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領地への出発
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夜会から一週間たった頃、領地への出発する為の準備を行っていた。
本邸の屋敷からは中庭が一望できる。
何処からとなく小さな笑い声が聴こえてくる。両手を一杯広げて、中庭の白い円卓の傍に立つ両親の元に駆け寄って行く姿。それは幼い頃の妹だった。
優しい笑顔で妹を迎える両親。その後、三人は仲良くお茶会を始めた。でも、そこには私の姿は無い。
それもその筈、私はいつも中庭を見つめるだけの傍観者でしかなかった。ずっと一人で厳しい教師からレッスンを受けていた。だから、両親と過ごした思い出等ありはしない。
最初の頃は、母も私の様子を見守っていたが、事ある毎に妹を優先していった。
私と家族との距離は次第に広がって行き、会話らしい会話もしなくなった。どちらかというと執事や家令、侍女らを通して会話していた気がする。
屋敷の何処を見ても妹と両親の仲の良い姿はあるが、その中にやはり私の姿は何処にも無かった。
その内、両親達とすれ違う毎日で、食事も一人で摂るようになる。
私が正式に王太子殿下の婚約者に選ばれると、住まいを王宮に移し、益々両親達とは疎遠になった。
本邸の使用人らとの交流も無く何だか知らない家にいる様な感覚だった。
私は領地へ向かう為、両親に別れの挨拶に父の書斎に行くと、中から両親が珍しく言い争っている。
ドアの前でノックをすると入っても良いと返事をもらった。
「お父様、今から領地へ向かいます。お別れの挨拶に来ました」
「サフィニア、気をつけて行くがいい」
「…」
「はい、ありがとうございます。お父様もお母様もお元気で」
「さ、サフィニア、静養が終わったら直ぐに戻って来るのよね」
「ええ」
「良かった、その頃にはローズの出産も終わっているから…」
「アマンダ!」
何か言おうとしている母を父が咎めた。珍しい事もあるものだと思った。
父は母の言いなりだった。社交界で人気の高かった母を射止めるのに父は苦労したと聞いている。そのせいか父は母の言うことを叶える為なら労力を惜しまないのだ。だから、母の教育方針にも口を出さなかった。
なのに先程、何かがあって二人は言い争っていた。しかも今又、父は母の言葉を遮っている。
私は疑問に思いながらその事を後回しにしていた。だが、それは間違いだったと後で気付かされる事になる。
私は知らなかったのだ。王宮で妹と王太子殿下との仲に決定的な亀裂が入っていることに…
父と母はいずれ訪れる破滅への道を歩み始めていることにこの時、誰もが想像していなかった。
そして、私は一人で護衛らに守られながら領地に向かったのだ。
本邸の屋敷からは中庭が一望できる。
何処からとなく小さな笑い声が聴こえてくる。両手を一杯広げて、中庭の白い円卓の傍に立つ両親の元に駆け寄って行く姿。それは幼い頃の妹だった。
優しい笑顔で妹を迎える両親。その後、三人は仲良くお茶会を始めた。でも、そこには私の姿は無い。
それもその筈、私はいつも中庭を見つめるだけの傍観者でしかなかった。ずっと一人で厳しい教師からレッスンを受けていた。だから、両親と過ごした思い出等ありはしない。
最初の頃は、母も私の様子を見守っていたが、事ある毎に妹を優先していった。
私と家族との距離は次第に広がって行き、会話らしい会話もしなくなった。どちらかというと執事や家令、侍女らを通して会話していた気がする。
屋敷の何処を見ても妹と両親の仲の良い姿はあるが、その中にやはり私の姿は何処にも無かった。
その内、両親達とすれ違う毎日で、食事も一人で摂るようになる。
私が正式に王太子殿下の婚約者に選ばれると、住まいを王宮に移し、益々両親達とは疎遠になった。
本邸の使用人らとの交流も無く何だか知らない家にいる様な感覚だった。
私は領地へ向かう為、両親に別れの挨拶に父の書斎に行くと、中から両親が珍しく言い争っている。
ドアの前でノックをすると入っても良いと返事をもらった。
「お父様、今から領地へ向かいます。お別れの挨拶に来ました」
「サフィニア、気をつけて行くがいい」
「…」
「はい、ありがとうございます。お父様もお母様もお元気で」
「さ、サフィニア、静養が終わったら直ぐに戻って来るのよね」
「ええ」
「良かった、その頃にはローズの出産も終わっているから…」
「アマンダ!」
何か言おうとしている母を父が咎めた。珍しい事もあるものだと思った。
父は母の言いなりだった。社交界で人気の高かった母を射止めるのに父は苦労したと聞いている。そのせいか父は母の言うことを叶える為なら労力を惜しまないのだ。だから、母の教育方針にも口を出さなかった。
なのに先程、何かがあって二人は言い争っていた。しかも今又、父は母の言葉を遮っている。
私は疑問に思いながらその事を後回しにしていた。だが、それは間違いだったと後で気付かされる事になる。
私は知らなかったのだ。王宮で妹と王太子殿下との仲に決定的な亀裂が入っていることに…
父と母はいずれ訪れる破滅への道を歩み始めていることにこの時、誰もが想像していなかった。
そして、私は一人で護衛らに守られながら領地に向かったのだ。
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