15 / 61
ある男の懺悔
しおりを挟む
春の日溜まりの午後、貴族教会の墓地に一人の男が佇んでいた。手には、墓標に手向ける赤い薔薇と白い薔薇を持っていた。
墓標に薔薇など相応しくは無いだろうが、彼の思いが籠っていた。
ーーーー俺が彼女に初めて会ったのは、10歳の頃だった。
親友の妹として、紹介された5歳年下の彼女は、とても愛らしかった。
いつの頃だろう。彼女を一人の女性として意識し始めたのは…
多分、俺の中の矛盾な思いを理解してくれる唯一の存在だと感じたあの時からかも知れない。
俺の家は名門貴族で、祖母は王女だった。俺には、2歳年下の弟と5歳年下の妹がいた。妹は、同い年の彼女と仲が良かったので、よくお互いの家を行き来していた。
元々、祖母が王女なので、王宮にも連れていかれ、王子達ともよく一緒に遊んだものだった。
特に第一王子とは、同い年だった事もあり、親友のセドリックやアンドレらと共に過ごした。
学園の夏期休暇には、妹達も加わり、避暑地や、お互いの領地で楽しい一時を過ごした。
弟は、実直な堅物で、羽目をはずす俺は、両親に「兄より弟の方がよほど兄らしい」とよく叱られた。
優秀な弟がいるから、俺の事はどうでもいいだろう。と少し斜め上の考えで、あの頃は、生きていた。思えば餓鬼だったと今にして思う。
そんな時に、彼女は、「あなたと彼は違う人間だし、皆同じ人だったら気持ち悪いもの」と言って、側にいてくれた。
きっと俺の中では、この時から、彼女は『特別』だったんだ。
俺は、家が堅苦しくて、嫌だった。うちは、代々、外交官を多く輩出した家系で、俺もいずれは跡を継がなくてならなかった。
若かった俺は親の敷いたレールから少し外れたくて、半ば反抗的に学園を卒業した後、18歳で騎士団に入った。
彼女が14歳の時、王宮で開かれたデビュータントの年、妹のエスコートをして、王宮に入った俺は、彼女を見て何だか胸が高鳴った。
王族に挨拶し終えた彼女に声をかけられた時は、心臓がドキドキして、鼓動を彼女に聞かれはしないかと、焦っていた。
彼女とその日、一度だけ踊った。
彼女は、美しくなった。幼い少女は、いつの間にか麗しい乙女に変身を遂げ、淑女の階段を登り始めた。それ以後は、社交界の花と呼ばれ、密かに男達の話題になった。
彼女の周りには、いつも男が群がっていた。誰が彼女に選ばれるのか。常に男達の話題に上がる彼女に内心気が気でなかった。いつ、彼女を他の男に取られるかと。
まだ、第一王子の婚約者も決まっていなかったので、誰も彼女に申し込みが出来なかった。彼女も候補の一人だった。何処か安堵した自分がいた。
第一王子の婚約者が俺の妹に決まった。と王子から告げられた後、素早く両親に彼女と婚約したい旨を伝えた。
両親は、大喜びで、彼女の家に申し込みに行き、了承を得た。
元々、両家の交流は合ったので、直ぐに婚約は整った。
でも、彼女には叱られた。最初に自分の意思を確認しに来て欲しかったと言われ、求婚もしていない自分のヘタレ加減に愛想が尽きた。
彼女からしたら、無理やり家同士の婚約になったのだから、愛されていないと誤解があっても仕方がない。
恋愛経験も無かった俺は、妹に何を贈ったら女性は喜ぶのか、よく相談していた。
その内、俺の趣味は、変わっていると、親友から言われるはめになる。
俺からの贈り物を受け取る時の彼女は、いつも少し困った様な顔をして、次には「ありがとうございます。嬉しいですわ」と返してくれる、そんな彼女を心から愛しいと思えた。
でも、そんな幸福な時間は、長くは続かなかった。
19年前のあの焼けるような暑い日に全てが壊された。
今も何故、彼女をもっと信じなかったのだろう。
彼女を永遠に失う事になったあの事件!
俺は、今日も彼女【ヴィオレット・クリーク】の墓標の前で、懺悔をしている。
ーーー俺の永遠の愛を君に捧げるーーー
墓標に薔薇など相応しくは無いだろうが、彼の思いが籠っていた。
ーーーー俺が彼女に初めて会ったのは、10歳の頃だった。
親友の妹として、紹介された5歳年下の彼女は、とても愛らしかった。
いつの頃だろう。彼女を一人の女性として意識し始めたのは…
多分、俺の中の矛盾な思いを理解してくれる唯一の存在だと感じたあの時からかも知れない。
俺の家は名門貴族で、祖母は王女だった。俺には、2歳年下の弟と5歳年下の妹がいた。妹は、同い年の彼女と仲が良かったので、よくお互いの家を行き来していた。
元々、祖母が王女なので、王宮にも連れていかれ、王子達ともよく一緒に遊んだものだった。
特に第一王子とは、同い年だった事もあり、親友のセドリックやアンドレらと共に過ごした。
学園の夏期休暇には、妹達も加わり、避暑地や、お互いの領地で楽しい一時を過ごした。
弟は、実直な堅物で、羽目をはずす俺は、両親に「兄より弟の方がよほど兄らしい」とよく叱られた。
優秀な弟がいるから、俺の事はどうでもいいだろう。と少し斜め上の考えで、あの頃は、生きていた。思えば餓鬼だったと今にして思う。
そんな時に、彼女は、「あなたと彼は違う人間だし、皆同じ人だったら気持ち悪いもの」と言って、側にいてくれた。
きっと俺の中では、この時から、彼女は『特別』だったんだ。
俺は、家が堅苦しくて、嫌だった。うちは、代々、外交官を多く輩出した家系で、俺もいずれは跡を継がなくてならなかった。
若かった俺は親の敷いたレールから少し外れたくて、半ば反抗的に学園を卒業した後、18歳で騎士団に入った。
彼女が14歳の時、王宮で開かれたデビュータントの年、妹のエスコートをして、王宮に入った俺は、彼女を見て何だか胸が高鳴った。
王族に挨拶し終えた彼女に声をかけられた時は、心臓がドキドキして、鼓動を彼女に聞かれはしないかと、焦っていた。
彼女とその日、一度だけ踊った。
彼女は、美しくなった。幼い少女は、いつの間にか麗しい乙女に変身を遂げ、淑女の階段を登り始めた。それ以後は、社交界の花と呼ばれ、密かに男達の話題になった。
彼女の周りには、いつも男が群がっていた。誰が彼女に選ばれるのか。常に男達の話題に上がる彼女に内心気が気でなかった。いつ、彼女を他の男に取られるかと。
まだ、第一王子の婚約者も決まっていなかったので、誰も彼女に申し込みが出来なかった。彼女も候補の一人だった。何処か安堵した自分がいた。
第一王子の婚約者が俺の妹に決まった。と王子から告げられた後、素早く両親に彼女と婚約したい旨を伝えた。
両親は、大喜びで、彼女の家に申し込みに行き、了承を得た。
元々、両家の交流は合ったので、直ぐに婚約は整った。
でも、彼女には叱られた。最初に自分の意思を確認しに来て欲しかったと言われ、求婚もしていない自分のヘタレ加減に愛想が尽きた。
彼女からしたら、無理やり家同士の婚約になったのだから、愛されていないと誤解があっても仕方がない。
恋愛経験も無かった俺は、妹に何を贈ったら女性は喜ぶのか、よく相談していた。
その内、俺の趣味は、変わっていると、親友から言われるはめになる。
俺からの贈り物を受け取る時の彼女は、いつも少し困った様な顔をして、次には「ありがとうございます。嬉しいですわ」と返してくれる、そんな彼女を心から愛しいと思えた。
でも、そんな幸福な時間は、長くは続かなかった。
19年前のあの焼けるような暑い日に全てが壊された。
今も何故、彼女をもっと信じなかったのだろう。
彼女を永遠に失う事になったあの事件!
俺は、今日も彼女【ヴィオレット・クリーク】の墓標の前で、懺悔をしている。
ーーー俺の永遠の愛を君に捧げるーーー
9
お気に入りに追加
1,143
あなたにおすすめの小説

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる
マチバリ
恋愛
貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。
数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。
書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。
不器用騎士様は記憶喪失の婚約者を逃がさない
かべうち右近
恋愛
「あなたみたいな人と、婚約したくなかった……!」
婚約者ヴィルヘルミーナにそう言われたルドガー。しかし、ツンツンなヴィルヘルミーナはそれからすぐに事故で記憶を失い、それまでとは打って変わって素直な可愛らしい令嬢に生まれ変わっていたーー。
もともとルドガーとヴィルヘルミーナは、顔を合わせればたびたび口喧嘩をする幼馴染同士だった。
ずっと好きな女などいないと思い込んでいたルドガーは、女性に人気で付き合いも広い。そんな彼は、悪友に指摘されて、ヴィルヘルミーナが好きなのだとやっと気付いた。
想いに気づいたとたんに、何の幸運か、親の意向によりとんとん拍子にヴィルヘルミーナとルドガーの婚約がまとまったものの、女たらしのルドガーに対してヴィルヘルミーナはツンツンだったのだ。
記憶を失ったヴィルヘルミーナには悪いが、今度こそ彼女を口説き落して円満結婚を目指し、ルドガーは彼女にアプローチを始める。しかし、元女誑しの不器用騎士は息を吸うようにステップをすっ飛ばしたアプローチばかりしてしまい…?
不器用騎士×元ツンデレ・今素直令嬢のラブコメです。
12/11追記
書籍版の配信に伴い、WEB連載版は取り下げております。
たくさんお読みいただきありがとうございました!
最愛から2番目の恋
Mimi
恋愛
カリスレキアの第2王女ガートルードは、相手有責で婚約を破棄した。
彼女は醜女として有名であったが、それを厭う婚約者のクロスティア王国第1王子ユーシスに男娼を送り込まれて、ハニートラップを仕掛けられたのだった。
以前から婚約者の気持ちを知っていたガートルードが傷付く事は無かったが、周囲は彼女に気を遣う。
そんな折り、中央大陸で唯一の獣人の国、アストリッツァ国から婚姻の打診が届く。
王太子クラシオンとの、婚約ではなく一気に婚姻とは……
彼には最愛の番が居るのだが、その女性の身分が低いために正妃には出来ないらしい。
その事情から、醜女のガートルードをお飾りの妃にするつもりだと激怒する両親や兄姉を諌めて、クラシオンとの婚姻を決めたガートルードだった……
※ 『きみは、俺のただひとり~神様からのギフト』の番外編となります
ヒロインは本編では名前も出ない『カリスレキアの王女』と呼ばれるだけの設定のみで、本人は登場しておりません
ですが、本編終了後の話ですので、そちらの登場人物達の顔出しネタバレが有ります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる