【完結】旦那様、溺愛するのは程々にお願いします♥️仮面の令嬢が辺境伯に嫁いで、幸せになるまで

春野オカリナ

文字の大きさ
上 下
41 / 61

特別な呼び名

しおりを挟む
 静寂が駆け抜けるなかジョゼフィーネは、ふと思った。

 「あのエルリック様?ここは何処でしょう、何だか別世界の様な…」

 そう、ここには侍女も護衛もいない。最初は、曾祖母が内密な話をするために席を外させているのかと思ったが、不自然な程の静寂さ、風もなく、木漏れ日の位置も変わっていない。何の変化もないのだ。まるで時が止まったかの様な空間。

 「ああ、ここは絵画の中の世界だよ」

 その言葉にダンドーラ侯爵、クリーク公爵とジョゼフィーネは驚いた。だが、曾祖母は何の反応も示さなかった。当たり前の光景を楽しんでいる様にも見えた。

 「爺さんが婆さんに息抜きさせるために作った秘密の場所だよ」

 「秘密の場所?」

 「ある国に物に空間魔法を作る魔法使いがいるんだ。爺さんがその人に頼んで作ったもらった物だよ。他にも王宮には、婆さんの安全のための仕掛けがあちこちにあるよ。その一つが『秘密の花園』だよ」

 『秘密の花園』と呼ばれる場所は、かつて『ビクトリア女王』が子供達を密かに育てた場所である。腹心の侍女や護衛騎士しか立ち入れない不思議な場所だ。

 だが、今はない。エドワードが亡くなって空間は、閉ざされたのだ。

 「先程から、陛下に対して不敬な言葉を次々と」

 横から口を出したのは、クリーク公爵だった。

 「婆さんは、婆さんだよ。だって、爺さんの唯一だから、婆さんが望んだらこんなところにはいないさ。爺さんから聞いてないのか?」

 「何をじゃ?グレ…エドワードとはただの主従関係で何もない」

 「今、爺さんの呼び方を間違えたよね」

 「…」

 そのエルリックの言葉に皆、女王の表情が変わるのを見た。

 「どういうことですか?エルリック様」

 「つまり、爺さんは婆さんに自分の真名を教えてたんだよ。特別な人にしか教えない本当の名前をね。だから、爺さんの唯一なんだよ」

 「そんな話をしている場合では、ないだろう」

 『ビクトリア女王』は、話の矛先を折ろうとしたが、エルリックはそうさせなかった。

 「大事な話だよ。ジョゼフィーネにも関係しているし、ダンドーラ侯爵にも関わっているからな」

 エルリックは、真剣な顔をしている。

 「それは解ったが何故、ジョゼフィーネに本当の姿を見せない?ここへ来る時は本来の姿で来ると約束したはずであろう」

 (本来の姿?)

 「俺は、あの姿は好きじゃない」

 「子供みたいな事をぬかすな。いい年をした大人が」

 『ビクトリア女王』とエルリックのやりとりは、まるで本当の孫と祖母の様だとジョゼフィーネは感じていた。

 「私もエルリック様の本当の姿がみたいです」

 と口に出すと「ジョゼフィーネが言うなら」渋々ながら、変身術を解いていった。

 其処に現れた姿に

 「「お、お前…ディル・アン・グレイか?」」

 ダンドーラ侯爵とクリーク公爵が揃って声を上げた。

  【ディル・アン・グレイ】

 それは、史上最年少の魔導調査官として知られる『黒の魔導師』と呼ばれる人の名前だった。

 (どうやら、私の夫には、まだまだ秘密が多そうね)

 ジョゼフィーネは、心の中で呟いた。

 



 

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——?

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

不器用騎士様は記憶喪失の婚約者を逃がさない

かべうち右近
恋愛
「あなたみたいな人と、婚約したくなかった……!」 婚約者ヴィルヘルミーナにそう言われたルドガー。しかし、ツンツンなヴィルヘルミーナはそれからすぐに事故で記憶を失い、それまでとは打って変わって素直な可愛らしい令嬢に生まれ変わっていたーー。 もともとルドガーとヴィルヘルミーナは、顔を合わせればたびたび口喧嘩をする幼馴染同士だった。 ずっと好きな女などいないと思い込んでいたルドガーは、女性に人気で付き合いも広い。そんな彼は、悪友に指摘されて、ヴィルヘルミーナが好きなのだとやっと気付いた。 想いに気づいたとたんに、何の幸運か、親の意向によりとんとん拍子にヴィルヘルミーナとルドガーの婚約がまとまったものの、女たらしのルドガーに対してヴィルヘルミーナはツンツンだったのだ。 記憶を失ったヴィルヘルミーナには悪いが、今度こそ彼女を口説き落して円満結婚を目指し、ルドガーは彼女にアプローチを始める。しかし、元女誑しの不器用騎士は息を吸うようにステップをすっ飛ばしたアプローチばかりしてしまい…? 不器用騎士×元ツンデレ・今素直令嬢のラブコメです。 12/11追記 書籍版の配信に伴い、WEB連載版は取り下げております。 たくさんお読みいただきありがとうございました!

処理中です...