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突撃、隣のおかしな女
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次の日、案の定バタバタとけたたましい足音と共に喚き散らす女の声が聞こえてきた。
やっぱり来たわね
わたしの予想通り、夫婦の寝室にお伺いもせずに勝手に扉を開けて入って来たのは、例の女だった。
「何しにきたの?ここはわたしたちの部屋よ。出て行ってくれるかしら」
「それよりも、貴女、レイモンドに何をしたのよ。頭に包帯なんか巻いてる…もしかして、嫉妬して殺そうとしたんじゃないの」
まったくどいつもこいつも、私の事なんだと思っているのよ。歩く殺人鬼じゃあないのよ。それに嫉妬ですって、バカバカしい。
心の中で、愚痴っていると、後から慌てて執事長とメイド長が入って来て、わたしにペコペコ頭を下げながら、
「申し訳ありません。目を放した隙にこちらに来てしまいまして…」
「いいのよ。いつものことでしょう」
ちらりと二人を見ると、げっそりとやつれているのがわかる。
あーあ、そうだよね。あの馬鹿女を相手にしてたらやつれもするだろう。
先程の馬鹿…じゃない彼女は、シュゼット名字はない。ただの平民なのだから当たり前。
なら、どうして公爵家に居るかというと、今から3年ほど前、隣国との辺境地で反乱があった。
その反乱軍を鎮圧するためにレイモンドと義父である前公爵が向かったのだ。
反乱軍の鎮圧は直ぐに収束したが、前公爵は深手を負って、騎士団長の座を降りる事になった。
反乱軍の刃から公爵を庇った男性が死亡した。
その事に恩義を感じた前公爵は死亡した男性に名誉騎士爵を与えて貰ったのだが、問題はここからだ。
その男性には娘が一人いた。
シュゼットは死亡した男性の一人娘で、他に身寄りがなかったから、前公爵が引き取ることにした。
まあ、そんなことはよくあるのだが、普通の平民の娘なら、立場を弁えたりするものなのにね。
シュゼットは何を勘違いしたのか、自分が公爵令嬢になったように振る舞い始めた。
気に入らない使用人にあたるわ。
勝手に人の物を奪うわ。
やりたい放題し放題。
その内、反乱の事後処理が終わって帰って来たレイモンドに纏わりつくようになった。
最初は相手にもされていなかったのだけれど、前公爵が彼女を甘やかして、何かと優先するように言いつけた。それは、婚約者であるわたしよりも…。
最初は、我慢したのよね。
所詮、平民の女性。行く行くは裕福な平民に嫁ぐまでの辛抱だと思っていたのよ。
わたしも嫁ぐ家でのイザコザを今から体験したくないって思っていたから。
でもあったまにくる出来事があった。
王宮での夜会で着ていく大切なドレスにあの馬鹿女は事もあろうに真っ赤なワインをかけたのよ。
しかも、行く直前に…。
わたしは、流石に堪忍袋の緒が切れて、扇であの馬鹿女の顔を叩いたわ。
そしたら、前公爵が「この位の事で」と言いはじめ、後から来たレイモンドもまるでわたしが悪いような目で見て庇わなかった。
結局、前に着た事のあるドレスを着て行って、夜会で大恥を掻いた。
『ねえ、見て。サブリナさまのドレス、以前、別の夜会で着ていらしたのを見た事がありますわ。同じものを着て来るなんて…』
『やっぱりあの噂は本当だったんですね。レイモンド様に愛されていないって』
『ああ、わたくしも耳にした事がありましてよ。何でも既に愛人を公爵家に住まわせているとか』
『結婚したら、お飾りの妻になるんですね。わたくしなら耐えられないわ。本当に御気の毒よね』
そう言って好き勝手に噂された。
ふんっ!お気の毒に思っている奴がそんな噂をするかっつーの。
あの日から、わたしは社交界での笑い者になった。
ただでさえ、下手くそなエスコートを我慢してたのに、ますます行きたくなくなったのよね。
その上、何処で聞いたのか。出かける時の一悶着に尾鰭が付いて、嫉妬深い凶暴な女だと広まった。
ほんっとにいい迷惑だよ。
だから、あの時、全て諦めたんだ。レイモンドと仲良く夫婦をやっていくことを。仮面夫婦でいいやって考えちゃったんだよね。
だから、父も昨夜の惨状を目にした時に「とうとう殺ってしまった」と小さく呟いたのを聞いてしまった。
思い出したらムカついてきた!!
自分の娘ぐらい信じなよ。そんな無駄な事しないって!!わたしは趣味のビーズ製作者として生きていくんだからね。
あっ!そうだ。閃いた!
わたしが別棟で生活して、本邸にあの女が住めばいいんじゃない?
我ながら名案だわ。レイモンドが目覚めたらきっと賛成してくれる。
わたしは、これからの楽しいおひとりさまライフを満喫しようと考えていた。
あーあ、早く目覚めて、わたしに自由を……旦那様。
やっぱり来たわね
わたしの予想通り、夫婦の寝室にお伺いもせずに勝手に扉を開けて入って来たのは、例の女だった。
「何しにきたの?ここはわたしたちの部屋よ。出て行ってくれるかしら」
「それよりも、貴女、レイモンドに何をしたのよ。頭に包帯なんか巻いてる…もしかして、嫉妬して殺そうとしたんじゃないの」
まったくどいつもこいつも、私の事なんだと思っているのよ。歩く殺人鬼じゃあないのよ。それに嫉妬ですって、バカバカしい。
心の中で、愚痴っていると、後から慌てて執事長とメイド長が入って来て、わたしにペコペコ頭を下げながら、
「申し訳ありません。目を放した隙にこちらに来てしまいまして…」
「いいのよ。いつものことでしょう」
ちらりと二人を見ると、げっそりとやつれているのがわかる。
あーあ、そうだよね。あの馬鹿女を相手にしてたらやつれもするだろう。
先程の馬鹿…じゃない彼女は、シュゼット名字はない。ただの平民なのだから当たり前。
なら、どうして公爵家に居るかというと、今から3年ほど前、隣国との辺境地で反乱があった。
その反乱軍を鎮圧するためにレイモンドと義父である前公爵が向かったのだ。
反乱軍の鎮圧は直ぐに収束したが、前公爵は深手を負って、騎士団長の座を降りる事になった。
反乱軍の刃から公爵を庇った男性が死亡した。
その事に恩義を感じた前公爵は死亡した男性に名誉騎士爵を与えて貰ったのだが、問題はここからだ。
その男性には娘が一人いた。
シュゼットは死亡した男性の一人娘で、他に身寄りがなかったから、前公爵が引き取ることにした。
まあ、そんなことはよくあるのだが、普通の平民の娘なら、立場を弁えたりするものなのにね。
シュゼットは何を勘違いしたのか、自分が公爵令嬢になったように振る舞い始めた。
気に入らない使用人にあたるわ。
勝手に人の物を奪うわ。
やりたい放題し放題。
その内、反乱の事後処理が終わって帰って来たレイモンドに纏わりつくようになった。
最初は相手にもされていなかったのだけれど、前公爵が彼女を甘やかして、何かと優先するように言いつけた。それは、婚約者であるわたしよりも…。
最初は、我慢したのよね。
所詮、平民の女性。行く行くは裕福な平民に嫁ぐまでの辛抱だと思っていたのよ。
わたしも嫁ぐ家でのイザコザを今から体験したくないって思っていたから。
でもあったまにくる出来事があった。
王宮での夜会で着ていく大切なドレスにあの馬鹿女は事もあろうに真っ赤なワインをかけたのよ。
しかも、行く直前に…。
わたしは、流石に堪忍袋の緒が切れて、扇であの馬鹿女の顔を叩いたわ。
そしたら、前公爵が「この位の事で」と言いはじめ、後から来たレイモンドもまるでわたしが悪いような目で見て庇わなかった。
結局、前に着た事のあるドレスを着て行って、夜会で大恥を掻いた。
『ねえ、見て。サブリナさまのドレス、以前、別の夜会で着ていらしたのを見た事がありますわ。同じものを着て来るなんて…』
『やっぱりあの噂は本当だったんですね。レイモンド様に愛されていないって』
『ああ、わたくしも耳にした事がありましてよ。何でも既に愛人を公爵家に住まわせているとか』
『結婚したら、お飾りの妻になるんですね。わたくしなら耐えられないわ。本当に御気の毒よね』
そう言って好き勝手に噂された。
ふんっ!お気の毒に思っている奴がそんな噂をするかっつーの。
あの日から、わたしは社交界での笑い者になった。
ただでさえ、下手くそなエスコートを我慢してたのに、ますます行きたくなくなったのよね。
その上、何処で聞いたのか。出かける時の一悶着に尾鰭が付いて、嫉妬深い凶暴な女だと広まった。
ほんっとにいい迷惑だよ。
だから、あの時、全て諦めたんだ。レイモンドと仲良く夫婦をやっていくことを。仮面夫婦でいいやって考えちゃったんだよね。
だから、父も昨夜の惨状を目にした時に「とうとう殺ってしまった」と小さく呟いたのを聞いてしまった。
思い出したらムカついてきた!!
自分の娘ぐらい信じなよ。そんな無駄な事しないって!!わたしは趣味のビーズ製作者として生きていくんだからね。
あっ!そうだ。閃いた!
わたしが別棟で生活して、本邸にあの女が住めばいいんじゃない?
我ながら名案だわ。レイモンドが目覚めたらきっと賛成してくれる。
わたしは、これからの楽しいおひとりさまライフを満喫しようと考えていた。
あーあ、早く目覚めて、わたしに自由を……旦那様。
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