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本編 この度、記憶喪失の公爵様に嫁ぐことになりまして
可哀想なのはどっち?娘〜護衛騎士〜
しおりを挟む 春の日差しを受けながら、仲良く公爵夫妻は畑を耕している。
「えっ、貴族なのに……」
おそらく殆どの人がそう言うだろう。だが、これも仕方がない。この夫婦は変わっている。
まず、公爵である元王太子ラインハルトは記憶喪失の外見23才、中身10才の子供という触れ込みで周りを偽っている。
本当は3年前から記憶が戻り始めて、今は完全に23才の大人の男なのだ。長年、王太子を辞めたがっていた事を知っている近習の使用人達はこの事実を黙認している。
何故なら、彼は本当に子供時代をやり直しているからだ。特別社交も必要なくなり、王子としての務めも果たさなくてもよくなった。
彼は5才の時、母親である王妃殿下が亡くなった後、第一王子という立場の所為で何度も暗殺されそうになったのに、父である国王は放置した。いや正確には見捨てられていたのである。
そして5年前の時もそうだった。明らかに第二王子ジークハルト殿下が仕掛けた罠なのに、彼には何のお咎めもなかった。
だから、神が天罰を与えて、流行病にかかったのだと思っている。そうでも思わなければやり切れない。
元々ラインハルト様は優秀な王子だったので、この領地に来てからも勤勉で領地経営にも精を出しているせいか、段々山積みの問題も無くなりつつあった。
加えて今は新しい奥方様に夢中だ。彼女は世間知らずなところがあり、その純粋な反応が男心を擽るのかもしれない。
その新しい妻が強請ったのが「畑で野菜を育てたい」といったのだ。ドレスや宝石、化粧品ではなく、どうして「菜園」なのかと聞くと本人曰く、「ここを出ていく時に自力で生きていくための手段だと言ったのだ。
「出ていく?」どうしてそうなるのか?あんなに想われてはたから見れば愛されて仲良く見えるのに……?
まあ、今までどんな令嬢が来ても、3か月とも持たないラインハルト様の相手なのだから、そう考えるのも無理はないだろう。
しかーし、現実にはラインハルトはこの奥方を大層気に入っている。この奥方に怪我の一つでもさせれば冷血非道な処罰があることは間違いない。ああ怖い。
「アシュリーの大好きなミミズがいたぞ。ほーら……」
「やってくれたわね──」
「おおっと」
「待ちなさい!!お仕置きよ!」
何やらラインハルト様は畑のミミズを奥方様に放り投げたようだ。怒った奥方様に追いかけられている。傍で見ていた犬たちが自分も一緒に仲間に入れてとばかりに駆け出した。
犬に後ろからタックルされて二人とも泥だらけになってしまった。隣の侍女たちを見てみると、遠い何処かの空を見ている。きっと現実逃避をしているのだろう。
彼らが汚した服を洗濯するのが仕事だが、あの汚れた服で屋敷の中をうろついたらもう一度掃除しなくてはいけない。
彼女らの苦労が窺い知れる。憐れ侍女たちは心を遠い何処かに置いてこないとやり切れないのだろう。元気で楽しく仲が良いことなのは良いことなのだが……もうちょっと使用人の事も考えて欲しいと思っていたら、
「アシュリー、一緒に風呂に入ろうか」
「はっ!な…なにをい…いっているの」
「だって、俺たち夫婦なんだろう?」
「そうですよ。仮のね。旦那様は10才なので一人でお入りください!」
ラインハルト様は奥方様の言葉で撃沈した。『仮』という言葉にショックを受けているようだ。激鈍、奥方様はなかなか手強そう。
でも、ラインハルト様も負けてはいない。
「じゃあ、夜は一緒に寝ようね。暗いところは苦手だから」
「わかったわ。一緒の部屋で寝ましょう」
にっこり笑って一件落着とはいかない物で、この夜、真夜中の仁義なき夫婦の戦いが攻防されようとはこの時誰も想像しなかった。
どうでもいいから寝かせてくれ────っ!!!
屋敷の使用人らは心の中で盛大に叫んだのである。
「えっ、貴族なのに……」
おそらく殆どの人がそう言うだろう。だが、これも仕方がない。この夫婦は変わっている。
まず、公爵である元王太子ラインハルトは記憶喪失の外見23才、中身10才の子供という触れ込みで周りを偽っている。
本当は3年前から記憶が戻り始めて、今は完全に23才の大人の男なのだ。長年、王太子を辞めたがっていた事を知っている近習の使用人達はこの事実を黙認している。
何故なら、彼は本当に子供時代をやり直しているからだ。特別社交も必要なくなり、王子としての務めも果たさなくてもよくなった。
彼は5才の時、母親である王妃殿下が亡くなった後、第一王子という立場の所為で何度も暗殺されそうになったのに、父である国王は放置した。いや正確には見捨てられていたのである。
そして5年前の時もそうだった。明らかに第二王子ジークハルト殿下が仕掛けた罠なのに、彼には何のお咎めもなかった。
だから、神が天罰を与えて、流行病にかかったのだと思っている。そうでも思わなければやり切れない。
元々ラインハルト様は優秀な王子だったので、この領地に来てからも勤勉で領地経営にも精を出しているせいか、段々山積みの問題も無くなりつつあった。
加えて今は新しい奥方様に夢中だ。彼女は世間知らずなところがあり、その純粋な反応が男心を擽るのかもしれない。
その新しい妻が強請ったのが「畑で野菜を育てたい」といったのだ。ドレスや宝石、化粧品ではなく、どうして「菜園」なのかと聞くと本人曰く、「ここを出ていく時に自力で生きていくための手段だと言ったのだ。
「出ていく?」どうしてそうなるのか?あんなに想われてはたから見れば愛されて仲良く見えるのに……?
まあ、今までどんな令嬢が来ても、3か月とも持たないラインハルト様の相手なのだから、そう考えるのも無理はないだろう。
しかーし、現実にはラインハルトはこの奥方を大層気に入っている。この奥方に怪我の一つでもさせれば冷血非道な処罰があることは間違いない。ああ怖い。
「アシュリーの大好きなミミズがいたぞ。ほーら……」
「やってくれたわね──」
「おおっと」
「待ちなさい!!お仕置きよ!」
何やらラインハルト様は畑のミミズを奥方様に放り投げたようだ。怒った奥方様に追いかけられている。傍で見ていた犬たちが自分も一緒に仲間に入れてとばかりに駆け出した。
犬に後ろからタックルされて二人とも泥だらけになってしまった。隣の侍女たちを見てみると、遠い何処かの空を見ている。きっと現実逃避をしているのだろう。
彼らが汚した服を洗濯するのが仕事だが、あの汚れた服で屋敷の中をうろついたらもう一度掃除しなくてはいけない。
彼女らの苦労が窺い知れる。憐れ侍女たちは心を遠い何処かに置いてこないとやり切れないのだろう。元気で楽しく仲が良いことなのは良いことなのだが……もうちょっと使用人の事も考えて欲しいと思っていたら、
「アシュリー、一緒に風呂に入ろうか」
「はっ!な…なにをい…いっているの」
「だって、俺たち夫婦なんだろう?」
「そうですよ。仮のね。旦那様は10才なので一人でお入りください!」
ラインハルト様は奥方様の言葉で撃沈した。『仮』という言葉にショックを受けているようだ。激鈍、奥方様はなかなか手強そう。
でも、ラインハルト様も負けてはいない。
「じゃあ、夜は一緒に寝ようね。暗いところは苦手だから」
「わかったわ。一緒の部屋で寝ましょう」
にっこり笑って一件落着とはいかない物で、この夜、真夜中の仁義なき夫婦の戦いが攻防されようとはこの時誰も想像しなかった。
どうでもいいから寝かせてくれ────っ!!!
屋敷の使用人らは心の中で盛大に叫んだのである。
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