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39.遊戯

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 ビスクの不意な要求に、路地裏の五人は困惑していた。

「はぁ、せめて殴り合えよ。…つまんないし、めんどくせぇから全員負けって事で良いかなぁ。」

 それを聞いた不良の一人が、目の色を変えて、気弱そうな青年に殴りかかろうとした。
 危険を察知した青年は、ポケットに片手を突っ込み、もう片手で口を覆い隠した。そして、音が漏れる。

「乱暴な真似は止めてくれ!…」

 青年の方からその音は鳴り、ブツリとその音は途切れた。
 それを見て聞いたビスクは、露骨にニヤつく。

「ほほー、面白いこと考えるなぁ。」

 不良達は、青年が言葉を発して負けたと思い込み。今度は仲間同士で見つめ合った。
 最初に動きを見せたのは、両腕を切断された不良だった。その不良は仲間には目もくれず、ビスクへと縋り付いた。

「こ、こんなのフェアじゃねぇよ。俺は両腕をあの女に斬り落とされたんだぞ。せ、せめて、ルールを変えてくれよ。そしたらお望み通りにゲームを──」

 言葉を最後まで聞かずに、ビスクは不良の首元に手刀を放ち、気絶させた。

「はい脱落。…ってあれ、今なんか言ってたっけ。…ま、いっか。」

 残った三人の不良達は血相を変える。ある者は恐怖に脅えるように、またある者は覚悟を決めたように。

 不良の一人が別の不良へと殴り掛かる。そして、三人目の不良も殴り合いに参戦し、間合いをはかり合う事すらも無いような、幼稚な乱戦が始まった。

「あー、喋れなくしたのはミスだなぁ。見てても超つまんないクソゲーだよこれ。…もっと、罵り合いとか見たかったなぁ。」

 隻腕になった不良が体制を崩して倒れ込む。そこへ透かさず、一人の不良は傷口を踏み付けて攻撃した。
 もう一人の不良は休憩がてら、それを様子見する。
 地団駄をするように、何度も傷口を踏み付けている。踏み付けられている不良は、最初こそ我慢していたが、次第に苦悶に表情を歪めていった。
 そして、堪らなくなったか口を開いた。

「…痛てぇ…痛てぇよ馬鹿! …あ。」

「はぁ、やっと二人目の脱落かよ。」

 気怠げに、ノロノロと脱落者に躙り寄るビスク。
 脱落者はそんなビスクを尻目に、踏み付けてきていた不良に愚痴を吐きつける。

「クソがぁあ!! 金魚の糞みてぇに俺の後ろで粋がってただけの雑魚共が!! 馬鹿みてぇにボコスカ蹴りやがって!! 言っとくが、テメェ等なんか両腕があったら、二対一でも余裕で──」

 ビスクは不良の髪の毛を掴み、地面に顔面を叩きつけた。

「脱落っと。…なんか、さっきまで飽きてたけど、ペラペラ喋ってるの面白かったなぁ。次からは皆にもやってもらおっと。」

 残った二人の喧嘩も始まった。が、正直、気になるのは勝ち負けだけで、見向きする価値は無さそうだ。

「ねぇねぇシエルちゃん。なんだかんだ君もこーゆーのノリノリだよね。…って、今話しかけちゃ駄目か。」

 退屈そうに、その喧嘩を眺めていると。一つの声が漏れた。

「…くっ。」

 鳩尾に綺麗に入ったようで、うっかり声を零したようだ。

「やっべ、見てなかった…。今喋ったんどっちの金魚の糞よ。」

「こ、こいつだ! 俺は勝った…。俺が勝ったんだ!」

 それを聞いたビスクは、あまりにも間抜け過ぎる不良を見て、吹き出した。

「アハハ! じゃあ残った不良君達は全員脱落って訳か。」

「は、はぁ? なんでだよ! 最後まで残ったら生かしてくれるって!」

「だからさ、最後まで残ってないじゃん。」

 そう言って、ビスクは青年を指さした。

「そもそも、脱落コールしなかった時点で疑問を持つべきなんだけど。馬鹿って面白いなぁ。
 まあいいや。そこの青年、ポケットの物を出しな。」

 言われるがまま、青年は何も言わずに言う通りに行動した。
 ポケットからは少し光った謎の石が出てきた。ビスクはそれを取り上げ、興味深そうに観察する。

「この石なんだろ…。見た事ないけど、これから音がなった気がするんだよなぁ。ちょっと使ってみてよ。」

 石を青年に返すと、石から音が鳴り始めた。

「乱暴な真似は止めてくれ! こんな事しても捕まるだけだよ。こんな路地に連れ込んで…」

「成程、録音した音をそのまま流す道具なのか。そんで強請の証拠として、念の為録音したのかな。仕組みはよく分からんが、人間は変わったもんを作るなぁ。…あーそういや、ゲーム中だった。負け組に罰を与えなきゃ…。」

 二人の不良は、突然の敗北を告げられ、呆気に取られていた。

「これから君達、自我のない吸血鬼になるんだけど。最後に何か言いたい事ある? 十秒だけあげるよ。」

 そんな言葉をストレートで投げられ、不良達それぞれの感情が剥き出しになった。

「お前なんかがあの餓鬼に目を付けなきゃこんな事にならなかったのによ! 責任取ってくれよ!」

「知らねぇよ…。意味分かんねぇ…なんで俺が…。え? 意味分かんねぇ…。夢だ…こんなの…夢に決まってる…。」

「くっそ! 吸血鬼なんかにされるくらいならよ! テメェ等化け物共全員、ぶっ殺し──」

 ビスクはまたまた気絶させた。

「ふぅ…このゲーム2点かな。総評でつまんなかったよ。そこの君はどう思う?」

 青年は質問されるが、何も答えない。

「おい。質問してんだぞ? 答えろよ。」

 語気を強め、荒々しく威圧しながらそう言った。しかし、青年は怯えながらも、目を瞑って何も答えようとしなかった。

「…正解だなぁ。ゲームはまだ続いてるし、シエルちゃんが黙ってる以上、君も喋っちゃいけない。ちゃんと分かってるね…。」

 青年は、そのまま無言で命乞いをした。
 何も言わずに潤んだ目と身体の動きだけで命乞いをした。

「アハハ、命乞いなんて、君賢いなぁ。全く、ルール一発で理解しすぎだよ。…まるで俺が今から、喋り出すまで殴るって分かってるみたいじゃん。」
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