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番外編~ジークレスト~
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もうすぐサフィニアと正式に婚姻することが決まった夜。私はいつもより丁寧に彼女の体を愛撫した。
もう、彼女の何処をどう触れば感じるのか解っている。私に強請る様に甘く喘ぐ声は小夜啼鳥の様だった。彼女を毎晩、腕に閉じ込めてもまだ足りない。
しかし、私は偶然知ってしまったのだ。医師が彼女に告げた言葉を。
「子供を産めば死ぬかもしれない」
その言葉に私は動揺した。彼女との子供は欲しい。でもその為に彼女を失うのは嫌だ。何の為に彼女を生かしたのか分からない。
そんな彼女は、いつも通り何事もなかった様に振る舞っている。
私には弱い所を見せて頼っても、甘えてもいいのに。
父から念を押される様に、子供を作ることを強制された。きっと父は知っている。子供を産んだら彼女が死ぬ事を。それでも王家に嫁いだ彼女の義務だというのだ。
そんな事は解っている。子供が欲しくないのではない。彼女と一緒に育てるから愛しいのだ。愛せるのだ。もし、彼女の命を奪って生まれれば、私はその子に何をするか分からない。そんな自分の恐ろしい感情を彼女に見せたくない。
サフィニアが懐妊してどんどんお腹が大きくなっていく、怖い。今にもその腹を突き破って出てきそうな位、大きな腹。
私には母親の命を吸い取りながら、育っている化け物にしか見えない。
愛せる自信がない。彼女に似ていればいる程、疎ましく感じるかも知れない。
そして、とうとう産気づいた。恐れていた日が来た。彼女を失う時がやって来たのだ。
何時間も苦しみながら、サフィニアは双子を産み落とした。
これで、彼女は役割を果たした。もう子供は必要ない。二人で静かに生きていきたい。
だが、出血が止まらないと意識が混濁している。そう医師から告げられ、二人きりで最期の言葉を交わした
「で…でんか…。お別れです。わ…たしは…もう…いきられません…これを…」
「これは…」
私に小さな小瓶を渡してきた。それは父から預かった『毒』だった。
ああ、嬉しい。最期の時になって、私と逝く事を選んでくれた事が。
もし、生きて子供の成長を見守って欲しいと頼まれたら私は我が子を殺してしまいそうだ。
そんな感情が支配しそうになる。だから、一緒に逝こう。
私も囚われている。
サフィニアに。長い間、ずっと彼女だけが私の唯一なのだから。
私は心から喜んだ。
「これが君の願いなら…」
そう言って、毒を飲み乾した。
サフィニアは、それを見届けて、先に瞼を閉じたのだ。満足そうな微笑みを残して、私も彼女の横に横たわりながら、呪いをする。昔から愛する者と来世を誓う時に使う呪い。サフィニアの手首と私の手首を赤い布で結んだ。
ああ、段々体が軽くなる。もうじき何も感じなくなるだろう。
願わくば、サフィニアともう一度来世で会いたい。
そして、彼女と添い遂げたい。
光が見える方に私は意識を飛ばして瞼を閉じた。
もう、彼女の何処をどう触れば感じるのか解っている。私に強請る様に甘く喘ぐ声は小夜啼鳥の様だった。彼女を毎晩、腕に閉じ込めてもまだ足りない。
しかし、私は偶然知ってしまったのだ。医師が彼女に告げた言葉を。
「子供を産めば死ぬかもしれない」
その言葉に私は動揺した。彼女との子供は欲しい。でもその為に彼女を失うのは嫌だ。何の為に彼女を生かしたのか分からない。
そんな彼女は、いつも通り何事もなかった様に振る舞っている。
私には弱い所を見せて頼っても、甘えてもいいのに。
父から念を押される様に、子供を作ることを強制された。きっと父は知っている。子供を産んだら彼女が死ぬ事を。それでも王家に嫁いだ彼女の義務だというのだ。
そんな事は解っている。子供が欲しくないのではない。彼女と一緒に育てるから愛しいのだ。愛せるのだ。もし、彼女の命を奪って生まれれば、私はその子に何をするか分からない。そんな自分の恐ろしい感情を彼女に見せたくない。
サフィニアが懐妊してどんどんお腹が大きくなっていく、怖い。今にもその腹を突き破って出てきそうな位、大きな腹。
私には母親の命を吸い取りながら、育っている化け物にしか見えない。
愛せる自信がない。彼女に似ていればいる程、疎ましく感じるかも知れない。
そして、とうとう産気づいた。恐れていた日が来た。彼女を失う時がやって来たのだ。
何時間も苦しみながら、サフィニアは双子を産み落とした。
これで、彼女は役割を果たした。もう子供は必要ない。二人で静かに生きていきたい。
だが、出血が止まらないと意識が混濁している。そう医師から告げられ、二人きりで最期の言葉を交わした
「で…でんか…。お別れです。わ…たしは…もう…いきられません…これを…」
「これは…」
私に小さな小瓶を渡してきた。それは父から預かった『毒』だった。
ああ、嬉しい。最期の時になって、私と逝く事を選んでくれた事が。
もし、生きて子供の成長を見守って欲しいと頼まれたら私は我が子を殺してしまいそうだ。
そんな感情が支配しそうになる。だから、一緒に逝こう。
私も囚われている。
サフィニアに。長い間、ずっと彼女だけが私の唯一なのだから。
私は心から喜んだ。
「これが君の願いなら…」
そう言って、毒を飲み乾した。
サフィニアは、それを見届けて、先に瞼を閉じたのだ。満足そうな微笑みを残して、私も彼女の横に横たわりながら、呪いをする。昔から愛する者と来世を誓う時に使う呪い。サフィニアの手首と私の手首を赤い布で結んだ。
ああ、段々体が軽くなる。もうじき何も感じなくなるだろう。
願わくば、サフィニアともう一度来世で会いたい。
そして、彼女と添い遂げたい。
光が見える方に私は意識を飛ばして瞼を閉じた。
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