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願いは

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 父とこんなに話したのは初めての事だった。

 父と話しても納得はいかなかった。だが、私達に残された時間は少なかった。相手は王家、どんなに足掻こうとも敵う相手ではない。例え、始まりが間違いであっても。

 「サフィニア・ミシェルウィーは死にました。私はクロア・ティエリティ―として今後生きていきます。どうか領地で健やかに残りの余生をお過ごしください。さようなら。ミシェルウィー公爵様」

 「ああ、王太子妃殿下。貴女もお元気で、二度と会うことはないでしょう」

 私と父は最後の挨拶を交わして、部屋を出た。

 虚しい。あんなに両親に愛されることを願ったのに……。

 父との関係が呆気なく終わり、何処か物足りなさを感じながら、騎士に連れられて離宮に戻った。

 私は離宮の与えられた部屋で無意味に過ごしていた。窓から見える景色を見ながら、昔、ここに閉じ込められていた曾祖父の事を考えていた。

 彼はここでどんな思いを抱えて過ごしていたのだろう。自分の運命を呪った事はないのだろうか。本来与えられるべき権利を全て弟に奪われ、その弟が犯した罪の後始末をさせられた。

 そう考えれば母がした事は、ある意味復讐だったのかもしれない。蔑ろにされた伯爵家の人間が直接王家の人間に何かできるわけがない。

 公爵家に生まれた私とローズマリアは不運だっただけだ。そう思うしかないのだろうか。父が言っていた王家の呪いの様な執着心が今の状況を引き起こしているとは私には理解できない。

 人間なのだから感情は誰にでもある。でも理性がある限り、ギリギリのラインで踏み留まれるはずだ。

 父の話を聞く前なら、殿下の気持ちが嬉しかった。でも今は少し違っている。純粋に殿下の心を受け取れない自分がいた。彼が悪いのでもない陛下が何かしたのではない。でも……

 心に靄がかかっている。晴れない。どうすればいいのか分からない。このまま流されるには大きすぎる代償を払ってしまう。これが運命だというのなら、せめて妹の命だけは助けたい。

 ローズマリアと云う名前を捨てさせても彼女だけは助けたい。彼女の最期は見たくない。血を流さずに済むのならと受け入れた私の決断が無意味なものにならない様に……。

 侍女が殿下の訪れを告げて来た。

 「サフィ。久しぶりに夕飯を一緒に取ろうと運ばせた」
 
 「ありがとうございます。態々こちらにお見えになられずとも、私の方から参りますのに」

 「それはダメだ。抱いた時に思ったがまだ体力が完全ではないだろう。私がここに足を運ぶよ」

 「殿下のお気持ちは嬉しいのですが…」

 「サフィ、殿下と他人行儀な呼び方ではなくて、名前を呼んでほしい。以前の様に『ジーク』と」

 「では、ジーク様。私が本宮に行くのはいけないのでしょうか?」

 「いけない訳ではない。今人の目に留まってしまうのは良くないからだ」

 「…分かりました。時が来るまでここで大人しくしております。所でジーク様、妹はどうなるのでしょうか?」
 
 殿下は静かに息を吐きながら

 「罪に問わない訳にはいかない。本人の改心次第だが、今の状態なら死罪は免れない」

 その言葉を聞いて

 「ジーク様、お願いがあります。もう一度、妹に会わせて頂けないでしょうか」

 暫し、思考していた殿下だが

 長い時間でないならとあっさり許可を出してくれた。

 私は妹を何とか説得しようと考えていたのだ。生きることが彼女の為になると信じて疑わなかった。

 それは間違いだと思い知らされたのは、妹に再び、対面した時に分かることになった。 
 
 
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