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ロゼリーナ編

中編

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 翌日、エイバンに連れられて、カーネル国に向かった。

 「あのう、何故突然カーネル国に行くことにしたんですか?」

 馬車の中でエイバンは書物を読んでいた。涼しげな彼の姿を見ながら、私は躊躇いながら聞いてみた。

 「まあ、向こうにいる知り合いが面白いことになっているから来てごらんというので、物見遊山ついでで行こうかと思ってね。それに新婚旅行もしていないし、この際、まとめて休みを取るのもいいかなっと思ってね」

 なんとなくはぐらされている感が否めないが、本当の事は私には言わないだろうと察していた。

 馬車に揺られて丸一日経った夕暮れ時にやっと隣国に着いた。宿を取っているからと言われ、二人で宿に向かった。

 だが、私達が行った宿は到底、貴族が泊まるようなところではなく、平民の物凄く給料が低い人が利用しているようなところだった。

 「こ…ここですか……?」

 「そうだけど、何か問題が…?」

 問題があるかと聞かれれば何もかもが問題だらけだ。新婚旅行先の宿にしては、失礼だがボロい。古くなった壁紙は剥がれ、天井には蜘蛛の巣が張っている。外観だけでも中の様子が分かりそうなのに、中はまるでヘルハウスのような薄暗さ。これはもしかして、結婚式をボイコットした姉への意趣返しに私をさりげなく虐めている?

 そんな事を考えるに足りるほどの仕打ちのような気がした。

 結局、この人も姉を恨んでいたのに違いない。どうして、誰もかれも私にその罪を問うのだろう。本人に償わせればいいのに。

 私の心の叫びが聞こえたかのように、前を歩いていたエイバン様が私の方を振り向いた。いや、その視線を見ると正確には私の後ろを見ている。彼の視線を追うように私は後ろを振り向いた。
 
 そこにいたのは、姉カロリーナとラシュア様が立っていた。どうしてこんな所にいるのかと不思議に思っていたら、

 「やあ、君達。久しぶりだね。随分とこの国を騒がせてくれているようだね。おかげで王命で君たちを自国に連行しろと言われてね。それで来たんだが、どういう事なのか説明してくれるかな」

 美しい顔に満面の笑みを浮かべているが、目は笑っていない。これはかなり怒っている。私姿を見るや姉たちが口々に喋り出す。

 「ロゼリーナ、やっと探しに来たのね。なんてのろまな妹なの。もっと早く来なさいよ!昔っからほんと使えない子ね」

 「ああ、ロゼリーナ。僕が愚かだった。僕の真実の愛の相手はやっぱり君だったんだ。愛しているからもう一度やり直そう」

 二人が対照的な事を言っているが、私にはどうでも良かった。

 「何を勝手な事を言っているんだ。ロゼリーナは既に私の妻だから、軽々しく名前を呼ぶのをやめてくれ!」

 エイバン様が縋ろうとしているラシュア様の手を払いのけた。

 「あら、エイバン様。ロゼリーナよりも私の方が可愛いでしょう。離婚して、私と結婚してください。元々、結婚する予定だったんですから問題ないでしょう」

 「でもそれを放棄したのは君の方だ。それに最初から君には何の関心もなかったよ」

 「えっ???」

 男性から可愛いと褒められたことはあっても関心がないと言われたことのない姉はきょとんとしていた。頭の中に疑問符が浮かんでいるのが想像できる。

 段々、繁華街の中の宿屋の周りに人が集まり出したので、私達はひとまず中で話をすることになったのだ。

 

 
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