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本編 この度、記憶喪失の公爵様に嫁ぐことになりまして
この思いに終止符を〜アデイラ〜
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わたくしの元に父がやって来て、
「喜べ!アデイラ、殿下の記憶が戻ったと聞いたぞ!直ぐにレグナに迎え、殿下を口説き落としてこい」
「お父様。殿下は既にご結婚なさっておられるのですよ。もうわたくしの出番はありませんわ」
「いや、そうではない。デニーロ伯爵の話では、あの妻は身代わりだ」
「どういう事なのですか?」
「元々は伯爵の嫡子に来た話だったようで、代わりに庶子を行かせたと聞いた。庶子なら王子の妻に相応しくない。しかも第一王子だ。第四王子が病に倒れた今、誰もが第一王子を王太子に担ぎ上げたくてうずうずしている。我が家が一番に名乗りを挙げなくてはならない。伯爵家の娘と一緒にレグナに出立しろ」
父は息巻いて、わたくしにそう命じた。
わたくしが王宮に留まれるのはまだ王太子が決まっていないからだ。王妃が長く不在なこの国の王妃の執務をこなしている間は、皆が認めてくれる。だが、次の王太子が決まればここを出て行かなくてはならない。
今の地位にしがみ付くことでしか自分の価値を見出せないわたくしは父の命に従ったのだ。
それに、わたくしも知りたかった。あのラインハルト殿下を夢中にしている女を直にこの目で見たかったのかもしれない。
記憶を失ってから、陛下が多くの女を送り込んでも誰一人ラインハルト様の心を動かすことはできなかった。だから安堵していた。
わたくしのものにならないのなら誰のものにもならなければいいと、それはわたくしの願いで想いだったのだ。
一緒に連れて行くことになったデニーロ伯爵令嬢ウルスラは、何とも言えぬ高慢な令嬢だった。わたくしを寡婦の身として蔑み、自分が殿下に選ばれることを疑わない愚かな娘だった。
こんな思いあがった女の異母姉とは一体どんな女なのかますます興味が湧いてきた。
もし、このような女ならわたくしがその座を取って代わろうと思っていた。
だが、着いた公爵家の応接間でラインハルト様を見て直ぐに思い上がりだと気付いた。
あの方のあんな顔を見たことがなかった。あのような目で見られたことも微笑まれた事もただの一度もなかった事に今更ながら思い知ったのだ。
わたくしたちは政略で婚約しただけの間柄、わたくしは自分の想いを打ち明けることも無く、勝手にラインハルト様に押し付けただけ。そして、自らその隣を誰かに譲ったのだ。
もうどんなに悔やんでも過去は取り戻せない。
もしも、あの時違う選択をしていたなら、今ラインハルト様の隣にはわたくしがいたのだろうか。
いや、そうはならないだろう。きっと過去に戻っても同じ選択をしたはずだ。
何故ならそれがわたくしにとって最善の道だったからだ。
ラインハルト様の意思を確認したわたくしは、帰路の途中で賊に襲われた。直ぐにレグナの自衛騎士達が駆けつけてわたくし達を領境に送り届けてくれた。
これもきっとラインハルト様の指示なのだろう。
密かに騎士達を配置して、賊を捕えるための囮にされたのだ。
ああ、敵わない。ラインハルト様にとってわたくしはその程度の相手なのだ。あの方の傍にいる彼女に取って代わる日など永遠に来ない現実を突き付けられただけだった。
ならば、わたくしも覚悟を決めなければならない。自分の人生の幕引きを……。
最後まであの方の為に尽くすことがわたくしの最善であり、喜びなのだから。
わたくしは王都に帰って直ぐにデボラ・カートン伯爵夫人を呼び出した。
「昔話がしたい」
そう招待状に書いて、お茶会の誘いをかけたのだ。
後はこの証拠を渡すだけ、これでメイナード侯爵家は終わるだろう。一族の恨みはわたくしが背負っていくものだ。これがわたくしの選んだ道。
事が終わればラインハルト様はわたくしに微笑んで「よくやった」と褒めてくれるだろうか。
そうすればこの長年の想いも報われる。
「殿下。カートン伯爵夫妻がお見えです」
「通してちょうだい」
「はい、畏まりました」
「お久しぶりです。殿下。お元気ですか」
「随分と会っていないわね。伯爵夫人もお変わりなくて良かったこと」
他愛のない話をして、帰るときに「お土産よ。皆で分けてね」そういって茶菓子の箱を渡した。
その箱には細工がしてある。下の段には父が行なった長年の不正の数々が記された証拠の書類がある。聡い彼女ならきっと気付くだろう。
そして、確実にラインハルト様に渡すはず。
これでいい。わたくしの役目は終わったのだ。後は、処罰を待つばかり。
ああ、何だかホッとする。これでようやく全てが終わるのだと思うと心が和いで行くのがわかる。
やっとわたくしもこの想いに終止符を打つことが出来るのだ。
さようならラインハルト様。わたくしの初恋の王子様。貴方が幸せになれますように。
そう祈りながら、わたくしは静かに毒を煽ったのだ。人生の幕を下ろす為に──。
「喜べ!アデイラ、殿下の記憶が戻ったと聞いたぞ!直ぐにレグナに迎え、殿下を口説き落としてこい」
「お父様。殿下は既にご結婚なさっておられるのですよ。もうわたくしの出番はありませんわ」
「いや、そうではない。デニーロ伯爵の話では、あの妻は身代わりだ」
「どういう事なのですか?」
「元々は伯爵の嫡子に来た話だったようで、代わりに庶子を行かせたと聞いた。庶子なら王子の妻に相応しくない。しかも第一王子だ。第四王子が病に倒れた今、誰もが第一王子を王太子に担ぎ上げたくてうずうずしている。我が家が一番に名乗りを挙げなくてはならない。伯爵家の娘と一緒にレグナに出立しろ」
父は息巻いて、わたくしにそう命じた。
わたくしが王宮に留まれるのはまだ王太子が決まっていないからだ。王妃が長く不在なこの国の王妃の執務をこなしている間は、皆が認めてくれる。だが、次の王太子が決まればここを出て行かなくてはならない。
今の地位にしがみ付くことでしか自分の価値を見出せないわたくしは父の命に従ったのだ。
それに、わたくしも知りたかった。あのラインハルト殿下を夢中にしている女を直にこの目で見たかったのかもしれない。
記憶を失ってから、陛下が多くの女を送り込んでも誰一人ラインハルト様の心を動かすことはできなかった。だから安堵していた。
わたくしのものにならないのなら誰のものにもならなければいいと、それはわたくしの願いで想いだったのだ。
一緒に連れて行くことになったデニーロ伯爵令嬢ウルスラは、何とも言えぬ高慢な令嬢だった。わたくしを寡婦の身として蔑み、自分が殿下に選ばれることを疑わない愚かな娘だった。
こんな思いあがった女の異母姉とは一体どんな女なのかますます興味が湧いてきた。
もし、このような女ならわたくしがその座を取って代わろうと思っていた。
だが、着いた公爵家の応接間でラインハルト様を見て直ぐに思い上がりだと気付いた。
あの方のあんな顔を見たことがなかった。あのような目で見られたことも微笑まれた事もただの一度もなかった事に今更ながら思い知ったのだ。
わたくしたちは政略で婚約しただけの間柄、わたくしは自分の想いを打ち明けることも無く、勝手にラインハルト様に押し付けただけ。そして、自らその隣を誰かに譲ったのだ。
もうどんなに悔やんでも過去は取り戻せない。
もしも、あの時違う選択をしていたなら、今ラインハルト様の隣にはわたくしがいたのだろうか。
いや、そうはならないだろう。きっと過去に戻っても同じ選択をしたはずだ。
何故ならそれがわたくしにとって最善の道だったからだ。
ラインハルト様の意思を確認したわたくしは、帰路の途中で賊に襲われた。直ぐにレグナの自衛騎士達が駆けつけてわたくし達を領境に送り届けてくれた。
これもきっとラインハルト様の指示なのだろう。
密かに騎士達を配置して、賊を捕えるための囮にされたのだ。
ああ、敵わない。ラインハルト様にとってわたくしはその程度の相手なのだ。あの方の傍にいる彼女に取って代わる日など永遠に来ない現実を突き付けられただけだった。
ならば、わたくしも覚悟を決めなければならない。自分の人生の幕引きを……。
最後まであの方の為に尽くすことがわたくしの最善であり、喜びなのだから。
わたくしは王都に帰って直ぐにデボラ・カートン伯爵夫人を呼び出した。
「昔話がしたい」
そう招待状に書いて、お茶会の誘いをかけたのだ。
後はこの証拠を渡すだけ、これでメイナード侯爵家は終わるだろう。一族の恨みはわたくしが背負っていくものだ。これがわたくしの選んだ道。
事が終わればラインハルト様はわたくしに微笑んで「よくやった」と褒めてくれるだろうか。
そうすればこの長年の想いも報われる。
「殿下。カートン伯爵夫妻がお見えです」
「通してちょうだい」
「はい、畏まりました」
「お久しぶりです。殿下。お元気ですか」
「随分と会っていないわね。伯爵夫人もお変わりなくて良かったこと」
他愛のない話をして、帰るときに「お土産よ。皆で分けてね」そういって茶菓子の箱を渡した。
その箱には細工がしてある。下の段には父が行なった長年の不正の数々が記された証拠の書類がある。聡い彼女ならきっと気付くだろう。
そして、確実にラインハルト様に渡すはず。
これでいい。わたくしの役目は終わったのだ。後は、処罰を待つばかり。
ああ、何だかホッとする。これでようやく全てが終わるのだと思うと心が和いで行くのがわかる。
やっとわたくしもこの想いに終止符を打つことが出来るのだ。
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