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聞かれたくない過去
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アディーナは、ジルベスターに勧められるまま次々と食事を口にした。
確かにジルベスターが言うようにどれも美味しかったが、アディーナはさっきのアンネローゼの事が気になっていた。
ジルベスターに話すべきか迷っている。
最後にデザートが出てきた所で、私服姿の騎士が次々に店を出て行った。
休憩時間が終わったのだろうか。
──カランッカランッ
来店を知らせるベルが鳴ると、今度は年若い令嬢が数人入ってきた。
前日がダンスパーティーの翌日、ゆっくりと過ごしたかったのだろう。彼女たちは少し遅めのランチを楽しみながら噂話に花を咲かせていた。
「ねえ、あの話聞いた?」
「何の事?」
「ほら、昨日、例の転入生たちよ」
「それが…」
「実はね。シュポール伯爵令息の婚約者のマリーナ様から聞いたのだけれど、今日シャルロット様からお茶会に招待されたそうよ」
「まあ、羨ましいわ」
「でも、他にもアマンダ様もいるって言っていたから、きっとあの転入生の事なんじゃないかしら」
「じゃあ、アディーナ様は?」
「呼ばれていないんじゃないの?ほらあちらに居るから」
令嬢の一人がカウンターを指さして答えた。
「だって、私見たのよ」
「何を?」
「アディーナ様のコサージュをカイン様が断った所を…」
「えっ、それじゃあ本当にあの二人別れたの」
「そうみたい。でも振られた翌日に他の男性と一緒にダンスパーティーに参加するなんて、実はカイン様と付き合っていた時からジルベスター様ともお付き合いをしていたのかも」
「うそ!なら二股ってこと?」
「信じられない」
「誰からそんな話を聞いたのよ。貴女の勝手な想像だったら口にしない方がいいわよ。相手は侯爵令嬢よ」
「確かに身分は向こうが格上かもしれないけれど。直接当事者に聞いたのよ。あのアンネローゼに、彼女が言うには、カイン様はずっとアディーナ様と上手くいっていなくて、相談を受けていたんですって、そのうちアンネローゼと愛し合う様になって、カイン様が別れを切り出したの」
「何の相談なの?」
「なんでもアディーナ様が浮気をしているんじゃないかと疑っていたそうよ」
「でも、学園ではそんな様子はなかったでしょう。どちらかといえば、カイン様がアディーナ様を蔑にしていたような…」
「それは演技だそうよ。浮気しているアディーナ様と円満に別れられる様にって」
「でも、アンネローゼって子、第二王子殿下にも纏わりついていたじゃない」
「そうね。何かありそうね。だとしてもアディーナ様とカイン様が破局した事だけは確かよ」
「まあ、それなら私にもチャンスはあるんじゃない」
「そうよね。侯爵家の次男で第二王子殿下の側近候補。おまけに学園の5本の指に入る程の容姿を備えていらっしゃる。相手はよりどりみどりよ。ピンクの子豚さんには勿体ないわ」
「なあに、その呼び方」
「知らないの。アディーナ様って昔…」
ひそひそと囁きながら、アディーナの方をちらりと見て嗤っている。
アディーナには見覚えがあった。
彼女はデビュタントで、アディーナを『ピンクの子豚』と揶揄った一人であることに気付いた。
同じ学年でも、アディーナは経営科、淑女科の彼女達とは顔を会すことはあまりなかったから、今の今まで忘れていたのだ。
アディーナの顔色は見る見る青褪めていった。隣にいるジルベスターに聞かれたくない過去の苦い思い出。
唯一、カインだけはそんなアディーナを受け入れてくれた。
アンネローゼから聞いたという偽りの噂話を面白おかしく話している令嬢。
マリア・クラレンス子爵令嬢。
動揺して震えているアディーナの頭をポンポンと軽く叩くと、ジルベスターは席を立ってマリアたちの方に歩いて行った。
「何だか面白そうな話をしているね。俺も混ぜてくれないかな」
ジルベスターの微笑みにマリア達が頬を染めているが、ジルベスターの目は少しも笑っていなかった。
「さっきの話だけど、破局した傷心のアディーナに付け込んで交際を申し込んだのは俺だよ。それに彼女の身の潔白は誰よりも俺が知っている。ずっと見ていたからね。学科や校舎が違うのに根拠のない噂を口にすればどうなるか。君達だって分かっているだろう」
「でも、わたしは直接聞いたわ」
「そりゃ、不貞を働いた本人からすれば相手を悪者に仕立て上げようとするだろう。自分を正当化するためにな。あんなまともでない女のいう事を真に受けるなんて、随分と浅はかなんだな」
「そんなつもりは…」
マリアとその友人らは、顔色を悪くした。
確かにジルベスターが言うようにどれも美味しかったが、アディーナはさっきのアンネローゼの事が気になっていた。
ジルベスターに話すべきか迷っている。
最後にデザートが出てきた所で、私服姿の騎士が次々に店を出て行った。
休憩時間が終わったのだろうか。
──カランッカランッ
来店を知らせるベルが鳴ると、今度は年若い令嬢が数人入ってきた。
前日がダンスパーティーの翌日、ゆっくりと過ごしたかったのだろう。彼女たちは少し遅めのランチを楽しみながら噂話に花を咲かせていた。
「ねえ、あの話聞いた?」
「何の事?」
「ほら、昨日、例の転入生たちよ」
「それが…」
「実はね。シュポール伯爵令息の婚約者のマリーナ様から聞いたのだけれど、今日シャルロット様からお茶会に招待されたそうよ」
「まあ、羨ましいわ」
「でも、他にもアマンダ様もいるって言っていたから、きっとあの転入生の事なんじゃないかしら」
「じゃあ、アディーナ様は?」
「呼ばれていないんじゃないの?ほらあちらに居るから」
令嬢の一人がカウンターを指さして答えた。
「だって、私見たのよ」
「何を?」
「アディーナ様のコサージュをカイン様が断った所を…」
「えっ、それじゃあ本当にあの二人別れたの」
「そうみたい。でも振られた翌日に他の男性と一緒にダンスパーティーに参加するなんて、実はカイン様と付き合っていた時からジルベスター様ともお付き合いをしていたのかも」
「うそ!なら二股ってこと?」
「信じられない」
「誰からそんな話を聞いたのよ。貴女の勝手な想像だったら口にしない方がいいわよ。相手は侯爵令嬢よ」
「確かに身分は向こうが格上かもしれないけれど。直接当事者に聞いたのよ。あのアンネローゼに、彼女が言うには、カイン様はずっとアディーナ様と上手くいっていなくて、相談を受けていたんですって、そのうちアンネローゼと愛し合う様になって、カイン様が別れを切り出したの」
「何の相談なの?」
「なんでもアディーナ様が浮気をしているんじゃないかと疑っていたそうよ」
「でも、学園ではそんな様子はなかったでしょう。どちらかといえば、カイン様がアディーナ様を蔑にしていたような…」
「それは演技だそうよ。浮気しているアディーナ様と円満に別れられる様にって」
「でも、アンネローゼって子、第二王子殿下にも纏わりついていたじゃない」
「そうね。何かありそうね。だとしてもアディーナ様とカイン様が破局した事だけは確かよ」
「まあ、それなら私にもチャンスはあるんじゃない」
「そうよね。侯爵家の次男で第二王子殿下の側近候補。おまけに学園の5本の指に入る程の容姿を備えていらっしゃる。相手はよりどりみどりよ。ピンクの子豚さんには勿体ないわ」
「なあに、その呼び方」
「知らないの。アディーナ様って昔…」
ひそひそと囁きながら、アディーナの方をちらりと見て嗤っている。
アディーナには見覚えがあった。
彼女はデビュタントで、アディーナを『ピンクの子豚』と揶揄った一人であることに気付いた。
同じ学年でも、アディーナは経営科、淑女科の彼女達とは顔を会すことはあまりなかったから、今の今まで忘れていたのだ。
アディーナの顔色は見る見る青褪めていった。隣にいるジルベスターに聞かれたくない過去の苦い思い出。
唯一、カインだけはそんなアディーナを受け入れてくれた。
アンネローゼから聞いたという偽りの噂話を面白おかしく話している令嬢。
マリア・クラレンス子爵令嬢。
動揺して震えているアディーナの頭をポンポンと軽く叩くと、ジルベスターは席を立ってマリアたちの方に歩いて行った。
「何だか面白そうな話をしているね。俺も混ぜてくれないかな」
ジルベスターの微笑みにマリア達が頬を染めているが、ジルベスターの目は少しも笑っていなかった。
「さっきの話だけど、破局した傷心のアディーナに付け込んで交際を申し込んだのは俺だよ。それに彼女の身の潔白は誰よりも俺が知っている。ずっと見ていたからね。学科や校舎が違うのに根拠のない噂を口にすればどうなるか。君達だって分かっているだろう」
「でも、わたしは直接聞いたわ」
「そりゃ、不貞を働いた本人からすれば相手を悪者に仕立て上げようとするだろう。自分を正当化するためにな。あんなまともでない女のいう事を真に受けるなんて、随分と浅はかなんだな」
「そんなつもりは…」
マリアとその友人らは、顔色を悪くした。
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