21 / 61
父と娘
しおりを挟む
ジョゼフィーネの額に口付けを一つ落として、エルリックは
「ジョゼフィーネも侯爵もお互いに話があるでしょうから、俺と宰相閣下は、別室にいます。何かあったら、声をかけてね。ジョー」
いつもと同じ表情で告げて、クリーク公爵と共にサロンを後にした。
後に残った二人は、何から話していいのか、戸惑っていた。思い空気の中、先に声を発したのは、ウィストンだった。
「ジョゼフィーネ、先に謝らせて欲しい。ヴィオレットと別れなければならなくなった時、君が彼女のお腹にいることは、誰も知らなかったんだ。もし、知っていたら、彼女を手放したりしなかった」
「……」
「私は、子供が作れない身体になったんだ。19年前にある毒を盛られて、生死をさ迷った時にね。だから、跡継ぎから外された。ダンドーラ公爵家は弟が継いでいる。クリーク公爵令嬢だったヴィオレットに辛い思いをさせたくなかった。今思えば、愚かな選択をしたと思うよ。私は馬鹿だった。」
「……」
「私は身体が回復すると騎士団を退職し、外交官の道に進むため、隣国への使節団に加わり、この国を離れた。彼女からは連絡がなかった。まあ、一方的に婚約を解消した相手に何も言うことはないだろう」
「何故、話し合いをされなかったのですか?」
「話し合いが出来る状態ではなかった。彼女には、私に毒を盛った嫌疑がかかっていたんだ。」
驚いたジョゼフィーネの顔色は蒼白になっていた。
「そ、そんな」
「違う、彼女じゃなかった。誤解だったんだ。彼女は、ヴィオレットは、毒に気づいて毒消しを飲ませたんだ。彼女の家は、代々、宰相を務めているから、毒にも耐久性があったし、知識もあった。だから私を助けられたんだ」
「では、誰が毒を…」
「私の家に入り込ませたメイドの仕業だった。ある人間から指示されてやったと」
「それは、誰です」
「第二王子派の侯爵家の者だった。当時、第一王子と第二王子の派閥争いがあって、第二王子が隣国へ婿入りしたので収まったと思われていた矢先だった。」
「第二王子派からすれば、私の家は代々外交官が多く、父も外務大臣だったから、父の差し金だと思われていた。実際は、第二王子からの申し出だった。彼は、国の行く末を案じて、王位継承権を手放したんだ」
「いつ、私の事を知ったのですか?」
「あれは君が3歳の頃、クリーク公爵家に遊びに来ていただろう。あの時、私もセドリックに用があって、偶然見かけたんだ。ジョゼフィーネ君は、僕の髪と瞳の色を持って生まれたんだ。だから、一目見て、私の子だと確信した」
「では、名乗り出なかったのは…」
「その時には、彼女はアンサンブル侯爵に嫁いでいた。取り戻すにしても私の当時の身分では、難しかったし、なによりヴィオレットとジョゼフィーネ、君達が幸せならそれでいいと思ってたんだ」
「でも実際は…」
「そう、君達は幸せではなかった。だから、私はこっそり会っていたんだ。クリーク公爵家で、彼女は一月に一度は必ず里帰りしていたから、セドリックに頼んだ。いつか君達を迎え入れる準備をしながらね。」
「でも、準備が出来た時には、ヴィオレットはこの世の人では亡くなった。私はまた、間に合わなかった。葬儀にさえ出られなかった」
淡々と語るウィストンには、いつもの快活さはなかった。
苦痛に充ちた表情からは、喪った恋人への後悔と懺悔しか感じられなかった。
ジョゼフィーネは、初めて対面する父に、なんと声を掛ければいいのか分からなかった。
「ジョゼフィーネも侯爵もお互いに話があるでしょうから、俺と宰相閣下は、別室にいます。何かあったら、声をかけてね。ジョー」
いつもと同じ表情で告げて、クリーク公爵と共にサロンを後にした。
後に残った二人は、何から話していいのか、戸惑っていた。思い空気の中、先に声を発したのは、ウィストンだった。
「ジョゼフィーネ、先に謝らせて欲しい。ヴィオレットと別れなければならなくなった時、君が彼女のお腹にいることは、誰も知らなかったんだ。もし、知っていたら、彼女を手放したりしなかった」
「……」
「私は、子供が作れない身体になったんだ。19年前にある毒を盛られて、生死をさ迷った時にね。だから、跡継ぎから外された。ダンドーラ公爵家は弟が継いでいる。クリーク公爵令嬢だったヴィオレットに辛い思いをさせたくなかった。今思えば、愚かな選択をしたと思うよ。私は馬鹿だった。」
「……」
「私は身体が回復すると騎士団を退職し、外交官の道に進むため、隣国への使節団に加わり、この国を離れた。彼女からは連絡がなかった。まあ、一方的に婚約を解消した相手に何も言うことはないだろう」
「何故、話し合いをされなかったのですか?」
「話し合いが出来る状態ではなかった。彼女には、私に毒を盛った嫌疑がかかっていたんだ。」
驚いたジョゼフィーネの顔色は蒼白になっていた。
「そ、そんな」
「違う、彼女じゃなかった。誤解だったんだ。彼女は、ヴィオレットは、毒に気づいて毒消しを飲ませたんだ。彼女の家は、代々、宰相を務めているから、毒にも耐久性があったし、知識もあった。だから私を助けられたんだ」
「では、誰が毒を…」
「私の家に入り込ませたメイドの仕業だった。ある人間から指示されてやったと」
「それは、誰です」
「第二王子派の侯爵家の者だった。当時、第一王子と第二王子の派閥争いがあって、第二王子が隣国へ婿入りしたので収まったと思われていた矢先だった。」
「第二王子派からすれば、私の家は代々外交官が多く、父も外務大臣だったから、父の差し金だと思われていた。実際は、第二王子からの申し出だった。彼は、国の行く末を案じて、王位継承権を手放したんだ」
「いつ、私の事を知ったのですか?」
「あれは君が3歳の頃、クリーク公爵家に遊びに来ていただろう。あの時、私もセドリックに用があって、偶然見かけたんだ。ジョゼフィーネ君は、僕の髪と瞳の色を持って生まれたんだ。だから、一目見て、私の子だと確信した」
「では、名乗り出なかったのは…」
「その時には、彼女はアンサンブル侯爵に嫁いでいた。取り戻すにしても私の当時の身分では、難しかったし、なによりヴィオレットとジョゼフィーネ、君達が幸せならそれでいいと思ってたんだ」
「でも実際は…」
「そう、君達は幸せではなかった。だから、私はこっそり会っていたんだ。クリーク公爵家で、彼女は一月に一度は必ず里帰りしていたから、セドリックに頼んだ。いつか君達を迎え入れる準備をしながらね。」
「でも、準備が出来た時には、ヴィオレットはこの世の人では亡くなった。私はまた、間に合わなかった。葬儀にさえ出られなかった」
淡々と語るウィストンには、いつもの快活さはなかった。
苦痛に充ちた表情からは、喪った恋人への後悔と懺悔しか感じられなかった。
ジョゼフィーネは、初めて対面する父に、なんと声を掛ければいいのか分からなかった。
12
お気に入りに追加
1,143
あなたにおすすめの小説

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる
マチバリ
恋愛
貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。
数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。
書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。
不器用騎士様は記憶喪失の婚約者を逃がさない
かべうち右近
恋愛
「あなたみたいな人と、婚約したくなかった……!」
婚約者ヴィルヘルミーナにそう言われたルドガー。しかし、ツンツンなヴィルヘルミーナはそれからすぐに事故で記憶を失い、それまでとは打って変わって素直な可愛らしい令嬢に生まれ変わっていたーー。
もともとルドガーとヴィルヘルミーナは、顔を合わせればたびたび口喧嘩をする幼馴染同士だった。
ずっと好きな女などいないと思い込んでいたルドガーは、女性に人気で付き合いも広い。そんな彼は、悪友に指摘されて、ヴィルヘルミーナが好きなのだとやっと気付いた。
想いに気づいたとたんに、何の幸運か、親の意向によりとんとん拍子にヴィルヘルミーナとルドガーの婚約がまとまったものの、女たらしのルドガーに対してヴィルヘルミーナはツンツンだったのだ。
記憶を失ったヴィルヘルミーナには悪いが、今度こそ彼女を口説き落して円満結婚を目指し、ルドガーは彼女にアプローチを始める。しかし、元女誑しの不器用騎士は息を吸うようにステップをすっ飛ばしたアプローチばかりしてしまい…?
不器用騎士×元ツンデレ・今素直令嬢のラブコメです。
12/11追記
書籍版の配信に伴い、WEB連載版は取り下げております。
たくさんお読みいただきありがとうございました!
最愛から2番目の恋
Mimi
恋愛
カリスレキアの第2王女ガートルードは、相手有責で婚約を破棄した。
彼女は醜女として有名であったが、それを厭う婚約者のクロスティア王国第1王子ユーシスに男娼を送り込まれて、ハニートラップを仕掛けられたのだった。
以前から婚約者の気持ちを知っていたガートルードが傷付く事は無かったが、周囲は彼女に気を遣う。
そんな折り、中央大陸で唯一の獣人の国、アストリッツァ国から婚姻の打診が届く。
王太子クラシオンとの、婚約ではなく一気に婚姻とは……
彼には最愛の番が居るのだが、その女性の身分が低いために正妃には出来ないらしい。
その事情から、醜女のガートルードをお飾りの妃にするつもりだと激怒する両親や兄姉を諌めて、クラシオンとの婚姻を決めたガートルードだった……
※ 『きみは、俺のただひとり~神様からのギフト』の番外編となります
ヒロインは本編では名前も出ない『カリスレキアの王女』と呼ばれるだけの設定のみで、本人は登場しておりません
ですが、本編終了後の話ですので、そちらの登場人物達の顔出しネタバレが有ります
所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜
しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。
高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。
しかし父は知らないのだ。
ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。
そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。
それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。
けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。
その相手はなんと辺境伯様で——。
なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。
彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。
それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。
天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。
壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる