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本編 この度、記憶喪失の公爵様に嫁ぐことになりまして
侍女たちの攻防〜リタ〜
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私達は新しい奥様付きの侍女リタとリサの双子の姉妹でございます。
私達の仕事は奥様の世話でございますが、新しい奥様、アシュリー様の世話は何かと大変なのでございます。
まず身支度なのですが、朝が大変早く、私達が部屋を訪れると既に奥様の姿はなく、部屋はピカピカに磨かれているのでございます。
勿論、着替えも済ませて部屋は蛻の殻状態。どこを探してもおられません。ただ一か所だけ窓が開いており、近づいてみると、縄梯子が掛けられており、どうやらここから降りられたようです。
「はあ~、また奥様に先を越されてしまったわね。これじゃあ、どっちが使用人なのか分からないわ」
「本当にね。やっぱりは噂はただの噂だって事よね」
うんうんと言って同僚の侍女やメイドも首を縦に頷きます。
奥様が来られる前に流れていた噂では、デニーロ伯爵の長女アシュリー様は、病弱な深窓の令嬢で学園にも通われておらず、デビュタントも出来ない程体が弱いと伺っておりました。
ですが、レグナに到着された奥様はとても一言では言い表せられませんでした。
痩せ細った体に痛んだ淡い蜂蜜色の髪。着ているドレスはサイズが合っていない上に流行遅れの物。おまけに全く奥様に似合っていないリボンが多めの子供が着るようなものでした。
どう考えても大切に育てられた令嬢ではありませんでした。
それに、酷く怯えていて、開口一番に侍女はいらないと言いました。必要ないと自分のことは自分で出来るとも……。
その言葉に私達は思考を巡らせました。きっとこの奥様は、伯爵家で不当な扱いを受けていたのだと。奥様の出自がそれを証明していました。
幸いなことに一般常識程度の教育は施されているようですが、ですがですが……。
窓から出入りするのは、非常識です。この屋敷に住まわれる以上は私達の仕事を取ってはいけません。
あれほど、朝目覚めても部屋にいる様に口うるさく言っているのに、全く聞いていただけません。そのことを注意して頂けないかとラインハルト殿下に申し上げると、
「まあ、好きなようにさせてやれ」
そう言ってまともに取り合ってくださいませんでした。
「その内、心を開かれれば、皆さんとも仲良く出来る方ですよ」
殿下の執事ルファスさんはそういいました。
奥様は私達からしたら懐かない野良猫のような存在です。もしかしたら、殿下もそのように思っているのでしょうか?
兎に角、私達にとって殿下は御恩ある亡き王妃殿下から託された大切なお方なのです。そのお方の伴侶となる方は、あのような野猿のような方では困るのです。
しっかりと監視して、再教育をしていただかないと恥ずかしくて表に出せないでしょう。
部屋の寝台に寝間着とシーツが無いことから、行先は決まっています。
「皆さん!奥様は洗濯場にいらっしゃいます。速やかに確保してください。残りのメイドは私と共に食堂に付いてきなさい!」
私はそういって妹のリサに洗濯場に行くように言いました。
勿論、私は食堂です。
食堂に着くとやはり思った通り奥様が何やら朝食を作っています。
「奥様!!」
「ひっ!!」
私の声で奥様が吃驚して妙な声が出ています。とても公爵夫人の出す言葉ではありません。
「奥様は、この公爵家の女主人です。このような場所に来られて、自ら調理をするなど合ってはなりません!食事は雇われている料理人の仕事ですで、仕事を取らないでください」
「すみません」
素直に謝罪を口にするところも貴族らしくありません。格下の者に嘗められますからね。
「私どもに頭を下げて謝る癖もお止め下さい」
そう言っていると、ルファスさんがやってきて、
「それ以上は止めなさい。あの方がお怒りになってしまう」
そう私の耳元で囁きました。ゾッとするような冷たい声で……。
こんな離れた所の事も把握しておられるあの方…殿下は相変わらず影を使って奥様を見守っておられます。
彼女が今何をしていて、誰と話しているのか逐一報告させているのです。どうやら、殿下はかなり奥様にご執心の様子。だからこそ、この奥様には殿下に相応しい妻になって頂かなくてはならないのです。
私は、今日も奥様を野猿から立派なレディにすべく頑張り続けるのです。
でも、本音を言えばこの奥様がそうなるとは思えません。誰かこの役目を代わって頂けないでしょうか……。
こうして今日も侍女たちとアシュリーの攻防?は続くのであった。
私達の仕事は奥様の世話でございますが、新しい奥様、アシュリー様の世話は何かと大変なのでございます。
まず身支度なのですが、朝が大変早く、私達が部屋を訪れると既に奥様の姿はなく、部屋はピカピカに磨かれているのでございます。
勿論、着替えも済ませて部屋は蛻の殻状態。どこを探してもおられません。ただ一か所だけ窓が開いており、近づいてみると、縄梯子が掛けられており、どうやらここから降りられたようです。
「はあ~、また奥様に先を越されてしまったわね。これじゃあ、どっちが使用人なのか分からないわ」
「本当にね。やっぱりは噂はただの噂だって事よね」
うんうんと言って同僚の侍女やメイドも首を縦に頷きます。
奥様が来られる前に流れていた噂では、デニーロ伯爵の長女アシュリー様は、病弱な深窓の令嬢で学園にも通われておらず、デビュタントも出来ない程体が弱いと伺っておりました。
ですが、レグナに到着された奥様はとても一言では言い表せられませんでした。
痩せ細った体に痛んだ淡い蜂蜜色の髪。着ているドレスはサイズが合っていない上に流行遅れの物。おまけに全く奥様に似合っていないリボンが多めの子供が着るようなものでした。
どう考えても大切に育てられた令嬢ではありませんでした。
それに、酷く怯えていて、開口一番に侍女はいらないと言いました。必要ないと自分のことは自分で出来るとも……。
その言葉に私達は思考を巡らせました。きっとこの奥様は、伯爵家で不当な扱いを受けていたのだと。奥様の出自がそれを証明していました。
幸いなことに一般常識程度の教育は施されているようですが、ですがですが……。
窓から出入りするのは、非常識です。この屋敷に住まわれる以上は私達の仕事を取ってはいけません。
あれほど、朝目覚めても部屋にいる様に口うるさく言っているのに、全く聞いていただけません。そのことを注意して頂けないかとラインハルト殿下に申し上げると、
「まあ、好きなようにさせてやれ」
そう言ってまともに取り合ってくださいませんでした。
「その内、心を開かれれば、皆さんとも仲良く出来る方ですよ」
殿下の執事ルファスさんはそういいました。
奥様は私達からしたら懐かない野良猫のような存在です。もしかしたら、殿下もそのように思っているのでしょうか?
兎に角、私達にとって殿下は御恩ある亡き王妃殿下から託された大切なお方なのです。そのお方の伴侶となる方は、あのような野猿のような方では困るのです。
しっかりと監視して、再教育をしていただかないと恥ずかしくて表に出せないでしょう。
部屋の寝台に寝間着とシーツが無いことから、行先は決まっています。
「皆さん!奥様は洗濯場にいらっしゃいます。速やかに確保してください。残りのメイドは私と共に食堂に付いてきなさい!」
私はそういって妹のリサに洗濯場に行くように言いました。
勿論、私は食堂です。
食堂に着くとやはり思った通り奥様が何やら朝食を作っています。
「奥様!!」
「ひっ!!」
私の声で奥様が吃驚して妙な声が出ています。とても公爵夫人の出す言葉ではありません。
「奥様は、この公爵家の女主人です。このような場所に来られて、自ら調理をするなど合ってはなりません!食事は雇われている料理人の仕事ですで、仕事を取らないでください」
「すみません」
素直に謝罪を口にするところも貴族らしくありません。格下の者に嘗められますからね。
「私どもに頭を下げて謝る癖もお止め下さい」
そう言っていると、ルファスさんがやってきて、
「それ以上は止めなさい。あの方がお怒りになってしまう」
そう私の耳元で囁きました。ゾッとするような冷たい声で……。
こんな離れた所の事も把握しておられるあの方…殿下は相変わらず影を使って奥様を見守っておられます。
彼女が今何をしていて、誰と話しているのか逐一報告させているのです。どうやら、殿下はかなり奥様にご執心の様子。だからこそ、この奥様には殿下に相応しい妻になって頂かなくてはならないのです。
私は、今日も奥様を野猿から立派なレディにすべく頑張り続けるのです。
でも、本音を言えばこの奥様がそうなるとは思えません。誰かこの役目を代わって頂けないでしょうか……。
こうして今日も侍女たちとアシュリーの攻防?は続くのであった。
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