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第一章
似たもの母娘
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リリエンヌと話をしていると、ベアトリーチェの瞼が薄らと開いた。
愛しい娘は真っ先に妻の顔を認識して安堵の色を表情にした。
「お…お母様」
か細い声が母親に届くと母親は、包み込むように抱きしめた。
誰が信じるだろうか。この美しい女性が『愛』というものを知らない等という事を…。
恐らく、自身気付いていないだけで、その全ての愛情は兄エドモンドを除いて注いでいるのはベアトリーチェのみだろう。
レオンハルトにさえ、その感情を向けたことはないのかもしれない。
原因は単純に家庭問題にあった。
リリエンヌの生家オーウェスト家は代々優秀な精霊師を生み出す、希少価値の高い血筋。
彼女の両親も恋愛結婚だった。だから、幼い頃はきっと自分も両親のように愛する人を見つけて幸せな結婚をする者だと信じていた。
その考えを改めさせられたのは、彼女の両親の離婚が原因なのだ。
リリエンヌとエドモンドは父親似だったが、青く美しい宝石の様な瞳は母親譲り。
彼女が5才になる前に、母親は壊れた。
父親が別の女性を愛していると疑い、段々と行動も常軌を逸したものになっていき、とうとう大きな喧嘩をして、結局母親は修道院に収監されるほどの刃傷沙汰を起こした。
父親が懇意にしている女性に刃物を付きたてて、怪我を負わせようとしたのだ。その女性を庇って父親が怪我をした。
この醜聞によって、オーウェスト家は大変な名誉を傷つけられた。貴族の世界の名誉は黄金に似た価値ある物。
それが失墜した事によって、落ちぶれて行った生家。
叔父の放蕩ぶりが更なる拍車をかけて、リリエンヌ達は貧しい子供時代を送ることになった。いくら血筋が良くても醜聞は貴族社会では嫌煙されるもの。
二人はこの時に『愛』というものが、『憎しみ』というものに変わる瞬間を間近に見てしまった。
だから、結婚に愚かな願望等抱くことはなかった。
リリエンヌの生い立ちがそうでなければ、ベンジャミンが示した契約結婚を受け入れるはずがない。
レオンハルトの時もあの状況でなければもしかしたら、ベアトリーチェは永久に産まれて来れなかったかもしれないのだ。
レオンハルトにとって、リリエンヌは特別な女性。
最初は友人の妹という認識程度だったが、あの日、レオンハルトが賢者フロイトを師匠に仰いだ日にあの場所にリリエンヌが居なければ、今のレオンハルトは存在しなかっただろう。
そう考えれば、レオンハルトは彼女を罠にかけた愚かな女に感謝したいぐらいだ。
レオンハルトは自分に訪れた幸運に感謝した。
──リリエンヌ・オーウェストを手に入れるという幸運を…
母子はやはり血の繋がりを感じされる程、何もかも似ている。
姿形だけではなく、その生い立ちまで…。
「ベティ、どこか痛くない?欲しい物はあるかしら」
優しく娘を気遣う理想の母の姿に、レオンハルトは、リリエンヌの感情に欠陥があることをベアトリーチェが一生気付かない事を祈っていた。
愛しい娘は真っ先に妻の顔を認識して安堵の色を表情にした。
「お…お母様」
か細い声が母親に届くと母親は、包み込むように抱きしめた。
誰が信じるだろうか。この美しい女性が『愛』というものを知らない等という事を…。
恐らく、自身気付いていないだけで、その全ての愛情は兄エドモンドを除いて注いでいるのはベアトリーチェのみだろう。
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最初は友人の妹という認識程度だったが、あの日、レオンハルトが賢者フロイトを師匠に仰いだ日にあの場所にリリエンヌが居なければ、今のレオンハルトは存在しなかっただろう。
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