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妹
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それから一週間後、ローズマリアに再度、対面を許された私は、北の塔に向かっている。
北の塔に着くとそこは以前とは変わって、伸びていた蔓草も刈り取られていた。殿下に私の願いを聞き届けて貰えたようで安堵した。
これならば、ローズマリアの待遇も改善されたはず。
中に入ると以前の薄暗さはなく、日中の日差しを感じられるくらいの明るさはあった。ローズマリアの部屋も鉄格子の窓から覗き込むと、埃や黴臭かった部屋も空気が循環しているのか、微かに花の香りが漂っている。
ああ、この匂いは薔薇ね。ローズの名前と同じ匂いがしている。
寝台も白いシーツに取り換えられ、ローズの着ている衣装も貴族が着るドレスよりは質が落ちるが、裕福な平民が着るワンピースに変わっている。世話をする侍女も付けて貰えているようだ。
「ローズ、私よ。また会いに来たわ」
部屋の小窓から外を見る様に、窓辺の椅子に腰かけていた妹が反応する。
「……」
返事がないが、私は差し入れの品を付いてきた侍女から受け取ると扉の鍵を開けさせ中に入った。
「ローズ、良かったわ。殿下が貴女の待遇を改善してくれて」
私の言葉を聞いて途端、振り返った彼女は今まで見たどの姿より美しかった。まるで憑き物が落ちた様に、静かに佇んでいる。
「お姉様、今日は何をしにいらしたの。まさか、本当に話し合いなんて馬鹿げたことを言ったりしないでしょうね」
ローズは落ち着いた動作で、私に問い掛ける。
今日はまともに話せそうだわ。
ホッとしながら、ローズにこれからの事を聞きだそうとしていた。
「今日は、貴女の好きなお菓子や本を持ってきたの」
「ふふ、もうすぐ私に変わって王太子妃になるのにそんな余裕があるのね。流石だわ。お姉様は何でも御出来になる」
いつもの様に泣き叫ぶわけでもない妹は、何処か静かで不気味だった。
人は逆境に追い込まれると成長すると聞いた事があるが、そういう風でもない。瞳に決意の色を映しているようだった。
「ローズ、これから貴女の生きる為の手段を考えたいの」
「お姉様、そんなことは無駄よ。だってそんな事をすれば私は私で無くなるわ。死ぬまで幽閉するつもりかしら?それとも戒律の厳しい修道院送りか平民となって生きるの?どれもこれも私の望むものではないわ。分からない?お姉様はだから偽善者なのよ。この塔で死ぬまで幽閉されて私がお姉様に感謝するとでも思った?名前を変えて神に祈りを奉げても私の犯した罪は消えないわ。平民となって生きていけると思っているの。贅の限りを尽した公爵令嬢の私がそんな暮らしを望むとでも」
「では、ローズ貴女の望みは何?」
「お姉様、分かっているのでしょう。それを私の口から言わせたいのね。どこまでも狡い人」
「狡くても構わないわ。貴女を助けたいのも本当の気持ちよ」
「ふふ、お姉様。殿下との睦言は楽しめました?よかったですか?殿下の逞しい腕はさぞかし心地好かったでしょうね。そんな痕を態々私に見せにいらして、私の命乞いの為に殿下に身を差し出したお姉様はお金で売り買いされる娼婦と変わらないわ。これでお姉様の望み通り私と一緒になれたのね。『殿方の女神』におめでとうお姉様。これで一緒だわ」
私の首筋に浮かぶ赤い痕を指差しながら、クスクスと笑っている妹は何処か壊れている様だった。
北の塔に着くとそこは以前とは変わって、伸びていた蔓草も刈り取られていた。殿下に私の願いを聞き届けて貰えたようで安堵した。
これならば、ローズマリアの待遇も改善されたはず。
中に入ると以前の薄暗さはなく、日中の日差しを感じられるくらいの明るさはあった。ローズマリアの部屋も鉄格子の窓から覗き込むと、埃や黴臭かった部屋も空気が循環しているのか、微かに花の香りが漂っている。
ああ、この匂いは薔薇ね。ローズの名前と同じ匂いがしている。
寝台も白いシーツに取り換えられ、ローズの着ている衣装も貴族が着るドレスよりは質が落ちるが、裕福な平民が着るワンピースに変わっている。世話をする侍女も付けて貰えているようだ。
「ローズ、私よ。また会いに来たわ」
部屋の小窓から外を見る様に、窓辺の椅子に腰かけていた妹が反応する。
「……」
返事がないが、私は差し入れの品を付いてきた侍女から受け取ると扉の鍵を開けさせ中に入った。
「ローズ、良かったわ。殿下が貴女の待遇を改善してくれて」
私の言葉を聞いて途端、振り返った彼女は今まで見たどの姿より美しかった。まるで憑き物が落ちた様に、静かに佇んでいる。
「お姉様、今日は何をしにいらしたの。まさか、本当に話し合いなんて馬鹿げたことを言ったりしないでしょうね」
ローズは落ち着いた動作で、私に問い掛ける。
今日はまともに話せそうだわ。
ホッとしながら、ローズにこれからの事を聞きだそうとしていた。
「今日は、貴女の好きなお菓子や本を持ってきたの」
「ふふ、もうすぐ私に変わって王太子妃になるのにそんな余裕があるのね。流石だわ。お姉様は何でも御出来になる」
いつもの様に泣き叫ぶわけでもない妹は、何処か静かで不気味だった。
人は逆境に追い込まれると成長すると聞いた事があるが、そういう風でもない。瞳に決意の色を映しているようだった。
「ローズ、これから貴女の生きる為の手段を考えたいの」
「お姉様、そんなことは無駄よ。だってそんな事をすれば私は私で無くなるわ。死ぬまで幽閉するつもりかしら?それとも戒律の厳しい修道院送りか平民となって生きるの?どれもこれも私の望むものではないわ。分からない?お姉様はだから偽善者なのよ。この塔で死ぬまで幽閉されて私がお姉様に感謝するとでも思った?名前を変えて神に祈りを奉げても私の犯した罪は消えないわ。平民となって生きていけると思っているの。贅の限りを尽した公爵令嬢の私がそんな暮らしを望むとでも」
「では、ローズ貴女の望みは何?」
「お姉様、分かっているのでしょう。それを私の口から言わせたいのね。どこまでも狡い人」
「狡くても構わないわ。貴女を助けたいのも本当の気持ちよ」
「ふふ、お姉様。殿下との睦言は楽しめました?よかったですか?殿下の逞しい腕はさぞかし心地好かったでしょうね。そんな痕を態々私に見せにいらして、私の命乞いの為に殿下に身を差し出したお姉様はお金で売り買いされる娼婦と変わらないわ。これでお姉様の望み通り私と一緒になれたのね。『殿方の女神』におめでとうお姉様。これで一緒だわ」
私の首筋に浮かぶ赤い痕を指差しながら、クスクスと笑っている妹は何処か壊れている様だった。
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