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二度目の人生の終焉

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 私は、ロドニーをわが子の様に可愛がりました。

 周りの使用人らも疑わない程、きっと仲の良い母子に見えたことでしょう。

 ですが、これも私にとっては計画の一部でした。

 最後の仕上げをするために。

 子供には罪はないのではないの?

 そう思われるでしょうね。ですが、私達は貴族です。貴族の青い血を残すことが最大の義務なのです。

 その血が入っていない子供はどうでしょう。貴族としてやっていけるとお思いですか。

 メリルには片方しか貴族の血が入っていないのです。

 彼女の母親ローザは、平民の使用人らとも肉体関係を持っていましたから、その男の種で私の父の子供ではなかったのです。

 しかも、メリル自身も他の男と関係を持っていたのですから、ロドニーがブライアンの子供でもなかったのです。

 この国は、子供を妊娠すると神殿に報告に行きますよね。その時に医師の診断書を提出するでしょう。

 その診断書に書かれている時期とメリルが妊娠したと告げた時期が微妙にずれていたのです。

 しかし、本当にブライアンの子供かもしれないし、違うかもしれない。

 だから、私は手元に残して育てることにしたのです。

 もし、違っていたらブライアンに真実を告げて絶望を味わってもらおうと心に決めていました。

 そうすれば、もしかしたら今度こそ私を愛してくれるかもという僅かな期待があったのかもしれません。

 まったくもって私は何処までも愚かな女だったのです。

 その間もメリルの監視は密かに続けました。

 彼女は予想通り、自分の情夫の元に身を寄せて、ロドニーが育つのを待っていたようです。

 「自分の子供だと思っている馬鹿な貴族が平民の俺の子供を育てている」

 そう口に出しているのを監視役の者が伝えてきました。

 勿論、ブライアンにも伝えましたよ。

 でも、彼は信じなかったのです。恋は盲目とは言いますが、呆れるぐらい彼はメリルという女性を信じ切っていました。

 まるで洗脳でもされているように、自分が彼女にどれほど溺れているのか理解していなかったのでしょうね。

 勝手に一方だけの言い分を信じて、彼女の言いなりになった挙句、監禁生活を送らなければならなかったというのに、何年経とうとも、彼が私を見る事は無かったのです。真実を知り、改心する機会を不意にしたのはブライアン自身でした。

 ブライアンの部屋を離れの鍵付きの部屋に移しました。

 離れには小さな小窓があり、彼はそこから自分の子供と思っているロドニーが庭で遊ぶのを見る事が出来ました。

 しかし、誰も彼を外に出すことはありませんでした。

 だって仕方がなかったのです。彼はとても凶暴で、世話をしている使用人らにも暴力をふるう様になったのです。その内、誰も世話をしたがらなくなったので、私が彼の世話をしていました。

 彼にロドニーの成長を伝えながら…。

 ブライアンは外に出たいと言い続けましたが、私はそれを赦しませんでした。

 当然でしょう。彼はまた同じ過ちを犯して、メリルを屋敷に引き入れて私を奴隷の様にこき使うでしょう。

 そんな事は許せません。私の中には彼を愛している分だけ憎しみも深かったのでしょう。再びメリルに奪われるくらいなら、殺した方がいいと思ったのです。

 ブライアンに薬を飲ませて、眠っている彼の身体を切り裂きました。

 そして、彼の遺体をブタの死体の中に混ぜて廃棄のゴミと一緒に捨てたのです。

 彼の頭部だけは私が彼の為に作っておいたお墓に埋めました。そこには私の髪も一房入れたのです。これで来世も一緒だと願いながら。

 家の者にはブライアンは屋敷から逃げ出したと告げたのです。

 何年も探しても見つからなかったので、役所には死亡を出しました。

 

 それから5年経ち、ロドニーが学園を卒業した時に、侯爵家の分家の者が訊ねてきました。

 ロドニーに爵位を譲ることを反対したのです。

 何処で嗅ぎつけたか、マーレイ伯爵はマシュー侯爵の父方の従兄弟にあたります。彼は、自分の子供の方が侯爵家を継ぐべきだと主張しました。

 確かに貴族法に照らし合わせても彼の子供には継承順位もロドニーがブライアンの子供ではないのなら、第2位となります。

 玄関ホールで騒ぎ立てる伯爵の話をロドニーは聞いてしまったのでしょう。

 そして、私を実の母親だと信じていたのに、愛人の子供でしかもブライアンの子供ではないと知った時はかなりショックを受けたことでしょう。

 しかし、その後の彼の行動を見ても誰も彼のいう事を信じようとは思わないでしょう。

 ロドニーは実の母親を口封じするために殺したのですから。

 みなさん、私が殺人教唆したとおっしゃいましたが、私は屋敷を追い出されて以来メリルには会っていません。報告は受けていましたけどね。

 でも、ロドニーが実母を殺したと聞いて私は安心しました。

 だってそうでしょう。遅かれ早かれ、メリルは真実をロドニーに告げて強請たかりを繰り返すことでしょう。そうなればきっとロドニーは耐え切れなくなって、殺すことを選択したと思いますよ。

 ロドニーはメリルに思考が良く似ていましたから、自分を守る為なら他人を踏みにじってもいいと思っていたんです。

 そんなあの子を見る度に、本当に彼女の子供なのだと納得したものです。

 これが私が犯した過ちの真実です。




 ここからは、記者の人に語っていません。

 本当は、ブライアンは死んでいません。彼を眠らせて、別宅に連れて行かせたのです。

 そして、私付きの侍女に最後の頼みだと言い聞かせてね。

 屋敷の鍵を開けるタイミングは私の死刑の日にしてもらいました。

 私の考えが正しければきっと彼は私の最期を見に来ることでしょう。私は賭けたのです。もし、私の最期を見届けてくれたならば、この想いは断ち切ろうと考えていました。

 私は、夫殺しの大罪を犯したと自ら裁判所に出頭し、告白しました。

 裁判でも罪を軽減せずに極刑を望みました。

 もうこれで満足なのです。私の復讐は終わりました。

 最後に思い出に純白のウェディングドレスに身を包み、痛んだ髪を結いあげて断頭台に立った時、群衆の中にブライアンを見つけました。

 私はカーテンコールを迎えた舞台女優の様にドレスを抓んで淑女の礼を取りました。

 それが、私の愛するブライアンの目に焼き付く様に微笑みながら、首と胴が離れる瞬間まで演じ続けたのです。


 

 私の純白のドレスはこうして二度も赤く染まったのです。

 ですが、ここで物語は終わりではなかったのです。

 私は、又も三度目の人生を歩むことになったのでした。

 

 

 
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