もう、あなたを愛することはないでしょう

春野オカリナ

文字の大きさ
上 下
48 / 48
第二章

オーウェスト侯爵家の双子

しおりを挟む
 オーウェスト侯爵領は帝都のすぐ北側に位置する。

 そして、慰問に訪れているクレージュ公爵領はその北にある為、オーウェスト侯爵領を通らなくてはいけない。

 帝都からクレージュ公爵領に行くにはどんなに急いでも2日はかかってしまう。それも最速で行けての話だ。

 ベアトリーチェ達のように未成年がいる場合はもっと日数がかかるので、ベアトリーチェは伯父のエドモンドに頼んで領屋敷に泊まらせてもらっていた。

 「すごいね…」

 唖然としてエントランスホールで大きな口を開けて、周りを見ているのはフェリシア。教育係のドナー侯爵夫人が見たら、「はしたないですよ。お行儀が悪い」といって叱られただろう。

 そのくらい、この屋敷は衝撃的だった。

 伯父が遺跡の発掘作業を喜んで行っていると聞いていたベアトリーチェでさえ、その光景に引き気味になった。

 「わあああーーーー助けてーーーー」

 巨大なゴーレムに追われているのは、ベアトリーチェの従弟達だった。今年7才になる彼らは腕白小僧で、悪戯好きな性格が災いして、何かやらしたようだ。

 追われている彼らを横目に平常運転で、ベアトリーチェ達を案内する家令は、いつものことなので気にする様子もない。

 それでも赤の他人のフェリシアがいることを気まずく感じたのか、使用人らに指示を出してゴーレムを止めに行かせた。

 「いつ来ても面白いものがあるね」

 そういうフェリシアにベアトリーチェも同意する。

 「なんだか増えたみたいね」

 最近、見つかった新しい遺跡の発掘作業に関わった伯父は、様々な珍しい発掘品を持ち帰った様で、エントランスホールにも無造作に積み上げられている。

 「ごめんなさいね。散らかっていて驚いたでしょう」

 そう言っていつもの様に細い目を更に細めて困り顔で、ベアトリーチェ達に声をかけて来たのは、義伯母のディラン様。

 「あなたたち、こっちに来てお客様に挨拶なさい」

 と双子の息子を呼び付けた。

 双子は、フェリシアを見た途端、頬を赤く染めながら、モジモジと挨拶する。

 「は…はじめまして、僕の名前はアランです」

 「は…はじめまして、俺の名前はアースです」

 「はじめまして、私の名前はフェリシアよ。シアと呼んでいいわよ」

 フェリシアは気前よく初対面の双子に愛称呼びを許可した。

 双子は、ベアトリーチェが隣に居る事にも気付かない程、フェリシアを凝視している。

 フェリシアの容姿は控えめに言っても美少女。黄金色の髪に青い瞳を持っているフェリシアは、童話の世界のお姫様がそのまま抜け出た様な美しさを持っていた。

 王女なので本当のお姫様なのだが…。

 ベアトリーチェは、コホンと咳払いをして、

 「あなたたち、わたしには挨拶はないのかしら」
 
 と言うと、

 「も…もちろん、こんにちは、ベティ姉さま」

 「へへ…ごめん。拗ねないで、忘れていたわけではないから許してね。いらっしゃい、ベティ姉さま」

 「いいわよ。別に怒ってないわ。それに拗ねてもいないわよ」

 友人としてフェリシアに好意を向けられる事は今迄にも多々あったから、ベアトリーチェはその事に対しては気にしていない。

 だが、時折フェリシアの容姿と比べられて、カラスの様な髪だと言われる事の方が辛かった。

 父レオンハルトの純粋な青みがかった黒髪とは違って、呪われて銀色の髪を失ったベアトリーチェの髪は闇の様な色の黒。

 それに、オーウェストの伯父や母そして従弟の髪は全員銀色で、黒い髪のベアトリーチェがオーウェスト家の血を引いていると聞いた貴族の反応は皆、同じだった。

 好奇の目を向けられることが多かった。

 「で、さっきは何してゴーレムに追いかけられていたの?」

 「あ…それは…」

 「それはですね。お客様にお出しする御茶菓子を摘み食いされたので、叫びの門に手を入れてもらったのですよ。ベアトリーチェお嬢様」

 「嘘をついたから、ゴーレムに追いかけられたってわけね」

 「ふーーん、そうなんだ」

 フェリシアに嘘をついてお仕置きをされている姿を見られて恥ずかしいのか、双子は明後日の方向を見ながら、頬をポリポリと掻いていた。

 「取り敢えず、荷物を部屋に運びましょう」

 とディランが使用人達に指示を出すと二人のトランクを持って、部屋まで案内してくれた。

 案内された部屋は、なんともいえない乙女チックなもので溢れている。

 全て、レースやリボンやフリルがふんだんに使われており、大公家の自室とはちがって、女の子用の部屋だ。

 いつ通されても落ち着かないなあとベアトリーチェは思っていたが、可愛い物好きのフェリシアの喜ぶ顔を見ると、ついつい顔が綻んでくる。

 フェリシアがいいならいいかな。

 とベアトリーチェは思い直した。

 義理の伯母であるディランは、エドモンドとは同年代で、政略結婚。

 子供も2人しか生まないと宣言した通り、双子を産むとお役御免とばかりに商会の仕事に精を出している。

 サバサバとした性格だが、子供は女の子が欲しかったようで、ベアトリーチェが来る度に、ピンク一色のこの部屋を使わせる。

 実の娘の様に可愛がってもらっているベアトリーチェも、部屋の内装が気に入らないとは言えない。できればまだ残してある母の部屋を貸して欲しいのだが。

 リリエンヌとベアトリーチェの好みがよく似ているので、部屋もベアトリーチェ好みだという事はよく分かっている。

 フェリシアが、この部屋を気に入ったなら、自分は母のはやを借りたいと言おうとしたが、「一緒にいて」というフェリシアの可愛らしいお願いに、負けたのだった。


しおりを挟む
感想 35

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(35件)

アルフォンソ

ウーン(´・ω・`)
回帰前、回帰後どちらでも良いんですがベアトリーチェ✨淑女(レディ)教育頑張りましょうねぇ〜レイノルドのパートナーには2度と成らない!故郷に帰って直ぐ婚約社交じゃ!王族の集まり国内だけなら。外交は皇帝や王様がすれば良いさ。或いは王弟が挨拶のみ。他国の王様から頼まれても知らんと突っぱねよう(๑ ́ᄇ`๑)テヘヘベアトリーチェ今後は大人に成る迄国内のみ活動ジャー(`・ω・´)Yes!

解除
koron
2024.02.24 koron

ベアトリーチェは未来を知っているのに、何故に前回の敵や問題ある人物に警戒しないのだろう?
今回はまだおこってないとか甘えた事を言ってると、また足元掬われるよ?
なんかもっかいくらい痛い目あって回帰しないと駄目なんじゃないかと思う
心配しすぎて読むのが辛いわ
作者様、もう少しベアトリーチェに思慮深さと疑い深さと狡猾さを与えて下さいー
でもそうなると天使じゃなくて小悪魔になるかもしれないけれど

解除
太真
2024.02.23 太真

現れた光の聖霊・未来を語ったのに大人な考えに囚われて後手にまわった⁉️ヽ(´Д`;≡;´Д`)丿アワアワアワ。

解除

あなたにおすすめの小説

わたしにはもうこの子がいるので、いまさら愛してもらわなくても結構です。

ふまさ
恋愛
 伯爵令嬢のリネットは、婚約者のハワードを、盲目的に愛していた。友人に、他の令嬢と親しげに歩いていたと言われても信じず、暴言を吐かれても、彼は子どものように純粋無垢だから仕方ないと自分を納得させていた。  けれど。 「──なんか、こうして改めて見ると猿みたいだし、不細工だなあ。本当に、ぼくときみの子?」  他でもない。二人の子ども──ルシアンへの暴言をきっかけに、ハワードへの絶対的な愛が、リネットの中で確かに崩れていく音がした。

ご自慢の聖女がいるのだから、私は失礼しますわ

ネコ
恋愛
伯爵令嬢ユリアは、幼い頃から第二王子アレクサンドルの婚約者。だが、留学から戻ってきたアレクサンドルは「聖女が僕の真実の花嫁だ」と堂々宣言。周囲は“奇跡の力を持つ聖女”と王子の恋を応援し、ユリアを貶める噂まで広まった。婚約者の座を奪われるより先に、ユリアは自分から破棄を申し出る。「お好きにどうぞ。もう私には関係ありません」そう言った途端、王宮では聖女の力が何かとおかしな騒ぎを起こし始めるのだった。

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

隠れ蓑婚約者 ~了解です。貴方が王女殿下に相応しい地位を得るまで、ご協力申し上げます~

夏笆(なつは)
恋愛
 ロブレス侯爵家のフィロメナの婚約者は、魔法騎士としてその名を馳せる公爵家の三男ベルトラン・カルビノ。  ふたりの婚約が整ってすぐ、フィロメナは王女マリルーより、自身とベルトランは昔からの恋仲だと打ち明けられる。 『ベルトランはね、あたくしに相応しい爵位を得ようと必死なのよ。でも時間がかかるでしょう?だからその間、隠れ蓑としての婚約者、よろしくね』  可愛い見た目に反するフィロメナを貶める言葉に衝撃を受けるも、フィロメナはベルトランにも確認をしようとして、機先を制するように『マリルー王女の警護があるので、君と夜会に行くことは出来ない。今後についても、マリルー王女の警護を優先する』と言われてしまう。  更に『俺が同行できない夜会には、出席しないでくれ』と言われ、その後に王女マリルーより『ベルトランがごめんなさいね。夜会で貴女と遭遇してしまったら、あたくしの気持ちが落ち着かないだろうって配慮なの』と聞かされ、自由にしようと決意する。 『俺が同行出来ない夜会には、出席しないでくれと言った』 『そんなのいつもじゃない!そんなことしていたら、若さが逃げちゃうわ!』  夜会の出席を巡ってベルトランと口論になるも、フィロメナにはどうしても夜会に行きたい理由があった。  それは、ベルトランと婚約破棄をしてもひとりで生きていけるよう、靴の事業を広めること。  そんな折、フィロメナは、ベルトランから、魔法騎士の特別訓練を受けることになったと聞かされる。  期間は一年。  厳しくはあるが、訓練を修了すればベルトランは伯爵位を得ることが出来、王女との婚姻も可能となる。  つまり、その時に婚約破棄されると理解したフィロメナは、会うことも出来ないと言われた訓練中の一年で、何とか自立しようと努力していくのだが、そもそもすべてがすれ違っていた・・・・・。  この物語は、互いにひと目で恋に落ちた筈のふたりが、言葉足らずや誤解、曲解を繰り返すうちに、とんでもないすれ違いを引き起こす、魔法騎士や魔獣も出て来るファンタジーです。  あらすじの内容と実際のお話では、順序が一致しない場合があります。    小説家になろうでも、掲載しています。 Hotランキング1位、ありがとうございます。

公爵令息は妹を選ぶらしいので私は旅に出ます

ネコ
恋愛
公爵令息ラウルの婚約者だったエリンは、なぜかいつも“愛らしい妹”に優先順位を奪われていた。正当な抗議も「ただの嫉妬だろう」と取り合われず、遂に婚約破棄へ。放り出されても涙は出ない。ならば持ち前の治癒魔法を活かして自由に生きよう――そう決めたエリンの旅立ち先で、運命は大きく動き出す。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

本日より他人として生きさせていただきます

ネコ
恋愛
伯爵令嬢のアルマは、愛のない婚約者レオナードに尽くし続けてきた。しかし、彼の隣にはいつも「運命の相手」を自称する美女の姿が。家族も周囲もレオナードの一方的なわがままを容認するばかり。ある夜会で二人の逢瀬を目撃したアルマは、今さら怒る気力も失せてしまう。「それなら私は他人として過ごしましょう」そう告げて婚約破棄に踏み切る。だが、彼女が去った瞬間からレオナードの人生には不穏なほつれが生じ始めるのだった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。