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48.懐かしい景色と空気

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 少しこの辺りの地理をおさらいしよう。ダンジョン周りに街が形成されていて、その街外れの森が現在地だ。僕がいた洞窟を森の深部だと仮定するならば、今は中部くらいかな。
 このまま何もしなくてもシエルキューテには会える。進路がまるっきり被っているからな。シエルキューテに会えばこの状況を変えてくれるだろう。ただ、それまでに問題が少しある。
 それは、今向かっている街には人が多いってことだ。それもダンジョン周りとなると腕の立つ荒くれ者が多い。シエルキューテと早く合流出来たらいいのだが、そう上手く行くかは不明だ。場合によっては時間稼ぎが必要だろう。というか必要だ。

 別に正面切って戦う訳じゃない、やりようはいくらでもある。なら足掻くだけ足掻こう。時間稼ぎ開始だ。 

「グッ……。」

 口の中に血を含み、それを咳のように吐き出す。吐血を演出。
 何が刺激するかは分からない。間違ってもこいつに吹きかけてはならない。細心の注意は払った。

「ん。大丈夫?」

「す…ケホッ。……すみません。」

 あからさまに体調が悪いのを演じる。いや実際に体調は悪いから演技ではなく誇張だな。

「んー、どうしたもんかね。」

「さっき、あなたが戦った人。多分ポーションか何かを……持ってる。…ので、それを……。」

 戻ってくれれば時間稼ぎにはなる。戻らなければ別の手を考えるだけだ。

「……まぁ、死なれるよりマシか。少し戻ろう。」

 ツイてるな。時間稼ぎ成功だよ。このままじっくり時間を稼ぐことにしよう。

「邪魔だから少し下ろすよ。」

「……え?」

 驚いた。
 目の前には、アダルベルトらしき者が倒れている。
 いや? 有り得ない、有り得ないだろこれは。さっきまで、全く別の場所に居たんだぞ。森の中部から深部までは歩いて数分とはいえそこそこの距離はある。まさかそれを一瞬で移動したのか? 考え事をしていて全く何も見ていなかった。いや、視界の端にすら動きを感じ取れなかった。いつの間にここまで移動したんだ?

「ねぇ、ポーションってこれかな? ……おーい、無視すんなよ。」

 いや、高速移動をすれば多かれ少なかれ風を感じるはずだ。それが感じれないはずが無い。
 そうか、根本から違うのか、……こいつは移動を行っていない。こいつがしたのは──

「──テレポートか。」

「おー半分正解。」

 いや、テレポートが使えるのならわざわざ歩いて運ぶ意味が……そうか、テレポートを使う為には条件が必要なんだ。ここにはテレポートと出来て、ダンジョンにはテレポートが出来ない理由がある。 そうとしか考えられない。

「カリム君さ、面と向かって駆け引きした事ないよね? 結構顔に出てるよ。時間稼ぎしたくて堪らないんだよね。そして、かなり焦ってもいる。初々しくて可愛いね。」

 ……見透かされてたのか。

「そう簡単に驚くなよ、顔に出すなって言ったのに。あ、怒ってないよ。ちょっと楽しんでる。そのまま無駄な足掻きを頑張ってくれ。」

「……ダンジョンにいきなりテレポートはしないんですね。」

「して欲しいならするけど……どうしよっかなぁ。」

 ?! 出来るのか……いや、騙されるな。出来ないんだ、そうに決まっている。出来るなら、今しない理由が分からない。
 それに、まだ終わってない。あいつの条件は生け捕りだ、殺されない筈だ。最悪、身を切る羽目になってももういい。会話でも口喧嘩でもなんでも時間稼ぎは遂行しないと僕の負けだ。

「アハハ。君の思ってる通りかな? テレポートには発動条件があるのさ。」

 出来ないのか……、良かった……。かなりビビったが、ネタが割れば大した事は無い。ダンジョンへのテレポートが無ければ脅威じゃない。

「ネタばらししてあげよう。テレポートは出来ない。出来るのは《次元転移トランスファー》さ。発動条件はたった一つだけ、それはね──」

 無駄に言葉を途切らせて引き伸ばしていやがる。こいつは、ただ僕の表情を楽しんでいるだけだ。こうやって焦らしてるだけで何も出来ない。どうせ発動条件も下らないような事を言って濁すに決まってる。

「──コンマ数秒だけ溜めがいるんだ。」

 瞬きよりも短い一瞬。
 そのたった一瞬で、

 ……やっぱり景色が変わっているし、空気も変わっている。

 湿っぽくかび臭い、この匂いはよく知っている。最近までよく吸っていた。いや、ここは、まさか……ダンジョンなのか……?

「一応言っとくけど、ここがゴールだよご苦労さん。」
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