【完結】旦那様、溺愛するのは程々にお願いします♥️仮面の令嬢が辺境伯に嫁いで、幸せになるまで

春野オカリナ

文字の大きさ
上 下
39 / 61

夫婦の時間

しおりを挟む
 このガゼボは、特別な空間で出来ている。昔からエドワードとは、ここで会っていた。

 どれ程の権力を持っていようと、誰にでも老いはやって来る。妾も年をとった。鏡を見るたびにそう思う。

 夫が病に倒れた時、初めて夫婦水入らずの時間を過ごした。

 「…、マーガレット…か、すまないな。まだ政務があるだろう。我の看病など侍女に、任せれば良いのだ」

 「何を仰っているのです。もう私の口出しなど年寄りの冷や水ですよ」

 「そなたがか面白い冗談だ」
 
   他愛のない話をした。この夫とこんなやり取りが出来るようになるなんて、思っても見なかった。

 「我はもう永くない、そなたに謝らなければならない」

 「何をですか?」

 「実はそなたとの結婚を望んだのは我自身なのだ。ハウエル領を視察した時、街の復興に力を注いでいたそなたに心惹かれた。だから王命を使ってでも手に入れたかった」

 「何故、今更その様な事を仰るのです。もっと早くに言って頂けたら、私は…」

 結婚当初に知っていたから、どうなると云うのだろう。多少の歩み寄りはできたかも知れないが、私は私でしかない。所詮、砂上の楼閣に過ぎない。何れ破局するのだ。

 「私は、どうしたと?我を愛したと?そんな事にはならなかっただろう?そなたは貴族らしい貴族だから、普通の女とは違う。我が愚かだったのだ。若い頃はそんな事もわからなかった」

 夫は、何を云いたいのだろう?私にも人を愛する気持ちはあるのだ。何処までも自分本位な夫に半ば呆れていた。

 「そなたは、男の欲求の対象となる女ではなく『王の女』だったのだ。我ながら死に行く時になって漸く、その答えにたどり着くとは…」

 「私は、貴方の妻ですよ。何を仰っているのです」

 「違う。我の様な愚鈍な者にそなたは相応しくない。あの男ならそなたを幸せに出来ただろう。エドワード・ブラックボンドなら」

 私は、長年封じ込めた思いを見透かされている様な心地だった。

 「私とブラックボンド卿はその様な関係ではありませんし、あり得ません。あの男は亡くなった妻を心から愛しているのですから」

 「それも違う。あの男は、ずっとそなたの側にいた。もし、そなたが望んだなら我から奪って何処かに隠しただろう。そのくらいそなたに執着していた」

 「だとしても、もう過去の事です。どうにもならないのですから、お気にするのはお辞めください」

 もう遅いのだ。だって彼はもう一年前に亡くなっている。爵位は一人息子が継いでいるのだから。

 「さあ、お体に障ります。少しお休み下さい」

 結局、夫が何を云いたかったのか、私には伝わらなかった。

 もう遅い。私の大切な者は全て無くなった。

 父も兄も息子もそして、私の知己エドワードも皆いなくなった。時期、夫もあちらに逝くだろう。私も続く事になる。

 どう足掻いても元には戻れない。どれ程悔いても取り返しはつかない。時は戻せないのだから。

 夫は一週間後に亡くなった。息子が即位し、私は王太后となり、息子の摂政を務めた。まだ、引退はさせてくれない様だ。

 そして、私は、又肉親の情に苦しめられる事になる。
 

        
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——?

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

処理中です...