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第一章
閑話 幸せな時間
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ベアトリーチェは、幸せな夢を見ていた。
眩い光の草原で、誰かが呼んでいる。知っている様で知らない人。
風に吹かれて黄金の髪が揺れる。蒼天の青い瞳の男性が立っていた。
──レイノルド様…?
その青年は首を横に振り、草原を駆けて行った。捕まえようと必死で追いかけて、後一歩で捕まえられると思ったら、急に青年の周りが黒い闇が広がった。飲みこまれる青年が「助けて…」とか細い声を上げるが、ベアトリーチェは助ける事は出来なかった。
次第に辺りは闇に飲みこまれて、ベアトリーチェの前に先ほどの青年が現れる。でも、その姿は、全くの別人のようだった。何処かで見た様な…。
ベアトリーチェは、その青年を思い出せない。手を伸ばせば伸ばす程、距離が出来て行く。必死で声を出そうとしたが、その声はヒューッと呼吸の中に消えていった。
「──ティ…ベティ……」
そこでベアトリーチェは、リリエンヌに起こされて、目が覚めた。
「大丈夫、何か魘されていたようだけれど、悪い夢でもみたのかしら」
心配そうに覗き込む母に夢の話をしようにも、もう思い出せもしない。
「そうみたい。でもなんだったのか、忘れたの」
「ならよかった。悪い夢は忘れた方がいいの。これからわたしのかわいいベティはうんと幸せにならないといけないのだから」
そう言われ、ベアトリーチェは着替えをして、リリエンヌと一緒に食堂に向かった。
既にレオンハルトは、先に着いていて、遅れてきたベアトリーチェの椅子を引いてくれる。
「おはよう。俺のお姫様」
フロンティアに来てから、毎日のように繰り返される父の優しい言葉。今までの分も取り戻そうと、ベアトリーチェを構っている。沢山の贈り物を山の様に持って、皇城から戻ってくるレオンハルトにリリエンヌは呆れた表情をしていた。
でも、どんな贈り物より、ベアトリーチェに毎日頬にキスして、「愛している。俺の小さなお姫様」そう言われることの方が何よりも嬉しい。
そして、ベアトリーチェも父の頬に挨拶のキスをする。勿論、リリエンヌにも…。
平凡で愛しい毎日。
ずっと、ベアトリーチェが憧れていた…夢見ていた世界がそこにある。決して自分には得られない物だと過去では諦めていた。今は、手の届くところに触れられるところにある。
ベアトリーチェの大切な家族。ベアトリーチェは二度目の人生でやっと家族を手に入れた。
レオンハルトが出かけた後、ベアトリーチェは愛犬のロンと一緒に庭の池の畔を歩いていた。
池の中にずぶずぶと入っていくロンを窘めながら、周りに誰もいない事を確認して、ベアトリーチェもつま先をちょんとつけてみた。
水面に広がる波紋───。
ちょっとだけというつもりで両足を池の中にいれてみる。
冷たくて気持ちいい。
水遊びをしようとロンが飛びついた。思わず倒れそうになったが、ベアトリーチェは倒れなかった。誰かが彼女を支えている。
「大丈夫か」
「ええ…ありがとう」
しっかりとベアトリーチェを支え立たせてくれる。ベアトリーチェは誰だろうと顔を見る。
そこにいたのは、何処かで会った事があるような気がする少年が立っていた。
「お転婆が過ぎるぞ!」
つんとおでこを指で押され、からかう様に夏の爽やかな風の様な笑顔を向ける少年。
「貴方は誰?」
「さあな。また会う事になる。それまでお転婆はほどほどにしとけよ」
不愛想な口調なのに優しく聞こえるその声をベアトリーチェは何処かで聞いた事があった。
ベアトリーチェは、夏の日差しが強くなり帽子を深く被り直す。そよ風に吹かれながら、またロンと庭の散策に戻っていく。
もう一度会ったなら、次はどんな運命が待っているのだろう。
それは13才のベアトリーチェの夏の小さな思い出となった。
眩い光の草原で、誰かが呼んでいる。知っている様で知らない人。
風に吹かれて黄金の髪が揺れる。蒼天の青い瞳の男性が立っていた。
──レイノルド様…?
その青年は首を横に振り、草原を駆けて行った。捕まえようと必死で追いかけて、後一歩で捕まえられると思ったら、急に青年の周りが黒い闇が広がった。飲みこまれる青年が「助けて…」とか細い声を上げるが、ベアトリーチェは助ける事は出来なかった。
次第に辺りは闇に飲みこまれて、ベアトリーチェの前に先ほどの青年が現れる。でも、その姿は、全くの別人のようだった。何処かで見た様な…。
ベアトリーチェは、その青年を思い出せない。手を伸ばせば伸ばす程、距離が出来て行く。必死で声を出そうとしたが、その声はヒューッと呼吸の中に消えていった。
「──ティ…ベティ……」
そこでベアトリーチェは、リリエンヌに起こされて、目が覚めた。
「大丈夫、何か魘されていたようだけれど、悪い夢でもみたのかしら」
心配そうに覗き込む母に夢の話をしようにも、もう思い出せもしない。
「そうみたい。でもなんだったのか、忘れたの」
「ならよかった。悪い夢は忘れた方がいいの。これからわたしのかわいいベティはうんと幸せにならないといけないのだから」
そう言われ、ベアトリーチェは着替えをして、リリエンヌと一緒に食堂に向かった。
既にレオンハルトは、先に着いていて、遅れてきたベアトリーチェの椅子を引いてくれる。
「おはよう。俺のお姫様」
フロンティアに来てから、毎日のように繰り返される父の優しい言葉。今までの分も取り戻そうと、ベアトリーチェを構っている。沢山の贈り物を山の様に持って、皇城から戻ってくるレオンハルトにリリエンヌは呆れた表情をしていた。
でも、どんな贈り物より、ベアトリーチェに毎日頬にキスして、「愛している。俺の小さなお姫様」そう言われることの方が何よりも嬉しい。
そして、ベアトリーチェも父の頬に挨拶のキスをする。勿論、リリエンヌにも…。
平凡で愛しい毎日。
ずっと、ベアトリーチェが憧れていた…夢見ていた世界がそこにある。決して自分には得られない物だと過去では諦めていた。今は、手の届くところに触れられるところにある。
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レオンハルトが出かけた後、ベアトリーチェは愛犬のロンと一緒に庭の池の畔を歩いていた。
池の中にずぶずぶと入っていくロンを窘めながら、周りに誰もいない事を確認して、ベアトリーチェもつま先をちょんとつけてみた。
水面に広がる波紋───。
ちょっとだけというつもりで両足を池の中にいれてみる。
冷たくて気持ちいい。
水遊びをしようとロンが飛びついた。思わず倒れそうになったが、ベアトリーチェは倒れなかった。誰かが彼女を支えている。
「大丈夫か」
「ええ…ありがとう」
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「貴方は誰?」
「さあな。また会う事になる。それまでお転婆はほどほどにしとけよ」
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ベアトリーチェは、夏の日差しが強くなり帽子を深く被り直す。そよ風に吹かれながら、またロンと庭の散策に戻っていく。
もう一度会ったなら、次はどんな運命が待っているのだろう。
それは13才のベアトリーチェの夏の小さな思い出となった。
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