15 / 57
お祭り
しおりを挟む
私はユリウス様と祭りの準備の進行状況を確認しに来ている。
町の中心街には行灯が提げられていて、其々の家や店の趣向が凝らされていた。色とりどりの行灯がこの祭りを幻想的に仕上げてくれる要素の一つでもあるからだ。
「サフィニア嬢、あれは何?」
ユリウス様の指差す方を見ると、大きな山車に灯篭を積んでいる所だった。
「あれは女神様を象った灯篭で、祭りの最後に湖に浮かべて豊穣を祈るのです」
そう、この湖に棲む女神様は【愛と豊穣】の神様。だから、美しく彩った灯篭は女神を喜ばせるもの。そして国の安寧と豊穣を願うものなのだ。
「ちなみに女神の泉に行ったことはあるのですか?」
「はい、小さい頃に妹と二人で」
私は妹のローズと【女神の泉】いった事を思い出した。
「では、言い伝え通りに未来の相手が見えたのですか?」
「……い、いいえ。何も」
私は咄嗟に嘘をついてしまった。泉には王太子ジークレスト殿下が映ったのだ。それから間もなく王太子殿下の婚約者選びが始まり、私が選ばれた。でもそれは昔の事、もし今あの泉にいったとしても彼の姿は映らないだろう。妹と結婚している相手が映ることはないはず……
愚かな私は、まだ昔を引き摺っている。何故こうも後ろ髪を惹かれるのか自分でも分からない。一体いつまで引き摺れば前に進めるのだろう。やはりあの時ラストダンスを踊るのではなかった。
ラストダンスを踊った相手と恋に落ちるというのは本当ね。馬鹿ね、もう妹の夫なのに……
「サフィニア嬢?どうしましたか」
「いえ、何でもありません」
「しかし、顔色がよくありません。少し休みませんか?」
「そうですね。あちらの人気のカフェで休憩を取りましょう。護衛の方々も喉が渇いていらっしゃるでしょうし」
「相変わらず、他人への配慮がおありなのですね」
「そんな大げさなものではありませんわ」
「いえ、意図してできる事ではありませんよ」
「そうでしょうか」
「はい」
ユリウス様に頷かれて私は恥ずかしなった。そんなつもりではなかったのだが、他の人にはそう見えるようだ。
カフェは最近王都で流行しているテイクアウトもできる店構えで、お祭り用の為、店の表に屋台を設置していた。どうやら屋台ではサンドウィッチやホットドッグ等の軽食を提供するらしい。
「ごめんなさい。忙しいかしら?冷たい飲み物をお願いしたいのだけど」
「いらっしゃいませ。あ、お嬢様、少々お待ちください。こちらへどうぞ」
店の人は私の顔を見て、奥の角に案内してくれた。注文する間、接客してくれた女性は終始ユリウス様を熱い眼差しで見つめているが、彼は気付いているが素知らぬ顔を崩すことはなかった。
さすが、完璧な貴公子ね。こんな場所でもその姿勢を崩さないなんて立派な貴族ね。
彼の態度に感心しつつも私はこんな彼と仮に結婚して、上手くやっていけるのだろうかと少し不安な気持ちにさせられた。
王太子殿下の方がまだ融通が利く方で、こんな場所では砕けた仕種をしていた事を思い出した。
私ときたら、又。比べるなんて…
どこまでも付いて回る殿下との過去に自分の踏ん切りの悪さを呪っていくのだった。
町の中心街には行灯が提げられていて、其々の家や店の趣向が凝らされていた。色とりどりの行灯がこの祭りを幻想的に仕上げてくれる要素の一つでもあるからだ。
「サフィニア嬢、あれは何?」
ユリウス様の指差す方を見ると、大きな山車に灯篭を積んでいる所だった。
「あれは女神様を象った灯篭で、祭りの最後に湖に浮かべて豊穣を祈るのです」
そう、この湖に棲む女神様は【愛と豊穣】の神様。だから、美しく彩った灯篭は女神を喜ばせるもの。そして国の安寧と豊穣を願うものなのだ。
「ちなみに女神の泉に行ったことはあるのですか?」
「はい、小さい頃に妹と二人で」
私は妹のローズと【女神の泉】いった事を思い出した。
「では、言い伝え通りに未来の相手が見えたのですか?」
「……い、いいえ。何も」
私は咄嗟に嘘をついてしまった。泉には王太子ジークレスト殿下が映ったのだ。それから間もなく王太子殿下の婚約者選びが始まり、私が選ばれた。でもそれは昔の事、もし今あの泉にいったとしても彼の姿は映らないだろう。妹と結婚している相手が映ることはないはず……
愚かな私は、まだ昔を引き摺っている。何故こうも後ろ髪を惹かれるのか自分でも分からない。一体いつまで引き摺れば前に進めるのだろう。やはりあの時ラストダンスを踊るのではなかった。
ラストダンスを踊った相手と恋に落ちるというのは本当ね。馬鹿ね、もう妹の夫なのに……
「サフィニア嬢?どうしましたか」
「いえ、何でもありません」
「しかし、顔色がよくありません。少し休みませんか?」
「そうですね。あちらの人気のカフェで休憩を取りましょう。護衛の方々も喉が渇いていらっしゃるでしょうし」
「相変わらず、他人への配慮がおありなのですね」
「そんな大げさなものではありませんわ」
「いえ、意図してできる事ではありませんよ」
「そうでしょうか」
「はい」
ユリウス様に頷かれて私は恥ずかしなった。そんなつもりではなかったのだが、他の人にはそう見えるようだ。
カフェは最近王都で流行しているテイクアウトもできる店構えで、お祭り用の為、店の表に屋台を設置していた。どうやら屋台ではサンドウィッチやホットドッグ等の軽食を提供するらしい。
「ごめんなさい。忙しいかしら?冷たい飲み物をお願いしたいのだけど」
「いらっしゃいませ。あ、お嬢様、少々お待ちください。こちらへどうぞ」
店の人は私の顔を見て、奥の角に案内してくれた。注文する間、接客してくれた女性は終始ユリウス様を熱い眼差しで見つめているが、彼は気付いているが素知らぬ顔を崩すことはなかった。
さすが、完璧な貴公子ね。こんな場所でもその姿勢を崩さないなんて立派な貴族ね。
彼の態度に感心しつつも私はこんな彼と仮に結婚して、上手くやっていけるのだろうかと少し不安な気持ちにさせられた。
王太子殿下の方がまだ融通が利く方で、こんな場所では砕けた仕種をしていた事を思い出した。
私ときたら、又。比べるなんて…
どこまでも付いて回る殿下との過去に自分の踏ん切りの悪さを呪っていくのだった。
7
お気に入りに追加
820
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中


君のためだと言われても、少しも嬉しくありません
みみぢあん
恋愛
子爵家の令嬢マリオンの婚約者、アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は…… 暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓

人生の全てを捨てた王太子妃
八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。
傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。
だけど本当は・・・
受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。
※※※幸せな話とは言い難いです※※※
タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。
※本編六話+番外編六話の全十二話。
※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

やり直し令嬢は本当にやり直す
お好み焼き
恋愛
やり直しにも色々あるものです。婚約者に若い令嬢に乗り換えられ婚約解消されてしまったので、本来なら婚約する前に時を巻き戻すことが出来ればそれが一番よかったのですけれど、そんな事は神ではないわたくしには不可能です。けれどわたくしの場合は、寿命は変えられないけど見た目年齢は変えられる不老のエルフの血を引いていたお陰で、本当にやり直すことができました。一方わたくしから若いご令嬢に乗り換えた元婚約者は……。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる