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本編 この度、記憶喪失の公爵様に嫁ぐことになりまして

王都に帰ってきました

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 夏の暑さが終わり、少し肌寒くなってきた秋。

 紅葉にはまだ早い時季に王都から延期された夜会が開かれることになった。

 私とハルト様も出席するよう伝えられた。今回の出席者にはサザーランド国からペティール侯爵が参加する旨の通達がきている。

 馬車から車窓を眺めていた私にハルト様が、

 「アシュリー、王都に着いたらアルバートの所に行こうと考えているんだ。陛下からも王宮に泊まる事を勧められているが、僕は君を王宮に連れて行きたくないんだ」

 「でも、ペティール侯爵は王宮に泊まられるのでしょう?それにハルト様のお部屋を見てみたいと思うのですが、いけませんか」

 「僕の部屋はもうないと思うよ。直に弟が使うからね」

 「そうですか」

 彼が育った思い出の部屋を覗いて見たかった私はガクリと肩を落とす。でもよく考えれば王宮から出た王子の部屋をそのままにしておくわけがない。しかも王太子の部屋だったのだからそれも当然かな。

 「なら、カートン伯爵家はどうだろう。彼女からも王都に来る際は部屋を用意して待っていると手紙がきている」
 
 「それなら嬉しいです。先生のお宅にお伺いを立てて下さい」

 「ああ、そのように先触れを出しておこう」

 ハルト様は不安そうな私の顔が晴れやかになったのを見て、安堵した表情を見せた。

 同じ道を通っているはずなのに、今はなんだかとても楽しい。初めて王都からレグナに向かう馬車の中で、今ほどの気持ちはなかったと思う。

 たぶん、今度はハルト様が一緒だからかもしれない。

 一人よりも二人の方度は楽しいのだと初めて思った。

 馬車から見える景色さえも前回よりも色鮮やかに見える私はなんだかんだいっても現金なのだ。

 馬車の中でもハルト様は書類を確認している。こんなに忙しいのに、どうして暇を見つけては私の元に来れるのか不思議だ。

 そんな事を考えているとお腹の子が蹴っている。きっとこの子も早く外に出たいと言っているようで最近その頻度が増えてきている。

 「どうしたの?気分が悪くなった」

 「いいえ、子供が最近お腹をよく蹴るので、早く外に出たいのかなっと思っただけです」

 「いけない子だな。母親を困らせて、生まれてくればお仕置きが必要だな」

 そんな事を冗談交じりに呟いていたハルト様。ふふっと二人で笑いあっていた。

 馬車はそんな私たちを静かに王都まで運んで行った。
 
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