「君を愛する事はない」と言われる前に「あなたを愛する事はありません」と言ってみた…

春野オカリナ

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嘘か?真か?真実は…

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 わたしの言葉を聞いて、もっと顔色が青ざめたのは言うまでもないレイモンドだった。

 そして、殿下達は重い口を開いた。

 全ての始まりは、3年前のデビュタントの日に遡り、その日は昨日と同じように隣国からワガママン王女が表敬訪問していた。

 そこで王女の接待を王太子殿下がすることになったのだが、どうやらそこで王太子殿下の必殺外面似非笑顔に惚れてしまったらしい。

 友好国の王女に誰が見ても分かりやすい愛想笑なのに、王女は自分に好意を持っていると勘違いした。なんともイタい王女だ。

 既に結婚の決まっている王太子に「妃の座に相応しいのは自分の方だから、すぐさま婚約を解消してほしい」と国を通して正式に打診があった。

 こうなれば、国同士の問題に発展してしまう。殿下は直ぐにサスキア妃殿下と実質的な婚姻を無理矢理強行したのだ。

 そして、二人の努力の結晶で第一王子が誕生した。

 この国の王族の結婚は、王子を先に王子を運んだ者が正妃になるという法がある。

 見事役目を果たした二人の所にまたもや王女がちょっかいをかけて来た。

 今度は「側妃でかまわない」と言ってきたのだ。

 そこで殿下は直ぐにサスキア妃殿下と次の子供を儲けた。それが年子で生まれた第二王子だ。

 国の法に照らしても2人産んだ場合、側妃は娶らなくてもよいという文面がある。それを殿下は利用した。今、懐妊しているのは、単に二人とも女の子が欲しかっただけのこと。

 国内では仲睦まじい王太子一家が、公務で各所に出向くのを心待ちにしている民衆も多い。

 それに第一王子は天使の様だと巷で評判で、王都にはロイヤルファミリーのグッズで溢れている。その位、国民の人気を攫っている王太子一家。

 残念ながら、殿下だけがお腹が弱いらしいことは、庶民の間でも有名になってしまい。時々慰問で訪れる孤児院で子供たちに「おうたいしでんか…おなか、だいじょうぶ?」と何とも可愛らしい心配をされているようだ。

 そして、昨夜、ワガママン王女は遂に強行して殿下に『催淫剤』を飲み物に混入したらしい。

 しかし、今の所、それを証明する手段がわたしの目撃証言だけという結果になっている。

 決定的な証拠がなければ、国際問題に発展しかねないので、今は静観するしかないという事だ。

 わたしは、自分がこんな仕打ちを受けたのが、あのガマガエル隣国宰相とワガママン王女の所為だと思うと、沸々と怒りが込み上げてきた。

 絶対に「倍返し」してやる。

 そう固く決心した。

 殿下の話はここまでで、その話には続きがあった。

 それは反乱軍の制圧でのこと。

 軍の指揮を執る者の行動がどうやら筒抜けになっていた様で、その死亡したシュゼットの父親にはスパイの容疑が掛けられていた。

 その場にいた他の騎士達の話を総合すると、レイモンドの父親とその末端の騎士との面識はなく。突然、敵が天幕に押し入って来て、末端騎士が身代わりに死亡したのだが、そもそもそこがおかしいのだとか。

 普通に戦況報告をしていた時に、奇襲にあった。その時、一人の騎士の証言では、レイモンドの父親を盾にしたように見えると証言した。続いてもう一人は、背後から来た敵は、末端騎士を狙って切ったのだと言った。末端騎士の最期の言葉が「なぜ…おれを…」と言い残した事から、最初からレイモンドの父を殺しに来て、返り討ちにあったので、末端騎士を始末したのではないかという結論だった。

 しかし、何も手がかりがなく、まだ反乱軍の首謀者までは辿り着いていない。

 そこで、その末端騎士の娘がなにか知っているかもしれないと、シュゼットを公爵家に引き取る事にしたらしい。

 本来なら、若い娘の好みそうな騎士を宛がって、彼女から情報を引き出そうとしたのだが、残念ながらシュゼットが選んだ相手は、レイモンドだった。

 何度か、他の騎士を紹介してみたが、シュゼットはレイモンド以外に関心も見せなかった。

 そのことから、更に疑惑が深まった。

 シュゼットは何か目的があって、公爵家に居座っているのではないかと…。

 それともう一つ隣国の動きもおかしいのだとか。もしかしたら、裏で糸を引いているのはあのガマガエル宰相ではないかと考えられる。

 レイモンドの父…指揮官を失って混乱している所を、隣国が助ける形で恩を売って無理矢理王女を押し付けようとしたのではないかと殿下は考えていた。

 そして、レイモンドは仕方がなくシュゼットに付き合わされていたらしい。

 わたしの実家、シュメール侯爵家にはレイモンドに不審な行動があっても婚約を解消しない様に、王家から圧をかけていたらしい。

 そこで、わたしはピンときた。

 あの夜会のバルコニーで友人たちのレイモンドが愚痴っていたのはそう言う事なのかと腑に落ちた。

 でも「レイモンドの唯一って一体誰なの?」そう思わず口にすると、

 「本当にサブリナ夫人は分からない?」

 と言って、殿下を始め、皆に残念なものを見る様な目を向けられている。

 分からないわよ。分かっているなら意地悪しないで教えて欲しい~~!!

 わたしは心の中で叫んでいた。

 まだ、何か立ち直れないのか、部屋の隅でレイモンドが蹲っている。

 「レイモンド…話は終わったわ。帰りましょうか」

 「………うっ…」

 何か苦しむ様なくぐもった声が聞こえて、レイモンドが頭を抱えて倒れた。

 そのまま、レイモンドは他の騎士達に担架で運ばれて行った。

 一体レイモンドの身に何があったんだろうと不安な気持ちが駆け巡る。

 結局、レイモンドの容態が落ち着くまで、わたしは王宮に留まる事になったのだ。
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