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神託の聖女ミレイヤ
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この国には、「神託の聖女」と呼ばれる神子がいる。
5才から13才位までの彼女達は、神の声を人々に届ける事が使命なのだ。
ミレイヤは、その中でも「癒し」という治癒魔法が使える。ある程度の病気や怪我を直す事ができた彼女は、人々から「白銀の聖女様」と慕われていた。
聖女たちは年頃になると、王族に嫁ぐ事が定められていた。
神殿の孤児院で育ったミレイヤは祭壇に生ける生花を摘み取っていた。アストゥールは同じ孤児院で育った幼馴染。
一緒に花を摘んでいたアストゥールが指を切ってしまった。
「アス大丈夫?」
「大したことないよ」
「でも、そこから毒でも入ったら大変な事になったらいけないわ」
ミレイヤはアストゥールの指に手を当てて、「早く傷が治りますように」と願った。
ミレイヤの手から光が放たれ、アストゥールの傷は見る見るうちに消えてなくなった。近くを通っていた神官の一人がそれを目撃して、大神官に報告した。
神官達に呼ばれてミレイヤは、言われるままに判定の宝玉に手を翳し、「聖女」としての認定を受けたのだ。
次の日から、住まいを孤児院から神殿に移され、ミレイヤは俗世から切り離されて暮らす様になった。
アストゥールは、ミレイヤの傍に居たくて神殿の見習い神官として修業を積む毎日を送る事になった。
二人は、祭事があるとき以外は顔を会わす事はなかったが、それでもアストゥールはミレイヤの姿が視れるだけで安心していた。
そんなある時、王命でミレイヤは王太子となったコンラッドの婚約者に選ばれた。
神殿で多少の教育を施されてもミレイヤは孤児院出身の平民。
生まれを隠す事は出来ない。
王家が求めているのは、ミレイヤが持つ希少な治癒力だけ。その血を王家に取り込もうという魂胆が見え見えの婚約だった。
アストゥールは、ミレイヤに反対した。
平民と違って、貴族はいくつもの愛を持っている。何れ高貴な令嬢を妻にする王太子と結婚すれば、ミレイヤは捨てられるかもしれない。
ミレイヤが悲しむ姿をアストゥールは、見たくなかったのだ。
しかし、話は当事者の気持ちを置いてきぼりにどんどん先に進んでいき、ミレイヤも高位貴族の養女となってマナーや仕来たりを学んでいった。
ミレイヤが急遽、王太子の婚約者に選ばれた事で、ディミリーナは面目をなくした。
元々、コンラッドの婚約者には、ディミリーナが内定していて、正式な発表を待つのみとなっていたからだ。
当然、そんな令嬢に次の相手が中々見つかるはずもない。他の有力貴族の令息はすでに相手がいる。そんなところに破談したディミリーナを押し付ける訳にはいかない。
王家は考えた末に、ディミリーナを王太子の第二の夫人にすることを侯爵家と約定を交わした。
高位貴族に生まれ、王太子に嫁ぐように言われて育てられたディミリーナにとって、屈辱を味あわせられたのだ。
ディミリーナの憎しみや恨みの矛先は全てミレイヤに向かった。
事或る毎のにミレイヤを貶め、辱めたディミリーナは、王太子から完全に嫌われてしまう。
段々追い詰められたディミリーナは禁断の魔術「魂入れ替え」を行う事にしたのだ。
王太子妃となったミレイヤに謝罪したいという手紙で神殿におびき出し、ディミリーナはミレイヤの身体を乗っ取った。
階段から態と落ち、さもディミリーナに落とされた様に見せたのだ。
周りは普段の行いから誰一人として疑わなかった。
ただ一人アストゥールだけは、偶然見てしまったのだ。ミレイヤが自分で階段から落ちる姿を…。
あの優しいミレイヤが人を陥れるはずがない。アストゥールは入れ替わったという証拠を必死で探したが、見つかる前に、ディミリーナの姿をしたミレイヤは火炙りに処された。
他の神官の止めるのを聞かずに、アストゥールは、叫んでいた。「彼女が本物の聖女ミレイヤだ」としかし、その言葉を誰も聞こうとはしなかった。
処刑を見ようと集まった群衆の中には不治の病でミレイヤに直して貰った者や怪我で足を失くした者の足を生やした事もある。
その恩人であるミレイヤに誰もが「悪女」と罵声を浴びせ、石を投げつけている。
ミレイヤが燃え尽きた時、光が彼女の魂を迎えに来た。そして、真実を皆に知らしめたのだ。
本当の聖女をお前達が殺したのだと…。
ミレイヤは蘇った。過去に…やり直す機会を与えられた。
願いを使ったミレイヤは「銀色の髪」を失っていた。
どこにでもいる普通の少女になっていた。
だが、彼女の魂に刻まれている「癒し」の力は残っていた。
ミレイヤは、アストゥールと結婚して小さな薬屋を営んでいる。
その年、王太子は婚姻した。
パレード用の馬車で往来を通っていたコンラッドの隣には別の女性が王太子妃として座っている。
幸せそうに微笑みを浮かべている花嫁とは違って、コンラッドは誰かを探す様に民衆に視線を彷徨わせていた。
彼が探しているのはきっと「銀髪の女性」かつての妃だった者。
彼には見つけられない。彼は見分けられなかった。本当の聖女を…。
神は王家から自分の分身である娘を群衆の中に埋もれさせたのだ。
決して二度と失わせないように…。
ミレイヤは魂が光りに包まれた時、力の一部を使って、粉々になったある人物の魂を拾い集めた。
新しい生を生きているミレイヤのお腹の中には子供がいる。
夫アストゥールとの間に出来た子供だった。
ミレイヤはお腹の中の子供に話し掛ける。
──生まれるまで守ってあげるから…。あなたの魂が癒えるまで傍で見守ってあげるわ。きっと今度は幸せになれる。わたし達が愛情を持って育てるわ。だから安心して生まれてきてね。
何度も何度もそう話し掛けながら、生まれてくる子供に会う事を楽しみにしていた。
ミレイヤは、自分が聖女でなければディミリーナの居場所を奪う事はなかったのにと後悔していた。だからこれは彼女の償いなのだと思っている。
今ミレイヤの中にかつて悪女と呼ばれた人がいた。
その女性の名はディミリーナ。
今は何も知らずにミレイヤの中のゆりかごで眠っている。
いつか外に出て、今度こそは幸せを掴む為に…。
5才から13才位までの彼女達は、神の声を人々に届ける事が使命なのだ。
ミレイヤは、その中でも「癒し」という治癒魔法が使える。ある程度の病気や怪我を直す事ができた彼女は、人々から「白銀の聖女様」と慕われていた。
聖女たちは年頃になると、王族に嫁ぐ事が定められていた。
神殿の孤児院で育ったミレイヤは祭壇に生ける生花を摘み取っていた。アストゥールは同じ孤児院で育った幼馴染。
一緒に花を摘んでいたアストゥールが指を切ってしまった。
「アス大丈夫?」
「大したことないよ」
「でも、そこから毒でも入ったら大変な事になったらいけないわ」
ミレイヤはアストゥールの指に手を当てて、「早く傷が治りますように」と願った。
ミレイヤの手から光が放たれ、アストゥールの傷は見る見るうちに消えてなくなった。近くを通っていた神官の一人がそれを目撃して、大神官に報告した。
神官達に呼ばれてミレイヤは、言われるままに判定の宝玉に手を翳し、「聖女」としての認定を受けたのだ。
次の日から、住まいを孤児院から神殿に移され、ミレイヤは俗世から切り離されて暮らす様になった。
アストゥールは、ミレイヤの傍に居たくて神殿の見習い神官として修業を積む毎日を送る事になった。
二人は、祭事があるとき以外は顔を会わす事はなかったが、それでもアストゥールはミレイヤの姿が視れるだけで安心していた。
そんなある時、王命でミレイヤは王太子となったコンラッドの婚約者に選ばれた。
神殿で多少の教育を施されてもミレイヤは孤児院出身の平民。
生まれを隠す事は出来ない。
王家が求めているのは、ミレイヤが持つ希少な治癒力だけ。その血を王家に取り込もうという魂胆が見え見えの婚約だった。
アストゥールは、ミレイヤに反対した。
平民と違って、貴族はいくつもの愛を持っている。何れ高貴な令嬢を妻にする王太子と結婚すれば、ミレイヤは捨てられるかもしれない。
ミレイヤが悲しむ姿をアストゥールは、見たくなかったのだ。
しかし、話は当事者の気持ちを置いてきぼりにどんどん先に進んでいき、ミレイヤも高位貴族の養女となってマナーや仕来たりを学んでいった。
ミレイヤが急遽、王太子の婚約者に選ばれた事で、ディミリーナは面目をなくした。
元々、コンラッドの婚約者には、ディミリーナが内定していて、正式な発表を待つのみとなっていたからだ。
当然、そんな令嬢に次の相手が中々見つかるはずもない。他の有力貴族の令息はすでに相手がいる。そんなところに破談したディミリーナを押し付ける訳にはいかない。
王家は考えた末に、ディミリーナを王太子の第二の夫人にすることを侯爵家と約定を交わした。
高位貴族に生まれ、王太子に嫁ぐように言われて育てられたディミリーナにとって、屈辱を味あわせられたのだ。
ディミリーナの憎しみや恨みの矛先は全てミレイヤに向かった。
事或る毎のにミレイヤを貶め、辱めたディミリーナは、王太子から完全に嫌われてしまう。
段々追い詰められたディミリーナは禁断の魔術「魂入れ替え」を行う事にしたのだ。
王太子妃となったミレイヤに謝罪したいという手紙で神殿におびき出し、ディミリーナはミレイヤの身体を乗っ取った。
階段から態と落ち、さもディミリーナに落とされた様に見せたのだ。
周りは普段の行いから誰一人として疑わなかった。
ただ一人アストゥールだけは、偶然見てしまったのだ。ミレイヤが自分で階段から落ちる姿を…。
あの優しいミレイヤが人を陥れるはずがない。アストゥールは入れ替わったという証拠を必死で探したが、見つかる前に、ディミリーナの姿をしたミレイヤは火炙りに処された。
他の神官の止めるのを聞かずに、アストゥールは、叫んでいた。「彼女が本物の聖女ミレイヤだ」としかし、その言葉を誰も聞こうとはしなかった。
処刑を見ようと集まった群衆の中には不治の病でミレイヤに直して貰った者や怪我で足を失くした者の足を生やした事もある。
その恩人であるミレイヤに誰もが「悪女」と罵声を浴びせ、石を投げつけている。
ミレイヤが燃え尽きた時、光が彼女の魂を迎えに来た。そして、真実を皆に知らしめたのだ。
本当の聖女をお前達が殺したのだと…。
ミレイヤは蘇った。過去に…やり直す機会を与えられた。
願いを使ったミレイヤは「銀色の髪」を失っていた。
どこにでもいる普通の少女になっていた。
だが、彼女の魂に刻まれている「癒し」の力は残っていた。
ミレイヤは、アストゥールと結婚して小さな薬屋を営んでいる。
その年、王太子は婚姻した。
パレード用の馬車で往来を通っていたコンラッドの隣には別の女性が王太子妃として座っている。
幸せそうに微笑みを浮かべている花嫁とは違って、コンラッドは誰かを探す様に民衆に視線を彷徨わせていた。
彼が探しているのはきっと「銀髪の女性」かつての妃だった者。
彼には見つけられない。彼は見分けられなかった。本当の聖女を…。
神は王家から自分の分身である娘を群衆の中に埋もれさせたのだ。
決して二度と失わせないように…。
ミレイヤは魂が光りに包まれた時、力の一部を使って、粉々になったある人物の魂を拾い集めた。
新しい生を生きているミレイヤのお腹の中には子供がいる。
夫アストゥールとの間に出来た子供だった。
ミレイヤはお腹の中の子供に話し掛ける。
──生まれるまで守ってあげるから…。あなたの魂が癒えるまで傍で見守ってあげるわ。きっと今度は幸せになれる。わたし達が愛情を持って育てるわ。だから安心して生まれてきてね。
何度も何度もそう話し掛けながら、生まれてくる子供に会う事を楽しみにしていた。
ミレイヤは、自分が聖女でなければディミリーナの居場所を奪う事はなかったのにと後悔していた。だからこれは彼女の償いなのだと思っている。
今ミレイヤの中にかつて悪女と呼ばれた人がいた。
その女性の名はディミリーナ。
今は何も知らずにミレイヤの中のゆりかごで眠っている。
いつか外に出て、今度こそは幸せを掴む為に…。
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