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第一章
現れた光の精霊
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レイノルドは呟いた。
「レーテ」
すると眩い光がレイノルドを包むと、背後から透ける様な白い肌と長い黄金の髪を持った少女が現れた。
「精霊…?」
「そうです。陛下、彼女が僕と契約した精霊です」
レーテは、嬉しそうに部屋中を飛び廻り、フェリシアの後ろからノアを引っ張り出すと、二人は抱擁し、やがて廻りながら霧散した。
「消滅したのか?」
「いいえ、陛下。二人はどうやら対の存在だったようです」
「対…とは?」
「精霊には性別がありません。ですが今見たとおり外見は、人の性別に似せています。精霊の対とは、同じ時に精霊の木から生まれた双子のようなもので、お互いが無くてはならない存在なのです」
「双子…」
「そうです。人間の双子のように一方が弱ったり死んだりすると、もう片方にも影響がでるのです。特に光と闇は絆が強く、どちらかが消滅してしまうと、もう片方は狂ってしまい最後はやはり消滅してしまいます。当然、契約者にも影響します」
「ならば、どうすればよい」
「フェリシア王女様も、レイノルド王太子殿下も年若く、まだ正式な精霊師ではありません。精霊の力を上手く制御できるよう訓練が必要です」
「どのくらいかかる」
「それは人それぞれですが…よろしければ、フロンティアに留学していかがでしょう。我が国には精霊師が大勢いますし、また魔法魔術学園がありますから、お二人のお役に立てるのではないでしょうか」
「うむ考えて見よう。しかし、それまでにある程度の制御が出来れば…」
「レイノルド王太子殿下は4才で契約なさいましたが、これまで何か変わった事が無ければ、ご自分で制御で来ておられるのではないでしょうか」
「ならば、フェリシアは」
「残念ながら、王女様は非常に危険な状態です。魅了の術が洩れております。このままでは、国中を巻き込み混乱が生じるかもしれません」
「そうか、では大公がフロンティアに帰国する際、王女も一緒に連れて行ってはもらえまいか。その方が王女の安全の為にもよいだろう」
「陛下がそうお望みなら、大公家でお預かりいたします」
国王とレオンハルトのやり取りを見てレイノルドが、
「それでは、フェリシアに会えないのですか?」
「殿下、これきりという訳ではありません。数年の間です。それに殿下自身もフロンティアに留学なさるべきです。我が国の技術や魔術を身に付けられてはいかがですか?」
「陛下…僕もいつか留学できれば」
「そうだな。15才では…」
「陛下、我が国では13才から魔術を学んでおります。殿下がその年になれば迎えの者を寄越しましょうか?」
「ならば、そうするがよい。留学している間の公務は余と王妃らで行うことにする」
ジルベスターは、レイノルドにそう告げた。
ベアトリーチェの心は複雑だった。
フロンティアに行くのなら、これでレイノルドとの縁は切れると思ったからだ。
よく考えれば、今のレイノルドは出会ったばかりで、これから起きることはまだ先の事だ。なるべく関わらなければ回帰前の様なことは起きないだろうと思っていた。
父レオンハルトにベアトリーチェは不満を顕にした。
昨日、回帰前の話をしたのに、どうしてレイノルドと関わらせようとするのか分からない。あんな思いは二度としたくないのにと憤慨していた。
レオンハルトもベアトリーチェの気持ちが理解できるが、まだ何もしていないレイノルドを放置するのも魔術師としての性が許さない。
優秀な精霊師はどの国にも貴重な存在なのだ。しかも4才で誰にも知られず、やり過ごしていたレイノルドの才能に興味が湧いたことも事実である。
それをベアトリーチェに話すと嫌われると思っているレオンハルトは、黙っている事にした。
どちらにしても、この国に漂う妙な気配から未来ある子供達を守りたいというのがレオンハルトの本音だった。しかも王宮に着いた時から、何か恐ろしい何かの気配を察知していた。
それはこの間よりもずっと強く感じられたのだ。
ベアトリーチェは、取り合えずチェスター公爵家から出て、これから向かう本当の国の事の方に意識を向けるよう努力した。
レオンハルトとベアトリーチェは部屋を後にし、王宮の回廊を歩いている。
後ろから、
「待って、ベアトリーチェ嬢」
レイノルドに声を掛けられ、立ち止まって振り返った。
何か言いたそうにレイノルドは、ベアトリーチェの方を見た。
「俺は少し離れているよ。きっと話があるんだろう。聞くだけ聞いてごらん」
レオンハルトにそう言われ、ベアトリーチェは嘆息した。
「何かご用でしょうか。王太子殿下」
ベアトリーチェの威圧的な言葉に一瞬怯んだが、レイノルドは気を取り直して、
「聞きたい事があるんだ。本当に君はベアトリーチェ嬢なの?」
おかしな事を聞いている自覚はレイノルドにもあった。だが、一月前のベアトリーチェと今のベアトリーチェは別人の様に感じる。
お茶会で見せたような微笑みを自分に向けてくれなくなったベアトリーチェに奇妙な違和感を感じていたのだ。
今のベアトリーチェは、子供らしさがなく、急に大人の淑女が見せるような仕草、何よりあのレイノルドに向けられた微笑みが消えていた。
ただの妄想だと笑い飛ばせるほど、少しの変化などではなく。まるで、大人の女性を相手にしている様な感覚。
目の前にいる少女は10才とは到底思えない。
遠くに行ってしまった様な不安な気持ちを隠して、レイノルドはベアトリーチェの返事を待った。
「わたしでなければ、わたしは誰なんでしょうか?」
ベアトリーチェは冷たい眼差しをレイノルドに向けて答えた。
「確かに見た目は、ベアトリーチェ嬢だよ。でも僕がお茶会で会った君とは別人の様だから」
別人と言えばそうなのだろう。今のベアトリーチェは、一度死んで回帰したのだから、中身は21才で死んだ時のままなのだ。
記憶をもっているベアトリーチェを別人のようだと疑うレイノルド。
今までわたしのことなど気にかけなかった癖に…。
ベアトリーチェの心に僅かな黒い闇が這い出てきているのを、傍で見ていたレオンハルトは気付いた。
「殿下。ベアトリーチェは、ベアトリーチェですよ。この2日間で色々な事がありましたからね。少し大人になったのかもしれませんな。今日は二人とも疲れているでしょう。これにて、我々は失礼します。日を改めて」
レイノルドからベアトリーチェを引き離すようレオンハルトは、足早に王宮から抜け出した。
危ない。危ない。ベアトリーチェから負の感情が漏れ出していた。あんなところで…。
今のベアトリーチェをあそこに近付けるのは危険極まりない。
レオンハルトはそう判断した。
ホテルに帰るとリリエンヌとエドモンドが二人の帰りを待っていた。
「すまないが、王女も一緒に連れて行くことになったから、彼女の支度が整うまでは足止めになったよ」
「仕方がない。どうする?ベアトリーチェ達だけで出立するかい?」
伯父の提案にベアトリーチェは喜んで頷きそうになったが、フェリシアの事を考えて思いとどまった。
人見知りするフェリシアをレオンハルトと一緒にいさせて大丈夫なのかと心配したからだ。
「いいえ、わたしもれ…お父様と一緒がいいです」
「うちの子、尊い…」
レオンハルトは、泣きながらギュッとベアトリーチェを抱きしめた。
尊いって何が…?
不思議な聞き慣れない言葉にベアトリーチェは首を傾げていた。
だが、レオンハルトとリリエンヌは、無理矢理でもベアトリーチェをフロンティアに向かわせるべきだったと後悔することになる。
何も知らないベアトリーチェは、両親の温かな愛情を感じていた。
「レーテ」
すると眩い光がレイノルドを包むと、背後から透ける様な白い肌と長い黄金の髪を持った少女が現れた。
「精霊…?」
「そうです。陛下、彼女が僕と契約した精霊です」
レーテは、嬉しそうに部屋中を飛び廻り、フェリシアの後ろからノアを引っ張り出すと、二人は抱擁し、やがて廻りながら霧散した。
「消滅したのか?」
「いいえ、陛下。二人はどうやら対の存在だったようです」
「対…とは?」
「精霊には性別がありません。ですが今見たとおり外見は、人の性別に似せています。精霊の対とは、同じ時に精霊の木から生まれた双子のようなもので、お互いが無くてはならない存在なのです」
「双子…」
「そうです。人間の双子のように一方が弱ったり死んだりすると、もう片方にも影響がでるのです。特に光と闇は絆が強く、どちらかが消滅してしまうと、もう片方は狂ってしまい最後はやはり消滅してしまいます。当然、契約者にも影響します」
「ならば、どうすればよい」
「フェリシア王女様も、レイノルド王太子殿下も年若く、まだ正式な精霊師ではありません。精霊の力を上手く制御できるよう訓練が必要です」
「どのくらいかかる」
「それは人それぞれですが…よろしければ、フロンティアに留学していかがでしょう。我が国には精霊師が大勢いますし、また魔法魔術学園がありますから、お二人のお役に立てるのではないでしょうか」
「うむ考えて見よう。しかし、それまでにある程度の制御が出来れば…」
「レイノルド王太子殿下は4才で契約なさいましたが、これまで何か変わった事が無ければ、ご自分で制御で来ておられるのではないでしょうか」
「ならば、フェリシアは」
「残念ながら、王女様は非常に危険な状態です。魅了の術が洩れております。このままでは、国中を巻き込み混乱が生じるかもしれません」
「そうか、では大公がフロンティアに帰国する際、王女も一緒に連れて行ってはもらえまいか。その方が王女の安全の為にもよいだろう」
「陛下がそうお望みなら、大公家でお預かりいたします」
国王とレオンハルトのやり取りを見てレイノルドが、
「それでは、フェリシアに会えないのですか?」
「殿下、これきりという訳ではありません。数年の間です。それに殿下自身もフロンティアに留学なさるべきです。我が国の技術や魔術を身に付けられてはいかがですか?」
「陛下…僕もいつか留学できれば」
「そうだな。15才では…」
「陛下、我が国では13才から魔術を学んでおります。殿下がその年になれば迎えの者を寄越しましょうか?」
「ならば、そうするがよい。留学している間の公務は余と王妃らで行うことにする」
ジルベスターは、レイノルドにそう告げた。
ベアトリーチェの心は複雑だった。
フロンティアに行くのなら、これでレイノルドとの縁は切れると思ったからだ。
よく考えれば、今のレイノルドは出会ったばかりで、これから起きることはまだ先の事だ。なるべく関わらなければ回帰前の様なことは起きないだろうと思っていた。
父レオンハルトにベアトリーチェは不満を顕にした。
昨日、回帰前の話をしたのに、どうしてレイノルドと関わらせようとするのか分からない。あんな思いは二度としたくないのにと憤慨していた。
レオンハルトもベアトリーチェの気持ちが理解できるが、まだ何もしていないレイノルドを放置するのも魔術師としての性が許さない。
優秀な精霊師はどの国にも貴重な存在なのだ。しかも4才で誰にも知られず、やり過ごしていたレイノルドの才能に興味が湧いたことも事実である。
それをベアトリーチェに話すと嫌われると思っているレオンハルトは、黙っている事にした。
どちらにしても、この国に漂う妙な気配から未来ある子供達を守りたいというのがレオンハルトの本音だった。しかも王宮に着いた時から、何か恐ろしい何かの気配を察知していた。
それはこの間よりもずっと強く感じられたのだ。
ベアトリーチェは、取り合えずチェスター公爵家から出て、これから向かう本当の国の事の方に意識を向けるよう努力した。
レオンハルトとベアトリーチェは部屋を後にし、王宮の回廊を歩いている。
後ろから、
「待って、ベアトリーチェ嬢」
レイノルドに声を掛けられ、立ち止まって振り返った。
何か言いたそうにレイノルドは、ベアトリーチェの方を見た。
「俺は少し離れているよ。きっと話があるんだろう。聞くだけ聞いてごらん」
レオンハルトにそう言われ、ベアトリーチェは嘆息した。
「何かご用でしょうか。王太子殿下」
ベアトリーチェの威圧的な言葉に一瞬怯んだが、レイノルドは気を取り直して、
「聞きたい事があるんだ。本当に君はベアトリーチェ嬢なの?」
おかしな事を聞いている自覚はレイノルドにもあった。だが、一月前のベアトリーチェと今のベアトリーチェは別人の様に感じる。
お茶会で見せたような微笑みを自分に向けてくれなくなったベアトリーチェに奇妙な違和感を感じていたのだ。
今のベアトリーチェは、子供らしさがなく、急に大人の淑女が見せるような仕草、何よりあのレイノルドに向けられた微笑みが消えていた。
ただの妄想だと笑い飛ばせるほど、少しの変化などではなく。まるで、大人の女性を相手にしている様な感覚。
目の前にいる少女は10才とは到底思えない。
遠くに行ってしまった様な不安な気持ちを隠して、レイノルドはベアトリーチェの返事を待った。
「わたしでなければ、わたしは誰なんでしょうか?」
ベアトリーチェは冷たい眼差しをレイノルドに向けて答えた。
「確かに見た目は、ベアトリーチェ嬢だよ。でも僕がお茶会で会った君とは別人の様だから」
別人と言えばそうなのだろう。今のベアトリーチェは、一度死んで回帰したのだから、中身は21才で死んだ時のままなのだ。
記憶をもっているベアトリーチェを別人のようだと疑うレイノルド。
今までわたしのことなど気にかけなかった癖に…。
ベアトリーチェの心に僅かな黒い闇が這い出てきているのを、傍で見ていたレオンハルトは気付いた。
「殿下。ベアトリーチェは、ベアトリーチェですよ。この2日間で色々な事がありましたからね。少し大人になったのかもしれませんな。今日は二人とも疲れているでしょう。これにて、我々は失礼します。日を改めて」
レイノルドからベアトリーチェを引き離すようレオンハルトは、足早に王宮から抜け出した。
危ない。危ない。ベアトリーチェから負の感情が漏れ出していた。あんなところで…。
今のベアトリーチェをあそこに近付けるのは危険極まりない。
レオンハルトはそう判断した。
ホテルに帰るとリリエンヌとエドモンドが二人の帰りを待っていた。
「すまないが、王女も一緒に連れて行くことになったから、彼女の支度が整うまでは足止めになったよ」
「仕方がない。どうする?ベアトリーチェ達だけで出立するかい?」
伯父の提案にベアトリーチェは喜んで頷きそうになったが、フェリシアの事を考えて思いとどまった。
人見知りするフェリシアをレオンハルトと一緒にいさせて大丈夫なのかと心配したからだ。
「いいえ、わたしもれ…お父様と一緒がいいです」
「うちの子、尊い…」
レオンハルトは、泣きながらギュッとベアトリーチェを抱きしめた。
尊いって何が…?
不思議な聞き慣れない言葉にベアトリーチェは首を傾げていた。
だが、レオンハルトとリリエンヌは、無理矢理でもベアトリーチェをフロンティアに向かわせるべきだったと後悔することになる。
何も知らないベアトリーチェは、両親の温かな愛情を感じていた。
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