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決断
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殿下の瞳には私への執着が見えている。仄暗さを纏った黄金の瞳は見るものを魅了する。
「サフィ、君ともう一度やり直したい」
私の髪を一房手に取り口付けすると、殿下は上着の内ポケットからある物を出して、私に差し出した。
「殿下、これは……」
「これは、あの事故の時に渡す予定だったものだ。君の誕生日に合わせて作らせたのだが、結局渡せず、そのままになっていた。今更だと思うが受け取って欲しい」
それは私と殿下の瞳の色をはめ込んだ宝石の入った髪飾り。
「貸してご覧。私がつけてあげよう」
殿下が私の髪に直接つけてくれて
「良く似合っている。毎年、君の誕生日に何を贈るか決める事は、書類の案件を処理するよりも難しい。今までは君付きの侍女リナに相談していたのだが、あの年、彼女は結婚していて、誰に相談するか迷っていたんだ。君の親しい友人に相談しようかと思ったのだが、生憎ロドニス公爵令嬢は婚礼の準備で忙しく、スタンレー侯爵令嬢も領地に帰ってしまっていた。だから、ローズマリアが相談に乗るといってきて、つい相談したのが間違いだった。その所為で勝手な噂が流れ、サフィを傷つけてしまった事を心から悔やんだよ。でも信じて欲しい。口付けもそれ以上の事も君だけにしかしない。サフィ、今だから言うのだが、私は閨教育を受けていないのだ。君に私の初めてを貰ってもらう為に。おかしなことではないだろう。女性だけが処女か否かを問われるのならば、私もサフィに誠実で在りたいと考えていた。だから拒否したのだ」
その言葉に私は驚いた。王家では閨教育の一環で閨房指南役の女性が、王子が精通が始まると呼ばれ、手解きを実地でするのだ。大抵は、伯爵以上の未亡人や出産した既婚者。他国では父の側室であったりする。
殿下はそれを拒否したと言っている。
では、あの夫婦の寝所は使われていないのだろうか。一度もローズマリアと肉体関係を持っていないのだろうか。
私が返答に困っていると、殿下は又、私を引き寄せて、口付けを交わす。先ほどの強引な物ではなく、ぎこちなく優しいものだった。
「サフィ、どう上手くできているかな」
「どう」と聞かれても私も経験したことがない。そんな事を聞かれた私は顔が火照ってくるのを感じていた。目も潤んできた。
「サフィ、そんな顔をするのは止めて、私の理性を試しているのか」
「そんな事を聞かれましても、私にも経験がございません。恥ずかしいことを聞かないでください」
殿下は「可愛い」と言って、また私に口付けをする。
「殿下、お尋ねしたいのですが、妹とは、その…寝所を共に……」
言い終わらないうちに、殿下は深い口付けをした。
「先ほども言ったが、私はサフィが初めてだよ。何もかも」
この国の結婚式では口付けは行われない。指輪を交換して互いの誓いの聖水を飲むのだ。だから、殿下がしていないのならしていないのだろう。
でもそれなら何故、ローズマリアと結婚したのか。
「何故、ローズマリアと結婚したのですか?」
殿下の顔が僅かに歪んだのを私は見た。
「君の妹は私の乳兄弟に頼んで、薬を盛ったのだよ。そして私の寝室に忍び込んだ。一夜を共にしたと私を嵌めたのだよ。君の妹は実に愚かで罪深い。他の男と姦通した事を誤魔化す為に私を利用したんだ」
私は殿下の言葉に衝撃を受けた。まさか王族に薬を盛るなんて、その場で処刑されても誰も同情しないだろう。その行いは国を滅ぼす悪女の所業。
ローズマリアの言動に困惑しているのは私だけではなかった。
「ローズマリアとの婚約は、元々仮の物だった。サフィ、君が目覚めれば君と婚約し直した。それと当時、隣国からの申し入れに対する防波堤にしていた。この事は公爵には伝えていたのだ。仮の婚約期間が終わればローズマリアにはそれ相応の相手を王家が世話すると」
「では、その事をローズマリアは知らなかったのですか?」
「どうやら聞かされていなかったようだ。だから、こんな愚かな真似をしたのだろう」
なんて事なの。父は一体何を考えているの。あんなに可愛がってた娘に罪を犯させるなんて。
私はこの時はっきり知ってしまったのだ。父は私達子供には無関心だという事を。私だけではなかった。父はローズマリアも愛していなかったのだ。
だから、教えなかった。妹に伝えていれば、ローズは過ちを犯した時に、殿下にありのままを話していたかも知れないのに。父にとって私達はどうでもいい存在なのだと初めて理解したのだ。
北の塔に閉じ込められている憐れな妹を助ける為に私は
「殿下、先ほどの申し出をお受けいたします」
殿下に深々と頭を下げる。
これから先、この離宮で暮らす事になっても妹の命だけは助けなくては心の中で私は密かに決心した。
「サフィ、君ともう一度やり直したい」
私の髪を一房手に取り口付けすると、殿下は上着の内ポケットからある物を出して、私に差し出した。
「殿下、これは……」
「これは、あの事故の時に渡す予定だったものだ。君の誕生日に合わせて作らせたのだが、結局渡せず、そのままになっていた。今更だと思うが受け取って欲しい」
それは私と殿下の瞳の色をはめ込んだ宝石の入った髪飾り。
「貸してご覧。私がつけてあげよう」
殿下が私の髪に直接つけてくれて
「良く似合っている。毎年、君の誕生日に何を贈るか決める事は、書類の案件を処理するよりも難しい。今までは君付きの侍女リナに相談していたのだが、あの年、彼女は結婚していて、誰に相談するか迷っていたんだ。君の親しい友人に相談しようかと思ったのだが、生憎ロドニス公爵令嬢は婚礼の準備で忙しく、スタンレー侯爵令嬢も領地に帰ってしまっていた。だから、ローズマリアが相談に乗るといってきて、つい相談したのが間違いだった。その所為で勝手な噂が流れ、サフィを傷つけてしまった事を心から悔やんだよ。でも信じて欲しい。口付けもそれ以上の事も君だけにしかしない。サフィ、今だから言うのだが、私は閨教育を受けていないのだ。君に私の初めてを貰ってもらう為に。おかしなことではないだろう。女性だけが処女か否かを問われるのならば、私もサフィに誠実で在りたいと考えていた。だから拒否したのだ」
その言葉に私は驚いた。王家では閨教育の一環で閨房指南役の女性が、王子が精通が始まると呼ばれ、手解きを実地でするのだ。大抵は、伯爵以上の未亡人や出産した既婚者。他国では父の側室であったりする。
殿下はそれを拒否したと言っている。
では、あの夫婦の寝所は使われていないのだろうか。一度もローズマリアと肉体関係を持っていないのだろうか。
私が返答に困っていると、殿下は又、私を引き寄せて、口付けを交わす。先ほどの強引な物ではなく、ぎこちなく優しいものだった。
「サフィ、どう上手くできているかな」
「どう」と聞かれても私も経験したことがない。そんな事を聞かれた私は顔が火照ってくるのを感じていた。目も潤んできた。
「サフィ、そんな顔をするのは止めて、私の理性を試しているのか」
「そんな事を聞かれましても、私にも経験がございません。恥ずかしいことを聞かないでください」
殿下は「可愛い」と言って、また私に口付けをする。
「殿下、お尋ねしたいのですが、妹とは、その…寝所を共に……」
言い終わらないうちに、殿下は深い口付けをした。
「先ほども言ったが、私はサフィが初めてだよ。何もかも」
この国の結婚式では口付けは行われない。指輪を交換して互いの誓いの聖水を飲むのだ。だから、殿下がしていないのならしていないのだろう。
でもそれなら何故、ローズマリアと結婚したのか。
「何故、ローズマリアと結婚したのですか?」
殿下の顔が僅かに歪んだのを私は見た。
「君の妹は私の乳兄弟に頼んで、薬を盛ったのだよ。そして私の寝室に忍び込んだ。一夜を共にしたと私を嵌めたのだよ。君の妹は実に愚かで罪深い。他の男と姦通した事を誤魔化す為に私を利用したんだ」
私は殿下の言葉に衝撃を受けた。まさか王族に薬を盛るなんて、その場で処刑されても誰も同情しないだろう。その行いは国を滅ぼす悪女の所業。
ローズマリアの言動に困惑しているのは私だけではなかった。
「ローズマリアとの婚約は、元々仮の物だった。サフィ、君が目覚めれば君と婚約し直した。それと当時、隣国からの申し入れに対する防波堤にしていた。この事は公爵には伝えていたのだ。仮の婚約期間が終わればローズマリアにはそれ相応の相手を王家が世話すると」
「では、その事をローズマリアは知らなかったのですか?」
「どうやら聞かされていなかったようだ。だから、こんな愚かな真似をしたのだろう」
なんて事なの。父は一体何を考えているの。あんなに可愛がってた娘に罪を犯させるなんて。
私はこの時はっきり知ってしまったのだ。父は私達子供には無関心だという事を。私だけではなかった。父はローズマリアも愛していなかったのだ。
だから、教えなかった。妹に伝えていれば、ローズは過ちを犯した時に、殿下にありのままを話していたかも知れないのに。父にとって私達はどうでもいい存在なのだと初めて理解したのだ。
北の塔に閉じ込められている憐れな妹を助ける為に私は
「殿下、先ほどの申し出をお受けいたします」
殿下に深々と頭を下げる。
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