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本編 この度、記憶喪失の公爵様に嫁ぐことになりまして
アンジェリカ
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私は死ぬ思いで出産したが、生まれたアンジェリカはとても元気に育っていた。
今は乳母のロレイヌに教えてもらいながら、ゲップをさせているところだ。
ゲフッ
小さなゲップが出来た所で、
「奥様、お上手でいらっしゃいます。さあ、アンジェリカ様を寝かせましょうね」
そう言って、私のベットの隣のベビーベッドに寝かせた。
普通の貴族は生まれた子供を乳母に世話を任せるのだが、私は自分で育てたかった。
それは私もハルト様も両親から愛情を貰ったわけではない。母親からの愛情しか知らない。だから、私はこの子にはそうなって欲しくない。
出来るだけ夫婦で育てたいのだ。
だからハルト様もなるべく育児に参加してくれている。
アンジェリカを産んでから、色々な事が分かった。
陛下が政務の空いた時間にアグネス様と一緒にやってくるのだ。しかも何故かハルト様のいない時を見計らう様に。
アグネス様のいう事には陛下は長年ハルト様と疎遠にしていたので何を話していいのか分からないそうだ。
それに、陛下の初恋はグレイシア王妃つまりハルト様のお母様らしい。
当時、第三王子だった陛下は、第二王子の婚約者だったグレイシア様に密かに恋心を抱いていたらしい。
第二王子を愛していたグレイシア様は、自分の愛する人を殺した男を赦せなかったのだ。
無理やり結婚してもグレイシア様の心は得られなかった。
王位を略奪する際に側妃様のご実家が手を貸した事によって彼女を側妃に召し上げた。
その後、グレイシア様が亡くなって、空虚な生活をしていた陛下は子爵領でアグネス様を見初めたらしい。
アグネス様は亡きグレイシア様の面影があったようで、陛下は側妃イランジェ様から守る為にずっと王宮の奥深くにアグネス様を隠していた。
そんなことをしても女の勘は鋭い。陛下を愛する側妃イランジェ様はずっとアグネス様を恨んでいた。
だから、あんな凶行に及んだのだろう。
あの夜会の後、側妃イランジェ様は毒を飲まされて死んだのだ。
今となっては、誰も彼女の心中は分からない。
そんな事を考えていると、ハルト様が部屋に帰ってきた。
あららーっ、陛下と鉢合わせしちゃいました。二人とも見事に固まっていますね。
すると、アンジェリカが突然泣き出したのだ。
私は、ここぞとばかりに陛下にアンジェリカを渡した。
なんとかあやそう必死になっている陛下を横目にハルト様が、
「陛下、そんな危なっかしい手付きだと、アンジェリカが不安に思いますよ。貸してください」
そう言って、陛下からアンジェリカを取り上げると、優しく体を揺らしながら、
「ほら、アンジェ。父上だぞ」
と笑って見せたのだが、
「ケッ」
と言う声が聞こえた。
えっ?今の声って、まさかアンジェの声なの?
私の心の声はだだ漏れだったようで、
「どうやら、アンジェリカはジイジの所に来たいようだ」
そう言って、ハルト様からアンジェリカを受け取ろうとした時に、
「ケッ」
またもや声が聞こえてきた。そして、ぐずぐずと泣き始めたアンジェリカを私が抱くと直ぐに泣き止んだ。
「グフッ…」
小さくハルト様が吹き出した。肩が揺れている。
「そなたでも笑うのだな…」
陛下の小さな呟きを私は聞き逃さなかった。
ええ、ええ陛下。ラインハルト様も人間ですからね。笑いもすれば怒りもする。何の感情もないお人形ではないんですよ。
そう思っていたんだけれど、またもやみんながこちらを見ている。
「アシュリ―様。声に出ていますよ」
アグネス様に耳打ちされて、
しまった。やってしまった。恥ずかしくなって下を俯いていたら、
「大丈夫だから、顔を上げて」
ハルト様の声を聞いておずおずと顔を上げると、そこには希少価値の高い人物二人が笑顔を私に向けていたのだ。
陛下とハルト様。
やっぱり二人は親子だなあと思う。
こんなやり取りが平穏な幸せなのだろうなあと私は実感していたのだった。
今は乳母のロレイヌに教えてもらいながら、ゲップをさせているところだ。
ゲフッ
小さなゲップが出来た所で、
「奥様、お上手でいらっしゃいます。さあ、アンジェリカ様を寝かせましょうね」
そう言って、私のベットの隣のベビーベッドに寝かせた。
普通の貴族は生まれた子供を乳母に世話を任せるのだが、私は自分で育てたかった。
それは私もハルト様も両親から愛情を貰ったわけではない。母親からの愛情しか知らない。だから、私はこの子にはそうなって欲しくない。
出来るだけ夫婦で育てたいのだ。
だからハルト様もなるべく育児に参加してくれている。
アンジェリカを産んでから、色々な事が分かった。
陛下が政務の空いた時間にアグネス様と一緒にやってくるのだ。しかも何故かハルト様のいない時を見計らう様に。
アグネス様のいう事には陛下は長年ハルト様と疎遠にしていたので何を話していいのか分からないそうだ。
それに、陛下の初恋はグレイシア王妃つまりハルト様のお母様らしい。
当時、第三王子だった陛下は、第二王子の婚約者だったグレイシア様に密かに恋心を抱いていたらしい。
第二王子を愛していたグレイシア様は、自分の愛する人を殺した男を赦せなかったのだ。
無理やり結婚してもグレイシア様の心は得られなかった。
王位を略奪する際に側妃様のご実家が手を貸した事によって彼女を側妃に召し上げた。
その後、グレイシア様が亡くなって、空虚な生活をしていた陛下は子爵領でアグネス様を見初めたらしい。
アグネス様は亡きグレイシア様の面影があったようで、陛下は側妃イランジェ様から守る為にずっと王宮の奥深くにアグネス様を隠していた。
そんなことをしても女の勘は鋭い。陛下を愛する側妃イランジェ様はずっとアグネス様を恨んでいた。
だから、あんな凶行に及んだのだろう。
あの夜会の後、側妃イランジェ様は毒を飲まされて死んだのだ。
今となっては、誰も彼女の心中は分からない。
そんな事を考えていると、ハルト様が部屋に帰ってきた。
あららーっ、陛下と鉢合わせしちゃいました。二人とも見事に固まっていますね。
すると、アンジェリカが突然泣き出したのだ。
私は、ここぞとばかりに陛下にアンジェリカを渡した。
なんとかあやそう必死になっている陛下を横目にハルト様が、
「陛下、そんな危なっかしい手付きだと、アンジェリカが不安に思いますよ。貸してください」
そう言って、陛下からアンジェリカを取り上げると、優しく体を揺らしながら、
「ほら、アンジェ。父上だぞ」
と笑って見せたのだが、
「ケッ」
と言う声が聞こえた。
えっ?今の声って、まさかアンジェの声なの?
私の心の声はだだ漏れだったようで、
「どうやら、アンジェリカはジイジの所に来たいようだ」
そう言って、ハルト様からアンジェリカを受け取ろうとした時に、
「ケッ」
またもや声が聞こえてきた。そして、ぐずぐずと泣き始めたアンジェリカを私が抱くと直ぐに泣き止んだ。
「グフッ…」
小さくハルト様が吹き出した。肩が揺れている。
「そなたでも笑うのだな…」
陛下の小さな呟きを私は聞き逃さなかった。
ええ、ええ陛下。ラインハルト様も人間ですからね。笑いもすれば怒りもする。何の感情もないお人形ではないんですよ。
そう思っていたんだけれど、またもやみんながこちらを見ている。
「アシュリ―様。声に出ていますよ」
アグネス様に耳打ちされて、
しまった。やってしまった。恥ずかしくなって下を俯いていたら、
「大丈夫だから、顔を上げて」
ハルト様の声を聞いておずおずと顔を上げると、そこには希少価値の高い人物二人が笑顔を私に向けていたのだ。
陛下とハルト様。
やっぱり二人は親子だなあと思う。
こんなやり取りが平穏な幸せなのだろうなあと私は実感していたのだった。
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