に攻撃をすればいつかは死ぬと思うかな。」

 まあ攻撃と言っても、斬撃なら山を割る程度はないと論外かなぁ。

「シエルキューテは何を考えている。」

「分からない。分からないと言うのが回答になる。」

「詳細に教えてください。」

「シエルちゃんの正体から話すよ。彼女は魔王の力の一部を切り離す事によって無から生み出された存在だ。注意として、全ての魔物がそういうような力を分けられたり、無から作られている訳じゃない。」

「……なるほど。シエルキューテにとって魔王は、親みたいなものと認識しとけばいいの?」

「親と子よりも尊大だ。関係的には、唯一神とその狂信者って所かな。狂信者って分かるよな? 自分の命よりも何よりも信仰を優先する頭のおかしな連中だ。ところが、シエルちゃんはその唯一神を裏切った。俺も流石に意味が分からないから、本人に聞いてくれ。」

 個人的に思うのは、これはシエルちゃん自身の成長だと考えている。反抗による自由意志の確立、魔王のお人形さんから意志を持つ生物へと進化した。そんな印象を受けるかな。それとも……いや、まあ、何にせよ、今後どのように成長するのか少し気になるけど、それはあくまで知的好奇心の範囲でしかない。興味はあるけど、邪魔になれば間違いなく消す。

「しかし、俺は残念だよカリム君。君にとっても残念なことだ。」

「何がですか?」

「俺は才能のあるやつが好きだ。鳥が羽を伸ばして空を飛ぶ光景が好きなんだよ。だけどね、このままシエルちゃんのお膝元に居たら、君は満足に飛べないだろうなぁと思ってさ。」

 ……ん。あれ、俺は馬鹿だな。シエルちゃんじゃカリム君のことを吸血鬼としてしか育てられない。だから、カリム君の才能は伸びない。だけど、俺ならば思う存分に大空へと羽ばたかせてやることも出来なくはない。
 レミィは出来損ないだったが、カリム君ならもしかしたら期待以上に育てられるのかも?

「あーカリム君、良い話と悪い話があるんだけど、どっちから聞く?」

「え? あー、じゃあ良い話を。」

「もう魔王のところになんて連れていかないし、毒は後で解毒でもなんでもしてやる。」

「……解毒は今じゃなくて後なんですか?」

「辛いのか? そんくらい男の子なんだから我慢しなさい。解毒は診察とか色々しなきゃだから今はやりたくないの。そんな面倒臭い事しなくとも、この毒作った張本人に解毒剤貰えばいいだけだしね。」 

「はぁ、それで悪い話とは?」

「君はもう、絶対に確実に何があろうと逃がさない。」

 腕を鷲掴む、絶対に離さないように。

「えっと……魔王の所には連れて行かないんですよね?」

「ああ、今までは魔王に頼まれての拉致だった。でも、ここからは俺が個人的に拉致する事にした。」

 人類根絶とかは効率悪いし、今回はのんびり弟子でも育ててみようかな。師匠って柄じゃないけど、そこは頑張るよ。何より、目的の為だ。

 ……ん? なんか、敵意剥き出しで一匹突っ込んで来ているな。シエルちゃんかな。

「カリム君、衝撃に備えな。危ないから離れんなよ。」

「分かりました、危ないので離してください。」

 殺気だだ漏れで一直線、やっとシエルちゃんが来るのか。正直ちょっとめんどくさいかなぁ。まぁ、来るなら殺す。
 どう攻めてくる? まあ、どう攻めて来ようと真正面から叩き潰す。小細工無しの……あれ?

 一瞬にして視界が奪われ、理解が遅れた。なんというか、寝ている所に水をぶっ掛けられた気分だ。それが視界に入った瞬間、やっと気が付いた。既に敵の間合いだったという事に。

「いやぁまさか君が動くとは。雑魚過ぎて見てなかったよ、カリム君。」
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