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最終話 未来の奇蹟
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私が王宮の中庭を散策している時だった。
夜の中庭に人影などないのに、少女の泣き声が聞こえてきた。
気のせいだ。こんな人気のない所に令嬢がいれば、まるで襲ってくれと言わんばかりではないか。
気になって、声のする方に行くと
「ほら、泣いてないで足を出してみろ。冷やしてやるから」
乱暴に面倒くさいとばかりの口調で、少女の足にハンカチを巻いている。その手慣れた様子に家族だろうと思っていた。
私の気配に気付くと
「そこで、盗み見をしている奴出てこい!!」
大きな声で威嚇するその姿はまるでヤマネコのようだった。
「すまない。近くで女性の泣き声が聞こえて来たから、何かあってはと見に来たのだが、お邪魔の様だったな」
「こ…これは大公閣下。無礼をお許し下さい」
畏まって、礼をする少年は黒い髪に褐色の肌、金色の瞳をしていた。
黒髪の一族といえばカンザス辺境侯爵家の者か?
不躾に睨んでいる年若い少年を何だか懐かしいと感じてしまうのは何故だろう。
見れば、一緒の少女は金色の緩いウェーブのかかった髪にエメラルドの瞳を持って象牙色の肌をした美少女だった。
この肌を持っているという事は、ミシェルウィー公爵家の令嬢か?
「ところで、こんな人気のない場所で何をしているんだ」
「はい、閣下、私が足を挫いてしまって…」
見れば今日デビュタントを迎えたという証のコサージュを付けている。
初々しい二人を見ながら
「そうか、ならばここはあまりよい場所ではないから、もっと人が多い場所か医務室に行きなさい」
そう言って立ち去ろうとしたが、少年の手首のバングルが気になって訊ねた。
「君達はお揃いのバングルを付けているが、何か意味があるのかな?」
「ああ、これですか。実は僕たちは生まれた時から同じ痣があるんです。生まれた時にあまり泣き止まないから、神殿に祈りに両親に連れられていったんです。彼女も同じ理由で来ていたんですが、僕と出会って二人とも泣き止んだんです。それに同じ赤い痣があって、きっと生まれる前からの縁だといわれ、そのまま幼い頃から一緒に育ちました。でも痣を隠す為にバングルを付けているんです」
私は彼らの痣を見て驚いた。それはジークレスト殿下とサフィニア様の手首に巻き付けてあった赤い布の場所と似ていた。
「君達の名前を聞いてもいいだろうか?」
「はい、僕はアーネスト・カンザス侯爵家の嫡男です」
「私はエルイン・ミシェルウィー公爵家の次女です」
「そうか、君たちは婚約者同士なのかな?」
「はい、一年後に結婚する予定なんです」
幸せそうに笑っている姿に私はかつての親友とその婚約者を見ているようだった。
きっと、彼らは今度こそ二人で幸せになる為に生まれてきたのだとそう考えていた。
それは明るい月夜が見せた奇蹟の瞬間でもあったのだ。
夜の中庭に人影などないのに、少女の泣き声が聞こえてきた。
気のせいだ。こんな人気のない所に令嬢がいれば、まるで襲ってくれと言わんばかりではないか。
気になって、声のする方に行くと
「ほら、泣いてないで足を出してみろ。冷やしてやるから」
乱暴に面倒くさいとばかりの口調で、少女の足にハンカチを巻いている。その手慣れた様子に家族だろうと思っていた。
私の気配に気付くと
「そこで、盗み見をしている奴出てこい!!」
大きな声で威嚇するその姿はまるでヤマネコのようだった。
「すまない。近くで女性の泣き声が聞こえて来たから、何かあってはと見に来たのだが、お邪魔の様だったな」
「こ…これは大公閣下。無礼をお許し下さい」
畏まって、礼をする少年は黒い髪に褐色の肌、金色の瞳をしていた。
黒髪の一族といえばカンザス辺境侯爵家の者か?
不躾に睨んでいる年若い少年を何だか懐かしいと感じてしまうのは何故だろう。
見れば、一緒の少女は金色の緩いウェーブのかかった髪にエメラルドの瞳を持って象牙色の肌をした美少女だった。
この肌を持っているという事は、ミシェルウィー公爵家の令嬢か?
「ところで、こんな人気のない場所で何をしているんだ」
「はい、閣下、私が足を挫いてしまって…」
見れば今日デビュタントを迎えたという証のコサージュを付けている。
初々しい二人を見ながら
「そうか、ならばここはあまりよい場所ではないから、もっと人が多い場所か医務室に行きなさい」
そう言って立ち去ろうとしたが、少年の手首のバングルが気になって訊ねた。
「君達はお揃いのバングルを付けているが、何か意味があるのかな?」
「ああ、これですか。実は僕たちは生まれた時から同じ痣があるんです。生まれた時にあまり泣き止まないから、神殿に祈りに両親に連れられていったんです。彼女も同じ理由で来ていたんですが、僕と出会って二人とも泣き止んだんです。それに同じ赤い痣があって、きっと生まれる前からの縁だといわれ、そのまま幼い頃から一緒に育ちました。でも痣を隠す為にバングルを付けているんです」
私は彼らの痣を見て驚いた。それはジークレスト殿下とサフィニア様の手首に巻き付けてあった赤い布の場所と似ていた。
「君達の名前を聞いてもいいだろうか?」
「はい、僕はアーネスト・カンザス侯爵家の嫡男です」
「私はエルイン・ミシェルウィー公爵家の次女です」
「そうか、君たちは婚約者同士なのかな?」
「はい、一年後に結婚する予定なんです」
幸せそうに笑っている姿に私はかつての親友とその婚約者を見ているようだった。
きっと、彼らは今度こそ二人で幸せになる為に生まれてきたのだとそう考えていた。
それは明るい月夜が見せた奇蹟の瞬間でもあったのだ。
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