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妹の望み
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ローズマリアは今までとはどこか違っている。泣き叫んで、我を通そうとした幼い行動は無くなっていた。
「お姉様、ただ生きていくだけの余生に何の意味があるの。まさか生きていれば幸せになれるなんてお伽噺のような事を言わないわよね。私が望む事は別の物よ。それを与えてくれるのは、お姉様ではないわ。殿下よ。私の望みは殿下が叶えてくれるわ。今のお姉様にできる事なんて何もないわ。折角、その身を差し出したのに残念ね。ふふ、でも殿下の望みは叶えられたわ」
ローズに言われなくてもそんなことは分かっている。私は無力だ。何の権限も権力も持っていない。私にできる事はただ殿下に縋る事だけなのだ。
それでも、ローズが言う様にたとえお伽噺かもしれないが、いつか生きてさえいればローズマリアにも幸せが訪れるのではないか。そう信じずにはいられなかった。
「ローズ、お願いだから、生きる希望を諦めないで」
私は狡い。偽善的な言葉を紡ぐのは、自分が傷つきたくないだけだ。一人になりたくないだけだ。この世でたった一人の妹が、何処かで生きているという希望を持ちたいのは、本当は私自身なのだから。
「ふふ、あははは。お姉様、今ご自分がどんな顔をしているのか分かっているの?やっと私を見てくれたのね。その瞳に私を映してくれた。もうこれで満足よ」
笑いながら泣くローズを見て私も泣きそうになりながら、抱きしめようと手を伸ばした。急にローズの顔が憎悪の色に変化し、私を激しく突き放した。
弾かれた手と体がふらふらしながら倒れ込みそうになると、誰かが私を支えながら抱き寄せた。誰かは直ぐに判る。
「サフィニアに何をする!!」
怒鳴り声を挙げる殿下がそこにいた。午前の政務を終えた殿下が私を迎えに来たのだ。
「ふふ、私から殿下を奪っていく姉を拒むのは当然でしょう。あの事故の時に死ねば良かったのに、そうすれば私はこんな所に居なかった。何もかもお姉様の所為よ。貴女なんかいなくなればいい!!」
妹の悲痛な叫び声が私には別の言葉に聞こえた。
「そうか、お前は全く反省していないのだな。分かった。お前が生きている限り、サフィニアに危害を加え続けるだろう。お前に『死』を与える」
「お待ちください。殿下。それでは…」
私は殿下に「約束が違う」そう言いたかった。でも約束なんてしていない。全ては私の思い込みだ。私にも分かっている。妹が望んでいる事を知らない振りをして、心に蓋をしただけだ。
殿下のその言葉を聞いてローズの口角は少し上がった。彼女の願いはただ一つ。
『名誉ある死』
だった。
罪を犯した貴族の女としての最高の死。後宮に生きる者は最高権力者の寵を争い、敗れたものの行先は冷遇され、幽閉されるか。死が待っている。
しかも民衆の前で公開処刑された者もいる。
本来なら、ローズマリアの罪も公開処刑されてもおかしくない。だが、秘密裏に行われるだけのこと。
今なら名誉ある死を与えられる。それは王太子妃としての最期を迎えられるのだ。断罪されるのではなく自死を強要されるが、貴族にとって矜持を守れる最後の手段。
「選べ、ローズマリア。白い布か剣、それとも杯か」
白い布は首を吊って死ぬ事を意味し、剣は胸や頸動脈を切って死ぬ事。杯は毒酒を煽って死ぬ事を指している。
「杯を与えて下さい。殿下」
「分かった。お前に杯を与える。明日の正午に持ってこさせる」
殿下は静かにそう言って、私を抱きしめたまま塔を後にした。殿下と妹のやり取りは、まるで最初から決まっていた芝居の筋書きのようだった。
私は殿下に連れられ離宮に帰りながら、殿下はローズと取引をしたのではないだろうか。だが、妹は一体何の為にそんな事をしたのだろう。
ただ釈然としない気持ちを抱えながら、殿下の後ろ姿を見つめていたのだった。
「お姉様、ただ生きていくだけの余生に何の意味があるの。まさか生きていれば幸せになれるなんてお伽噺のような事を言わないわよね。私が望む事は別の物よ。それを与えてくれるのは、お姉様ではないわ。殿下よ。私の望みは殿下が叶えてくれるわ。今のお姉様にできる事なんて何もないわ。折角、その身を差し出したのに残念ね。ふふ、でも殿下の望みは叶えられたわ」
ローズに言われなくてもそんなことは分かっている。私は無力だ。何の権限も権力も持っていない。私にできる事はただ殿下に縋る事だけなのだ。
それでも、ローズが言う様にたとえお伽噺かもしれないが、いつか生きてさえいればローズマリアにも幸せが訪れるのではないか。そう信じずにはいられなかった。
「ローズ、お願いだから、生きる希望を諦めないで」
私は狡い。偽善的な言葉を紡ぐのは、自分が傷つきたくないだけだ。一人になりたくないだけだ。この世でたった一人の妹が、何処かで生きているという希望を持ちたいのは、本当は私自身なのだから。
「ふふ、あははは。お姉様、今ご自分がどんな顔をしているのか分かっているの?やっと私を見てくれたのね。その瞳に私を映してくれた。もうこれで満足よ」
笑いながら泣くローズを見て私も泣きそうになりながら、抱きしめようと手を伸ばした。急にローズの顔が憎悪の色に変化し、私を激しく突き放した。
弾かれた手と体がふらふらしながら倒れ込みそうになると、誰かが私を支えながら抱き寄せた。誰かは直ぐに判る。
「サフィニアに何をする!!」
怒鳴り声を挙げる殿下がそこにいた。午前の政務を終えた殿下が私を迎えに来たのだ。
「ふふ、私から殿下を奪っていく姉を拒むのは当然でしょう。あの事故の時に死ねば良かったのに、そうすれば私はこんな所に居なかった。何もかもお姉様の所為よ。貴女なんかいなくなればいい!!」
妹の悲痛な叫び声が私には別の言葉に聞こえた。
「そうか、お前は全く反省していないのだな。分かった。お前が生きている限り、サフィニアに危害を加え続けるだろう。お前に『死』を与える」
「お待ちください。殿下。それでは…」
私は殿下に「約束が違う」そう言いたかった。でも約束なんてしていない。全ては私の思い込みだ。私にも分かっている。妹が望んでいる事を知らない振りをして、心に蓋をしただけだ。
殿下のその言葉を聞いてローズの口角は少し上がった。彼女の願いはただ一つ。
『名誉ある死』
だった。
罪を犯した貴族の女としての最高の死。後宮に生きる者は最高権力者の寵を争い、敗れたものの行先は冷遇され、幽閉されるか。死が待っている。
しかも民衆の前で公開処刑された者もいる。
本来なら、ローズマリアの罪も公開処刑されてもおかしくない。だが、秘密裏に行われるだけのこと。
今なら名誉ある死を与えられる。それは王太子妃としての最期を迎えられるのだ。断罪されるのではなく自死を強要されるが、貴族にとって矜持を守れる最後の手段。
「選べ、ローズマリア。白い布か剣、それとも杯か」
白い布は首を吊って死ぬ事を意味し、剣は胸や頸動脈を切って死ぬ事。杯は毒酒を煽って死ぬ事を指している。
「杯を与えて下さい。殿下」
「分かった。お前に杯を与える。明日の正午に持ってこさせる」
殿下は静かにそう言って、私を抱きしめたまま塔を後にした。殿下と妹のやり取りは、まるで最初から決まっていた芝居の筋書きのようだった。
私は殿下に連れられ離宮に帰りながら、殿下はローズと取引をしたのではないだろうか。だが、妹は一体何の為にそんな事をしたのだろう。
ただ釈然としない気持ちを抱えながら、殿下の後ろ姿を見つめていたのだった。
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