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本編 この度、記憶喪失の公爵様に嫁ぐことになりまして
夜会の後始末~ラインハルト~
しおりを挟む──カツーーン、カツーーン。
僕は、王宮の暗い地下へと続く階段を下りている。
向かう先は地下にある牢獄だ。
「ああ、ラインハルト様。やっぱり迎えに来てくれたんですね」
一晩で薄汚れたドレスに髪も乱れているデニーロ伯爵令嬢ウルスラの姿があった。
この女の頭は飾りなのかそれとも蛆でも湧いているのだろうか…。
よく僕の事を知りもしないで、どうして僕が迎えに来る等という発想になるのか分からない。
「何故?僕が君を迎えに等という考えが浮かんでくるのだ。僕は君に等一欠けらの興味もないのに」
「えっ…一欠けらも…」
「ああ、君は僕の愛しいアシュリーの異母妹という汚点でしかない。いやもう異母妹ですらもないか。もうすぐこの世から消えるのだからな」
「ど…どういうことなんです?」
「うん?知らないのか。僕がまだ王族から席を抜いていない。当然、妻であるアシュリーも王族になっている。その妻にレグナの屋敷で何をした?」
僕の言葉にウルスラはガタガタと震えだした。ウルスラはアシュリーを突き飛ばした。あの時はお咎めが無いのをいいことに許されたのだと勝手に勘違いしていたのだ。
そして、帰り道で山賊に襲われたところを僕の騎士達に救われて、またもや思い込みをしてしまったのだろう。僕が助けてくれたと。只単に囮に使っただけなのに、アデイラは気付いていたが、この愚かな娘は自分が心配で助けてくれたと勘違いしたのだ。
「それに、またアシュリーに危害を加えようとゴロツキを雇って馬車を襲わせたね。既にゴロツキどもは捕えて、君達デニーロ伯爵に頼まれたと自白している」
「それはお父様が勝手にやったことです」
「ほう、君は関与していないとでも」
「勿論です」
「なら、証人を連れてこようか。姿を見せてやれ」
僕がそう言うとルースとルーカスが姿を現した。
ウルスラの目が大きく開かれた。
「どうしてあんたたちがここにいるのよ」
「それは、俺らがラインハルト様の部下だからですよ。あんた達の計画は全て筒抜けだったんです。残念でしたね」
「この、裏切者!!」
「裏切っていません。私達は、伯爵家に送られたスパイでしたから」
「くっ……」
ウルスラは悔しそうに顔を歪めた。
「これでも白を切ろうというのかな」
「では、アシュリーお義姉様に合わせて下さい」
「はあ?お義姉様だと、昨夜も言ったが君らとアシュリーは既に赤の他人だ。戸籍も抜いてサザーランドのペティー侯爵の養女となっている。血筋も君より格上だよ」
「やっぱり、あの女がラインハルト様に何か言ったのね。そうなんでしょう、出ないと私を選ばないなんて」
「有りえないと言いたいのか?君とアシュリーは姉妹と言ってもお互いに殆ど接点がないだろう。アシュリーはあんな境遇にあっても君等と違って心の美しい女性だよ。だから僕は妻に選んだんだ。誰かに押し付けられたんじゃあ無く自分の意志でアシュリーが欲しいと思ったんだ」
「嘘よ。そんなの信じない」
「ああ、勝手にそう思っていればいいさ。君は平民になって、鉱山送りになるのだから、楽しみだね。荒くれ者たちが若くて綺麗な女が来るって楽しみにしているよ。せいぜい可愛がってもらうといいよ」
「やめて、そんな所に送らないで──っ」
絶望に満ちたような表情を浮かべながら泣き叫んでいるウルスラに、
「そうそう、君のご両親は一週間後に処刑されるよ。絞首刑に処せられることになった。メイナード侯爵は断頭台行きだよ。これでメイナード侯爵家もデニーロ伯爵家もなくなった」
「酷いどうして、そこまで私達を苦しめるの」
「酷い?これでも僕には生ぬるいくらいだよ。君の父親は僕の母上を殺した。君に母親はその手伝いをしたんだ。母付きの侍女を脅してね。王妃暗殺に手を貸したんだからもっと恐ろしい刑でも良かったんだけれど、それだと折角の祝い事に水を差すから軽減されて絞首刑になったんだよ」
「祝い事……」
「君は知らないか…昨夜、僕の愛する妻が子供を出産したんだ。新たな王族の誕生であちこちでお祭りムードになっているからね」
「子供を出産……」
ウルスラは、壊れた玩具のようにぶつぶつと何かを呟きながらその場にヘたたりこんだ。
何の興味も無くなった僕は、次のターゲットの所に向かった。
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