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第一章

※ 僕の名は…

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 楽しそうに笑っている君がいる。

 その隣には僕の大切な唯一の家族…妹のフェリシアがいた。

 人見知りが激しい妹が初対面で懐いた少女──。

 ベアトリーチェ・チェスター公爵令嬢。

 銀色の髪に翠の瞳が美しい少女。

 彼女の笑顔を見ているとこっちも幸せな気持ちになっていく。

 僕の人生は虚無に満ちていた。

 生まれた時から僕の前にはいつもあいつ・・・がいた。

 僕より数刻早く生まれただけで、宝石眼を持っていただけで、生まれた時から全てを持っていたあいつ・・・

 大っ嫌いなあいつ・・・の名前はレイノルド・アルカイドだった。

 僕の本当・・の名前は、ウィルウッド・アルカイド。

 この国の第二王子として生まれた僕は、兄レイノルドの影として生きる宿命を持っている。

 兄レイノルドが誕生した日、光の精霊が現れて、祝福を与えたのだ。

 父ジルベスターは歓喜した。

 それもそのはずだ。レイノルドの母は第一妃エリノア様。

 実家は王家を長く支えてきた功臣ベルローズ公爵家。

 しかも、父の長年の想い人であり、唯一の人だった。

 父は妃を迎えるにあたり、慣例を無視してエリノア様だけを妻に迎えるつもりだと宣言した。

 だが、頭の固い老臣たちはそれをよしとはしなかった。派閥同士を巻き込んで、結局、父は折れた。それが大きな間違いだったと気付いた時には、全ての事が遅かった。

 第二妃マリウェザー様はハウエル侯爵家の三女で、騎士を目指していたこともあり、性格や行動は男性のようだった。

 そして、第三妃となった僕の母オパールはブリジット伯爵家の次女だった。伯爵が侍女に産ませた婚外子。そのことが母の最大のコンプレックスだったのだろう。

 母は、王妃という地位に拘った。

 同じ時期に懐妊したエリノア様に酷い嫉妬心をむき出しにして、彼女をどうやって排除しようかと企んでいたほどだ。

 その心を父に知られてしまい。エリノア様への接近禁止を命じられた。

 それでも母は、父の愛を求めてやまなかった。

 どれほど、父に冷遇されてもいつかきっと自分を愛してくれると信じていたのだ。

 母が父の何に魅かれるのかは分からなかったが、異常な執着心が何れ自分に向けられようとは、この時は思ってもいなかった。

 エリノア様が先に兄レイノルドを産み落とすと、暫く経って僕が生まれた。父はエリノア様に付きっきりで、母の元には、生まれた僕の名前を書いた紙切れと母への労いの言葉だけを侍従が伝えてきた。

 母は狂ったように慟哭し、どうして自分の所に夫が来ないのかと暴れた。そして、狂ったようにエリノア様に呪いの言葉を吐いた。

 「あの女が憎い…あの女さえいなければ、愛されていたのはわたくしだったのに」
 
 生まれた時にはガラスのような宝石眼があった。しかし、それは偽物。本物の宝石眼を持つ兄レイノルドとは比べ物にならない、ちっぽけなものだった。

 兄には多くの期待を寄せられいるのに、僕は彼の代わりになれるよう努力を強要されるだけのスペア。

 それでも、まだ妹フェリシアに比べればまだましだった。

 妹はまがい物の宝石眼すら持っていなかったことで、母オパールから見放されていた。

 そんな妹が憐れに思えて、僕は妹の境遇の改善を母に訴え続けたが、母は一顧だにしなかった。

 あれは僕が4才の年だった。

 その年の冬は、性質の悪い流行病が国中を覆った。

 当然、身体の弱いフェリシアもその病にかかったが、「治療して欲しい」という乳母の懇願を母は無視した。

 深夜に急に僕の所に乳母が助けを求めてきた。

 腕に抱き抱えているフェリシアは虫の息。兄レイノルドも癒しの魔法を使えても4才では限度がある。

 途方に暮れている僕の前にそれは突如現れた。

 光に包まれた女性の姿をした精霊は、僕に契約を持ちかけた。契約すれば癒しの魔法でフェリシアを助ける事ができる。僕に断るという選択はない。

 こうして、光の精霊と契約した僕の両目には、契約紋が刻まれ、正真正銘の宝石眼となった。

 そして、消え入りそうなフェリシアを癒しの魔法で治療した。

 光の精霊に頼んで、乳母の記憶を改ざんし、新薬をフェリシアに与えたことにしたのだ。

 僕は精霊と契約したことを誰にも話さなかった。でも、僕の目が真の宝石眼になった事で、母の野望に火が付いた事だけは確かだった。



 最初の悲劇は兄と僕の5才の誕生日にそれは起きた。
 
 
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