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幸せの裏側
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一月後──。
春うららかな陽気の中、カラーン、カラーンという教会の鐘の音が聞こえている。
今日は、この教会で結婚式が行われていた。
幸せそうな新郎新婦は大勢の人々から祝福の言葉をかけてもらっていた。
舞い散る花弁も二人がこれから歩む未来を明るく照らす様に光を浴びてキラキラと輝いていた。
その二人の元に静かに忍び寄る一つの影がある。
教会の警備の目を潜って、誰も知らない間に近付いた。
「きゃあああああーーーー」
誰かの悲鳴が静かな教会の中に響き渡る。
舞い散っている花弁の中に鮮血が飛び散った。
倒れ行く花嫁を受け止めようと花婿が手を伸ばした。だが、その手は届かない。
花嫁を刺した短刀に彼女の血が滴り落ちていく。
僅かに届いた手がベールを掴んだ。花嫁の顔が顕になった時、刺した者は呟いた。
「ど…して…。ロゼリナが…」
「お…か……あ…さま…な……ぜ…」
母娘の久々の対面は残酷な結末を迎えた。
「いやーーーー。どうしてなの。ここにどうしてわたしのかわいいロゼリナがいるのよーーーー」
セレニィーの慟哭が教会中に響き渡る中、警備の騎士が暴れてロゼリナの所に駆け寄ろうとしているセレニィーを取り押さえた。
警備兵に引き摺られる様にセレニィーは、外に連れて行かれ、断末魔が聞こえてきた。
花婿のセザールは、血塗れで横たわるロゼリナの遺体を抱きしめながら、泣き崩れていた。
傍で全てを見ていたアレンは、頭を抱えて俯いている。
どこから間違えたんだ。
それは、初めから…
どうしてこんな結果になったんだ。
自分が招いた事だから自業自得だろう。
あの時、エリーロマネと出会わなければ…。
そうならなくてもお前は他の誰かに同じ事をしただろう。
セレニィーを愛さなければ…。
それはできないだろう。お前は逃げたんだ。
アレンの中で、別の誰かがアレンに答えている。
アレンは逃げた。楽な方に…。エリーロマネと向き合う事に。シェリーネに優しい言葉をかける事も気にかける事もせず、ただ放置していた。その方が楽だったからだ。
何も疑わずにセレニィーとロゼリナと過ごす事が幸せだと思っていた。
本当はセレニィーに愛されていなかったのに…。セレニィーはただ、エリーロマネへの対抗心からアレンを奪っただけだった。
それでも、二人の間に生まれたロゼリナは愛しい我が子だった。
アマーリエに言われるがままに王宮の休憩室に入った事がそもそもの間違いなのだ。
彼女が気分が悪いから付いていってほしいと言われ、休憩室に行くとそこには別の女性が既に使っていた。
それがエリーロマネだった。
わたしの中に僅かな野心があったのかもしれない。このまま過ごせば彼女が手に入るかも、その思惑は見事に成功したが、表面上はわたしに一目惚れをした事にしていたが、中身は薄っぺらい物だった。
仮面夫婦としてやっていくことに嫌気がさしたわたしは、自分を見てくれているセレニィーに心が動いた。そのセレニィーも単に高位貴族だという私の肩書を愛していたのだ。
セレニィーに愛されていると勘違いしていたわたしを見るのはさぞ滑稽だっただろう。
わたしの過ちが大切な娘の命を奪ってしまった。
ああ…わたしはなんと愚かな人間なのだ。こんな事になってやっと理解できるなんて…。
ずっとエリーロマネに囚われていたのは私の方だった。
この想いに終止符を打たない限り、わたしは永遠に囚われ続けるだろう。
アレンは、ロゼリナの顔をハンカチで隠した。そのハンカチは、以前ロゼリナがアレンに刺繍してくれたものだった。
『赤い薔薇は、おとうさまよ。黄色い薔薇は、おかあさま。そしてこの小さい赤い薔薇はわたしよ』
『そうか家族を思い描いて刺繍してくれたんだね。ありがとう。大切にするよ』
『大切にしてね。わたしたちはずっとかぞくよ』
そう言って笑いあっていた事を思い出していた。
その日、教会は急遽、葬式となったのだ。
それから、アレンはシンドラー侯爵家から姿を消した。彼は亡き妻セレニィーとロゼリナを弔う為、墓守となった。
春うららかな陽気の中、カラーン、カラーンという教会の鐘の音が聞こえている。
今日は、この教会で結婚式が行われていた。
幸せそうな新郎新婦は大勢の人々から祝福の言葉をかけてもらっていた。
舞い散る花弁も二人がこれから歩む未来を明るく照らす様に光を浴びてキラキラと輝いていた。
その二人の元に静かに忍び寄る一つの影がある。
教会の警備の目を潜って、誰も知らない間に近付いた。
「きゃあああああーーーー」
誰かの悲鳴が静かな教会の中に響き渡る。
舞い散っている花弁の中に鮮血が飛び散った。
倒れ行く花嫁を受け止めようと花婿が手を伸ばした。だが、その手は届かない。
花嫁を刺した短刀に彼女の血が滴り落ちていく。
僅かに届いた手がベールを掴んだ。花嫁の顔が顕になった時、刺した者は呟いた。
「ど…して…。ロゼリナが…」
「お…か……あ…さま…な……ぜ…」
母娘の久々の対面は残酷な結末を迎えた。
「いやーーーー。どうしてなの。ここにどうしてわたしのかわいいロゼリナがいるのよーーーー」
セレニィーの慟哭が教会中に響き渡る中、警備の騎士が暴れてロゼリナの所に駆け寄ろうとしているセレニィーを取り押さえた。
警備兵に引き摺られる様にセレニィーは、外に連れて行かれ、断末魔が聞こえてきた。
花婿のセザールは、血塗れで横たわるロゼリナの遺体を抱きしめながら、泣き崩れていた。
傍で全てを見ていたアレンは、頭を抱えて俯いている。
どこから間違えたんだ。
それは、初めから…
どうしてこんな結果になったんだ。
自分が招いた事だから自業自得だろう。
あの時、エリーロマネと出会わなければ…。
そうならなくてもお前は他の誰かに同じ事をしただろう。
セレニィーを愛さなければ…。
それはできないだろう。お前は逃げたんだ。
アレンの中で、別の誰かがアレンに答えている。
アレンは逃げた。楽な方に…。エリーロマネと向き合う事に。シェリーネに優しい言葉をかける事も気にかける事もせず、ただ放置していた。その方が楽だったからだ。
何も疑わずにセレニィーとロゼリナと過ごす事が幸せだと思っていた。
本当はセレニィーに愛されていなかったのに…。セレニィーはただ、エリーロマネへの対抗心からアレンを奪っただけだった。
それでも、二人の間に生まれたロゼリナは愛しい我が子だった。
アマーリエに言われるがままに王宮の休憩室に入った事がそもそもの間違いなのだ。
彼女が気分が悪いから付いていってほしいと言われ、休憩室に行くとそこには別の女性が既に使っていた。
それがエリーロマネだった。
わたしの中に僅かな野心があったのかもしれない。このまま過ごせば彼女が手に入るかも、その思惑は見事に成功したが、表面上はわたしに一目惚れをした事にしていたが、中身は薄っぺらい物だった。
仮面夫婦としてやっていくことに嫌気がさしたわたしは、自分を見てくれているセレニィーに心が動いた。そのセレニィーも単に高位貴族だという私の肩書を愛していたのだ。
セレニィーに愛されていると勘違いしていたわたしを見るのはさぞ滑稽だっただろう。
わたしの過ちが大切な娘の命を奪ってしまった。
ああ…わたしはなんと愚かな人間なのだ。こんな事になってやっと理解できるなんて…。
ずっとエリーロマネに囚われていたのは私の方だった。
この想いに終止符を打たない限り、わたしは永遠に囚われ続けるだろう。
アレンは、ロゼリナの顔をハンカチで隠した。そのハンカチは、以前ロゼリナがアレンに刺繍してくれたものだった。
『赤い薔薇は、おとうさまよ。黄色い薔薇は、おかあさま。そしてこの小さい赤い薔薇はわたしよ』
『そうか家族を思い描いて刺繍してくれたんだね。ありがとう。大切にするよ』
『大切にしてね。わたしたちはずっとかぞくよ』
そう言って笑いあっていた事を思い出していた。
その日、教会は急遽、葬式となったのだ。
それから、アレンはシンドラー侯爵家から姿を消した。彼は亡き妻セレニィーとロゼリナを弔う為、墓守となった。
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