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見舞い
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それは二日前の事だった。
私が目覚めて一月経ち、どうにか車椅子で屋敷内を徘徊出来る程に回復した頃、突然妹が何の先触れもなく公爵家に、王太子殿下を伴って帰って来た。
私が眠っている間にローズマリアとかつての婚約者だった王太子殿下は婚姻した。盛大な結婚だった様だが今の私には関係ない。
「お姉様、お加減は如何です?」
「ええ、順調に回復しているわ。わざわざお見舞い等して頂かなくてもいずれ夜会で会えますのに…」
「まあ、お姉様はやはり恨んでお出でなのですね。私が王太子殿下と婚姻したことを、やはりあれは自殺するつもりで…」
「止めないか、ローズ。サフィニアはまだ目覚めたばかりなのだぞ。そんな事を言うものではない」
二人をラナが憎々しげに見ているのを私は目線で咎めた。
駄目よ。気持ちはありがたいけど相手は王族だから、ラナに何か合ったら私が悲しいから…
それに妹は昔から私が言うことに何かと騒ぎ立てて、私を悪者扱いするのには慣れている。だが、もう王太子妃になって、しかも次の世嗣ぎの母になるというのにこの幼さはどうかと思う。殿下もこんな妹が愛しいのだろうか。私ならこんな面倒臭い女は御免被りたいところだが、殿方はこういう女性が好ましいのかも知れない。
「殿下、私はもう婚約者ではなく妃殿下の身内ですので、どうか名前で呼ぶのは控えて頂けないでしょうか」
「す、すまないつい、口から出てしまった」
私と殿下とのやり取りに不満を持った妹は
「ねえ、ジーク様、お腹が張って来たので帰りましょう」
「そうだな。身体に良くないし、帰ることにしよう。サフィニア嬢も身体に気を付けて早く元気な姿を見せてくれ」
「畏まりました。遅らせながら殿下、妃殿下ご成婚おめでとうございます」
私は精一杯の笑みを二人に向けたが、心は沈んでいた。仲睦まじい二人を見るのはまだ堪えられそうにない。早く帰って欲しいと奥底で願っていた。出ないと声を張り上げて叫んでしまいそうになっている自分がいる。
ーーーそこは、私の居場所よ。貴女の居場所ではないわ。
そう言いそうになるのをグッと我慢して告げたのに
「ありがとう」
「まあ、お姉さまったら妃殿下だなんて他人行儀な呼び方はよして下さい。今まで通りローズと呼んで下さい」
「いえ、最早貴女様は王族になられたのですから、そのようにはお呼びできません」
「まあ、お姉様ったら冷たいお言葉です。やっぱり祝福して頂けないのですわ。お姉様は私を嫌っているのね」
「ローズいい加減にしなさい。サフィニア嬢はそんな事を言っていないだろう」
妹が私の部屋で泣きわめくので、その騒ぎを聞き付けた両親が
「サフィニア、何故身重の妹を労ってやれないのだ」
「やはりサフィニアは心の中ではローズを恨んでいるのね。さあ、ローズ彼方に、落ち着かないとお腹の子供によくありませんよ」
妹を宥めながら部屋から出て行った。帰り際、殿下が私の方を見ていた様な気がしたのは気のせいだろう。
私の中の全てが崩れていった。
私は今まで何の為に血の滲む様な努力をしてきたのだろう。こんな茶番をいつまで続ければいいのか、もう何もかもが嫌になってしまった。
両親はそんな私を無視して、次々縁談を私に薦めて来る。
王太子妃になれなかった私の何処がいいのか、同等の公爵家からも来ていた。
その中に王太子殿下の懐刀と呼ばれ友人でもある。
ユリウス・デントロー公爵令息の名があった。
彼は公爵家の嫡男で婿入り等出来ないのに…何故名前があるのか分からない。どういうつもりなのだろう。
その訳は私が王都を離れる最後の夜会で会って知ることになる。
私が目覚めて一月経ち、どうにか車椅子で屋敷内を徘徊出来る程に回復した頃、突然妹が何の先触れもなく公爵家に、王太子殿下を伴って帰って来た。
私が眠っている間にローズマリアとかつての婚約者だった王太子殿下は婚姻した。盛大な結婚だった様だが今の私には関係ない。
「お姉様、お加減は如何です?」
「ええ、順調に回復しているわ。わざわざお見舞い等して頂かなくてもいずれ夜会で会えますのに…」
「まあ、お姉様はやはり恨んでお出でなのですね。私が王太子殿下と婚姻したことを、やはりあれは自殺するつもりで…」
「止めないか、ローズ。サフィニアはまだ目覚めたばかりなのだぞ。そんな事を言うものではない」
二人をラナが憎々しげに見ているのを私は目線で咎めた。
駄目よ。気持ちはありがたいけど相手は王族だから、ラナに何か合ったら私が悲しいから…
それに妹は昔から私が言うことに何かと騒ぎ立てて、私を悪者扱いするのには慣れている。だが、もう王太子妃になって、しかも次の世嗣ぎの母になるというのにこの幼さはどうかと思う。殿下もこんな妹が愛しいのだろうか。私ならこんな面倒臭い女は御免被りたいところだが、殿方はこういう女性が好ましいのかも知れない。
「殿下、私はもう婚約者ではなく妃殿下の身内ですので、どうか名前で呼ぶのは控えて頂けないでしょうか」
「す、すまないつい、口から出てしまった」
私と殿下とのやり取りに不満を持った妹は
「ねえ、ジーク様、お腹が張って来たので帰りましょう」
「そうだな。身体に良くないし、帰ることにしよう。サフィニア嬢も身体に気を付けて早く元気な姿を見せてくれ」
「畏まりました。遅らせながら殿下、妃殿下ご成婚おめでとうございます」
私は精一杯の笑みを二人に向けたが、心は沈んでいた。仲睦まじい二人を見るのはまだ堪えられそうにない。早く帰って欲しいと奥底で願っていた。出ないと声を張り上げて叫んでしまいそうになっている自分がいる。
ーーーそこは、私の居場所よ。貴女の居場所ではないわ。
そう言いそうになるのをグッと我慢して告げたのに
「ありがとう」
「まあ、お姉さまったら妃殿下だなんて他人行儀な呼び方はよして下さい。今まで通りローズと呼んで下さい」
「いえ、最早貴女様は王族になられたのですから、そのようにはお呼びできません」
「まあ、お姉様ったら冷たいお言葉です。やっぱり祝福して頂けないのですわ。お姉様は私を嫌っているのね」
「ローズいい加減にしなさい。サフィニア嬢はそんな事を言っていないだろう」
妹が私の部屋で泣きわめくので、その騒ぎを聞き付けた両親が
「サフィニア、何故身重の妹を労ってやれないのだ」
「やはりサフィニアは心の中ではローズを恨んでいるのね。さあ、ローズ彼方に、落ち着かないとお腹の子供によくありませんよ」
妹を宥めながら部屋から出て行った。帰り際、殿下が私の方を見ていた様な気がしたのは気のせいだろう。
私の中の全てが崩れていった。
私は今まで何の為に血の滲む様な努力をしてきたのだろう。こんな茶番をいつまで続ければいいのか、もう何もかもが嫌になってしまった。
両親はそんな私を無視して、次々縁談を私に薦めて来る。
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その中に王太子殿下の懐刀と呼ばれ友人でもある。
ユリウス・デントロー公爵令息の名があった。
彼は公爵家の嫡男で婿入り等出来ないのに…何故名前があるのか分からない。どういうつもりなのだろう。
その訳は私が王都を離れる最後の夜会で会って知ることになる。
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