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父との対面
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客間には国王陛下との話し合いが終わった父が既に部屋にいた。
「殿下、この度はローズマリアが愚かな事を致しまして、申し訳ありません。爵位返上を願い出たのですが、公にする事ができない為、それも叶わぬ事になりました。葬儀の後に自領の別邸に妻共々隠棲いたします」
「そうか、陛下との話は終わったのだな。では、私から言うことは特別ない。しかし、サフィニアが父親と話し合いを希望している。これが最後の別れとなる。よく話すといいだろう。だが、騎士は念のため配備しておく、悪く思わない様に」
神妙に殿下の言葉に頷きながら、ちらりと私の方を見た。殿下の言う通り私との対面はこれが最後となるのだ。隣国から皇王の親書が届くのは一週間後。その時に向こうから教育係が来て、隣国の仕来りや習慣などを細かく教えてもらう。長くても1年程で結婚となるだろう。
この国の喪は半年で明ける。高位貴族以上になると3か月程、そのくらい早い。悲しみに暮れるよりも新しい希望に生きることをこの国では好まれている。しかも王族は子供が授かりにくいこともあって、余計早まるだろう。
「何か遭ったら騎士たちにきちんと指示しなさい。君はもう承諾した時点で私の実質上の妻なのだから」
殿下はそう言って部屋を出て行った。後に残された私は父に全てを吐き出したのだ。
「お父様、お掛け下さい。私と話せるのもこれがお互い最後の機会でしょう」
「そうだな、何が聞きたい」
侍女にお茶の用意を促し、私もソファーに腰かけた。
「何故、ローズマリアに仮の婚約の事を話さなかったのです。話していればあの子は、こんな大それたことをしなかったでしょう。それほど私たちに関心がなかったのですか?あんなにローズを可愛がっていらしたではないですか。あれは偽りの姿だったのですか」
父は、ふうっと息を吐き、落ち着いた表情で私を見ていた。
「やはり似ているな。本当に嫌になるくらいそっくりだ。お前と祖父は直接的な血の繋がりがないのに」
「どういう意味です。今はそんな話をしていないではありませんか」
「いや、関係がある。そもそも、私は王家が嫌いなのだ自分たちの都合ばかり押し付けてくる王族が」
父は虚ろな目をしながら、私に過去を話した。それは曽祖父と曾祖母の結婚の経緯だった。そこには公にされていない出来事があったのだ。
「ローズマリアのしたことは王家もやった事なのだよ。祖父は他の男の子供を身籠った祖母を引き受けたのだ。私の父は銀色の髪を持って生まれた。それがそういうことか分かるか?」
「曽祖父の子供でも髪は銀色なのではないのですか」
「違う。王の直系だけが銀髪なのだ。その髪こそが王位継承権の証。つまり、祖父は実の弟と姦通した女性を押し付けられたのだ。それが祖母だ。お前の曾祖母はそういった経緯で嫁いできたのだよ」
「何故です。どうしてそんな事に」
「元々、国王となった弟に話が合ったのだが、新婚ということで兄である祖父に話が来たのだよ。祖父の立場は微妙でね。王兄という立場でありながら政治には口を出せなかった。母親が伯爵家の出身で王妾であることから苦労されていたのだよ。成人するまで、離宮から出られず、父である王からは愛情を与えられず、母は狂ってしまっていた。あのような環境でまともに育った祖父は、奇跡に近かっただろう。隣国ティエリティ―から嫁いできた祖母は、翳りのある祖父より、明るく快活な国王に惹かれた。そして、二人は過ちを犯したのだ。この国の宗教では妾は許されていない。婚外子の扱いは酷いものだ。祖父自身が体験している。だから祖父は黙って王女を引き受けたのだ。生まれた子供は銀髪で、誰の子供か一目瞭然だった。王妃の目を盗んで出来た子供を祖父は、世間から匿う為にあの別邸で暮らしていたのだよ。異国から来た王女に合わせて建てたのではなく、本当は生まれた子供の住まいだったのだ。使用人から出自を漏らされないように隔離するために」
「そんな、では、曽祖父の血は私達には流れていないのですか?」
「いや、間接的に流れている。母親から。アマンダの実家の伯爵家は祖父の母親の嫁ぎ先。そこに彼女が生んだ男子がいたのだ。その孫がアマンダなんだよ」
「だから、お父様はお母様を娶ったのですか?」
「私はアマンダを愛している。しかし、両親が反対しなかったのはそういう経緯があったからだと思っている。恐らく、私の父は自分の母親から聞いて知っていたのだと思う。だが、その結婚で私はアマンダを苦しめた。家格のあっていない者同士の貴族の結婚は不幸でしかなった」
「どういうことですか。愛し合っていたのなら」
「周りはそういう目で見なかった。アマンダが体を使って私を籠絡したと酷い醜聞が社交界中を飛び交っていたよ。彼女が気鬱に成程。見ていられなかった。だから私は彼女が元に戻るまで、何でも叶えてやっていた。私は間違っていたのだ。アマンダに寄り添うことと放置することは別だということを気づかずにいた。いや、気づいた時には遅かった」
「何故、母に言われなかったのです」
「一度だけ、お前の教育に関して口を出した事があった。しかし、彼女の嘆く姿を見て、それ以上は言えなかった。もっと親身に寄り添うべきだった。私達の夫婦関係は幼い子供の飯事のようなものだ。信頼し愛情を育てるよりも相手に執着して縛り付けてしまう。そんな歪なものだった。その最大の被害者がローズマリアだ。アマンダはサフィニア、お前を大切で思い入れが強すぎた。だからそのお前に与えられなかった愛情を、ローズマリアで補っていたのだ。お前にしたかったことを全てローズマリアにしたのだ」
「どうして、止めなかったのです」
「できなかった。アマンダを壊してしまうのではと。私にとってこの世の何よりもアマンダが大切なのだ。区別したことなどない。お前もローズも私にとっては愛するアマンダが生んだ娘。それが全てだ。それ以上でもそれ以下でもないのだよ。何れお前も分かるだろう。これが王家の宿命だと。一人の人間に異常な執着を持ってしまう。王家にはそういう人間が多い。あのデントロー公爵家もそうだ。代々王族の血筋の者と結婚している。ユリウス・デントローも王太子殿下もお前という人間に固執している。ローズマリアもだ。それは足掻らえない宿命なのだろう」
「それでも、ローズに言うべきでした」
「ローズは聞く耳を持たなかった。何度も叱責したが、その度にアマンダが止めに入った。ローズマリアの素行が悪くなり、嫌な噂が流れた時にアマンダは、かつて自分がされていた社交界での苦しみを思い出しておかしくなっていったのだ」
父は天井を仰ぐように一筋の涙を流した。
「だから、これは罰なのだ。私がアマンダを開放してやれなかった。お前に薬を持っていると報告がきた時にその罪深さに己を呪った。同時に王家も元々種は王家が撒いたものだ。その代償をその王孫であるお前とローズマリアに支払わせる形となった事はすまないと思っている」
父は深々と私に頭を下げたが、どこか肩の荷が下りたようなすっきした表情が私を苛立たせた。
どうして、私達が昔の過ちの代償を今、払わなくてはいけないのだろう。殿下はこのことを知らないのかもしれない。私は、これを切り札に殿下にローズの命を助けてもらえるように頼むことにしたのだ。
全ての元凶である王家にも天罰を。
この私の願いは、思わぬ形で叶えられることになろうとは、この時の私は知らなかったのである。
「殿下、この度はローズマリアが愚かな事を致しまして、申し訳ありません。爵位返上を願い出たのですが、公にする事ができない為、それも叶わぬ事になりました。葬儀の後に自領の別邸に妻共々隠棲いたします」
「そうか、陛下との話は終わったのだな。では、私から言うことは特別ない。しかし、サフィニアが父親と話し合いを希望している。これが最後の別れとなる。よく話すといいだろう。だが、騎士は念のため配備しておく、悪く思わない様に」
神妙に殿下の言葉に頷きながら、ちらりと私の方を見た。殿下の言う通り私との対面はこれが最後となるのだ。隣国から皇王の親書が届くのは一週間後。その時に向こうから教育係が来て、隣国の仕来りや習慣などを細かく教えてもらう。長くても1年程で結婚となるだろう。
この国の喪は半年で明ける。高位貴族以上になると3か月程、そのくらい早い。悲しみに暮れるよりも新しい希望に生きることをこの国では好まれている。しかも王族は子供が授かりにくいこともあって、余計早まるだろう。
「何か遭ったら騎士たちにきちんと指示しなさい。君はもう承諾した時点で私の実質上の妻なのだから」
殿下はそう言って部屋を出て行った。後に残された私は父に全てを吐き出したのだ。
「お父様、お掛け下さい。私と話せるのもこれがお互い最後の機会でしょう」
「そうだな、何が聞きたい」
侍女にお茶の用意を促し、私もソファーに腰かけた。
「何故、ローズマリアに仮の婚約の事を話さなかったのです。話していればあの子は、こんな大それたことをしなかったでしょう。それほど私たちに関心がなかったのですか?あんなにローズを可愛がっていらしたではないですか。あれは偽りの姿だったのですか」
父は、ふうっと息を吐き、落ち着いた表情で私を見ていた。
「やはり似ているな。本当に嫌になるくらいそっくりだ。お前と祖父は直接的な血の繋がりがないのに」
「どういう意味です。今はそんな話をしていないではありませんか」
「いや、関係がある。そもそも、私は王家が嫌いなのだ自分たちの都合ばかり押し付けてくる王族が」
父は虚ろな目をしながら、私に過去を話した。それは曽祖父と曾祖母の結婚の経緯だった。そこには公にされていない出来事があったのだ。
「ローズマリアのしたことは王家もやった事なのだよ。祖父は他の男の子供を身籠った祖母を引き受けたのだ。私の父は銀色の髪を持って生まれた。それがそういうことか分かるか?」
「曽祖父の子供でも髪は銀色なのではないのですか」
「違う。王の直系だけが銀髪なのだ。その髪こそが王位継承権の証。つまり、祖父は実の弟と姦通した女性を押し付けられたのだ。それが祖母だ。お前の曾祖母はそういった経緯で嫁いできたのだよ」
「何故です。どうしてそんな事に」
「元々、国王となった弟に話が合ったのだが、新婚ということで兄である祖父に話が来たのだよ。祖父の立場は微妙でね。王兄という立場でありながら政治には口を出せなかった。母親が伯爵家の出身で王妾であることから苦労されていたのだよ。成人するまで、離宮から出られず、父である王からは愛情を与えられず、母は狂ってしまっていた。あのような環境でまともに育った祖父は、奇跡に近かっただろう。隣国ティエリティ―から嫁いできた祖母は、翳りのある祖父より、明るく快活な国王に惹かれた。そして、二人は過ちを犯したのだ。この国の宗教では妾は許されていない。婚外子の扱いは酷いものだ。祖父自身が体験している。だから祖父は黙って王女を引き受けたのだ。生まれた子供は銀髪で、誰の子供か一目瞭然だった。王妃の目を盗んで出来た子供を祖父は、世間から匿う為にあの別邸で暮らしていたのだよ。異国から来た王女に合わせて建てたのではなく、本当は生まれた子供の住まいだったのだ。使用人から出自を漏らされないように隔離するために」
「そんな、では、曽祖父の血は私達には流れていないのですか?」
「いや、間接的に流れている。母親から。アマンダの実家の伯爵家は祖父の母親の嫁ぎ先。そこに彼女が生んだ男子がいたのだ。その孫がアマンダなんだよ」
「だから、お父様はお母様を娶ったのですか?」
「私はアマンダを愛している。しかし、両親が反対しなかったのはそういう経緯があったからだと思っている。恐らく、私の父は自分の母親から聞いて知っていたのだと思う。だが、その結婚で私はアマンダを苦しめた。家格のあっていない者同士の貴族の結婚は不幸でしかなった」
「どういうことですか。愛し合っていたのなら」
「周りはそういう目で見なかった。アマンダが体を使って私を籠絡したと酷い醜聞が社交界中を飛び交っていたよ。彼女が気鬱に成程。見ていられなかった。だから私は彼女が元に戻るまで、何でも叶えてやっていた。私は間違っていたのだ。アマンダに寄り添うことと放置することは別だということを気づかずにいた。いや、気づいた時には遅かった」
「何故、母に言われなかったのです」
「一度だけ、お前の教育に関して口を出した事があった。しかし、彼女の嘆く姿を見て、それ以上は言えなかった。もっと親身に寄り添うべきだった。私達の夫婦関係は幼い子供の飯事のようなものだ。信頼し愛情を育てるよりも相手に執着して縛り付けてしまう。そんな歪なものだった。その最大の被害者がローズマリアだ。アマンダはサフィニア、お前を大切で思い入れが強すぎた。だからそのお前に与えられなかった愛情を、ローズマリアで補っていたのだ。お前にしたかったことを全てローズマリアにしたのだ」
「どうして、止めなかったのです」
「できなかった。アマンダを壊してしまうのではと。私にとってこの世の何よりもアマンダが大切なのだ。区別したことなどない。お前もローズも私にとっては愛するアマンダが生んだ娘。それが全てだ。それ以上でもそれ以下でもないのだよ。何れお前も分かるだろう。これが王家の宿命だと。一人の人間に異常な執着を持ってしまう。王家にはそういう人間が多い。あのデントロー公爵家もそうだ。代々王族の血筋の者と結婚している。ユリウス・デントローも王太子殿下もお前という人間に固執している。ローズマリアもだ。それは足掻らえない宿命なのだろう」
「それでも、ローズに言うべきでした」
「ローズは聞く耳を持たなかった。何度も叱責したが、その度にアマンダが止めに入った。ローズマリアの素行が悪くなり、嫌な噂が流れた時にアマンダは、かつて自分がされていた社交界での苦しみを思い出しておかしくなっていったのだ」
父は天井を仰ぐように一筋の涙を流した。
「だから、これは罰なのだ。私がアマンダを開放してやれなかった。お前に薬を持っていると報告がきた時にその罪深さに己を呪った。同時に王家も元々種は王家が撒いたものだ。その代償をその王孫であるお前とローズマリアに支払わせる形となった事はすまないと思っている」
父は深々と私に頭を下げたが、どこか肩の荷が下りたようなすっきした表情が私を苛立たせた。
どうして、私達が昔の過ちの代償を今、払わなくてはいけないのだろう。殿下はこのことを知らないのかもしれない。私は、これを切り札に殿下にローズの命を助けてもらえるように頼むことにしたのだ。
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