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友人
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私が目覚めた事を王国の新聞社が嗅ぎ付け屋敷前は常に人だかりが出来ていた。
中庭のガゼボで私は気の合う友人とお喋りを楽しんでいる。
ふふ、変な感覚だわ。王太子妃教育で忙しかった頃では考えられない様な満ち足りた日常を送れていることに驚いている。
「由緒正しい公爵家を見世物のように、どういうつもりなのかしら」
「仕方がないわ。私はそれだけの事をしたのだから…」
「あら、世論は貴女の味方よ。『悲劇の令嬢』ってね」
「ふふ、不名誉な渾名ね。それに王家に対する不敬罪になるわよ。単に立ち眩みで落ちた事故なのだから」
「本当にそうなの?死にたい程、愛していたのではないの?」
「もう終わった事よ、今更…忘れたいのよ。だから、体調が良くなったら領地に引きこもるの。貴女ともお別れよ」
「まあ、一番の友人なのに、酷い扱いね。でも気持ちは分かるわ。赤の他人なら良かったのに、代わりが実の妹ではやりきれないわよね。それで、文句の一つでも言ってやったの?」
「そんな事できる訳無いでしょう」
こんなやり取りをしているのは、気心の知れた友人のアモネア。ロドニス公爵家の令嬢でかつてのライバルだった人。そう、王太子妃を廻って善き競い相手だった。
学園時代からの付き合い。そんな彼女は今はザルツブルク侯爵家に嫁いでいる。夫婦関係は良好のようで、夫であるアンソニー・ザルツブルクはアモネアを大切にしている様だ。ちょっと羨ましい。私にもいつかそんな人が現れたらいいのに…
彼女が言っているのは、二日前に妹が私の見舞いに来たからだ。王太子殿下と一緒に。
「でも、本当に相変わらず無神経な女ね。社交界でも、女神と呼ばれた貴女と違って彼女は違う意味での殿方の女神だものね」
「止めて、いくら貴女でも王太子妃になった人間をそんな風に揶揄るとどんな咎があるか分からないじゃない。心配よ」
「大丈夫よ、ここだけの話だから」
「だからよ。ここはあの子の味方は大勢いるから…」
「そうね、貴女の味方は貴女付きの侍女達だけよね」
「…」
「ほら、そんな顔しないで、領地に行ったら新しい恋が待ってるかもよ」
「そうね。身体がもっときちんと動かせれる様になれば、気持ちも楽になれるかもしれないわね」
「私もアンソニーも貴女の味方よ」
「ありがとう」
私の心の痼はアモネアに話すことで少しは楽になったのだと思いたかった。
思い出したくもない。あの見舞いの日にあった出来事をアモネアは笑いながら吹き飛ばしてくれた。
例え一人でもそんな友人を持てた事を私は感謝している。
あれは二日前の事だった。
何の前触れもなくいきなり妹はかつての婚約者であるジークレスト様と見舞いと称して私を嘲りに来たのだ。
中庭のガゼボで私は気の合う友人とお喋りを楽しんでいる。
ふふ、変な感覚だわ。王太子妃教育で忙しかった頃では考えられない様な満ち足りた日常を送れていることに驚いている。
「由緒正しい公爵家を見世物のように、どういうつもりなのかしら」
「仕方がないわ。私はそれだけの事をしたのだから…」
「あら、世論は貴女の味方よ。『悲劇の令嬢』ってね」
「ふふ、不名誉な渾名ね。それに王家に対する不敬罪になるわよ。単に立ち眩みで落ちた事故なのだから」
「本当にそうなの?死にたい程、愛していたのではないの?」
「もう終わった事よ、今更…忘れたいのよ。だから、体調が良くなったら領地に引きこもるの。貴女ともお別れよ」
「まあ、一番の友人なのに、酷い扱いね。でも気持ちは分かるわ。赤の他人なら良かったのに、代わりが実の妹ではやりきれないわよね。それで、文句の一つでも言ってやったの?」
「そんな事できる訳無いでしょう」
こんなやり取りをしているのは、気心の知れた友人のアモネア。ロドニス公爵家の令嬢でかつてのライバルだった人。そう、王太子妃を廻って善き競い相手だった。
学園時代からの付き合い。そんな彼女は今はザルツブルク侯爵家に嫁いでいる。夫婦関係は良好のようで、夫であるアンソニー・ザルツブルクはアモネアを大切にしている様だ。ちょっと羨ましい。私にもいつかそんな人が現れたらいいのに…
彼女が言っているのは、二日前に妹が私の見舞いに来たからだ。王太子殿下と一緒に。
「でも、本当に相変わらず無神経な女ね。社交界でも、女神と呼ばれた貴女と違って彼女は違う意味での殿方の女神だものね」
「止めて、いくら貴女でも王太子妃になった人間をそんな風に揶揄るとどんな咎があるか分からないじゃない。心配よ」
「大丈夫よ、ここだけの話だから」
「だからよ。ここはあの子の味方は大勢いるから…」
「そうね、貴女の味方は貴女付きの侍女達だけよね」
「…」
「ほら、そんな顔しないで、領地に行ったら新しい恋が待ってるかもよ」
「そうね。身体がもっときちんと動かせれる様になれば、気持ちも楽になれるかもしれないわね」
「私もアンソニーも貴女の味方よ」
「ありがとう」
私の心の痼はアモネアに話すことで少しは楽になったのだと思いたかった。
思い出したくもない。あの見舞いの日にあった出来事をアモネアは笑いながら吹き飛ばしてくれた。
例え一人でもそんな友人を持てた事を私は感謝している。
あれは二日前の事だった。
何の前触れもなくいきなり妹はかつての婚約者であるジークレスト様と見舞いと称して私を嘲りに来たのだ。
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