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目覚め
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私は重たい瞼を薄く開くと、そこには懐かしい自室の部屋の様だった。
おかしい?私は王宮で暮らしていた筈なのに…何故、ここにいるのだろう?
私と目が合った侍女のラナが
「お嬢様、お目覚めですか?私が分かりますか?」
「ラ…ナ…」
ラナは近くのメイドに命じて両親を呼びに行かせた。
バタバタと扉の外が騒がしく大きく扉が開かれた途端、
「ああ、神様感謝します。サフィニアを還して下さって、ありがとうございます」
「良かった、心配した」
両親は涙を流しながら私の痩せ細った手を握った。
正直気持ち悪い…
両親に優しくされた事のない私は、違和感しかなかった。どうやらそれは侍女のラナや私付きのメイド、執事も同様で同じ様に冷めた目で見ていた。
私は物心付いた頃から王太子妃に相応しい人間になるように厳しく教育されていた。
しかし、二つ下の妹のローズマリアは両親に甘やかされて育てられた。
それは王家に嫁ぐ私と公爵家を継ぐ妹の差だと信じていた。両親はそう思って格差を付けていたのだとただ思い込みたかったのかも知れない。
妹は母親譲りのハニーピンクの髪とアメジストの瞳を持つ魅力的な少女だった。母親は伯爵家の出身で父とは身分を越えた恋愛結婚。そんな母親に瓜二つな妹を溺愛するのは仕方がないのかもしれない。
私は父親に似た亜麻色の髪に青い瞳の容姿で、華やかな美貌とはいえなかった。自分でも地味だと思っていたが、美貌の王太子ジークレストの隣に立つと尚更際立つ。
そんな妹を溺愛する両親から優しい声を掛けられた事は記憶にない。寧ろ叱咤される事は多々あった程だ。
「サフィニアもっと頑張りなさい」
「貴女なら上を目指しなさい」
「そのくらい、貴女なら当然できるでしょう」
出来ても出来なくても叱責される事は合っても誉められた事はなかった。かといって虐待や冷遇された訳でもない。そこに両親の期待は合っても愛情はないだけ。
それとは別に妹は両親から嫌だと言えば何かと免除されている。厳しい教師に注意されれば両親は妹の言い分だけ聞き、次々と解雇した。お陰で妹の教師達は妹のご機嫌取りだけをしている。跡継ぎ教育等当然出来ていない。それでもまだ、公爵家を支えられるだけの能力のある殿方を掴まえれれば、どれ程妹が不出来でも体裁は整えられる。妹ならその肢体と容姿で殿方を夢中にさせれるだろう。
私は自分の卑屈な考え方が一番嫌いだ。早くこの家から出て行きたかったのに…
「それで、私は一体どうしていたのでしょう?何故公爵家に戻っているのですか?」
「お前は覚えていないのか?」
「よく分かりません。王宮でバルコニーに立って殿下を見送っていたところまでしか…」
その先を思い出そうとすると頭が痛みだす。
「貴女は、一年眠っていたのよ」
「一年も…」
そんなに長く眠っていたなんて、一体私に何が合ったのだろう。
「あ…の…婚姻は…」
「…」
「私は、婚約を解消されたのでしょうか?」
「…そ、それは」
「いい、私から話そう。お前がバルコニーから落ちて直ぐに婚姻は解消された。いつ目覚めるか分からないお前を殿下は待つと仰って下さったのだが、婚姻しなければならない理由が出来たのだ」
「それはどういう…」
「相手が懐妊したからだ」
「お相手は誰ですか…まさか…」
「ローズマリアだ」
私は衝撃を受けた。噂は親切を装った人々から聞いてはいたが、現実になって私に返って来るとは思いもよらなかった。
「そ…そうですか。申し訳ありませんが、気分が優れませんので…」
「そうだな、目覚めたばかりだ。ゆっくり休むといい、私達はお前の味方だから安心しなさい」
扉を締める両親の姿を見るよりも先に私は寝台の布団を被った。そして、ラナに命じて一人にさせて貰った。それは私なりの矜持。誰にも涙を見せたくなかったから、一人で布団の中で涙を流した。
そう、私は王太子ジークレスト殿下を愛していたから、彼だけは私を見てくれていた。そう思っていたのに…やはり私は妹の様に愛される事はなかった様だ。その事実が私の心に抜けない棘の様に突き刺さっていった。
おかしい?私は王宮で暮らしていた筈なのに…何故、ここにいるのだろう?
私と目が合った侍女のラナが
「お嬢様、お目覚めですか?私が分かりますか?」
「ラ…ナ…」
ラナは近くのメイドに命じて両親を呼びに行かせた。
バタバタと扉の外が騒がしく大きく扉が開かれた途端、
「ああ、神様感謝します。サフィニアを還して下さって、ありがとうございます」
「良かった、心配した」
両親は涙を流しながら私の痩せ細った手を握った。
正直気持ち悪い…
両親に優しくされた事のない私は、違和感しかなかった。どうやらそれは侍女のラナや私付きのメイド、執事も同様で同じ様に冷めた目で見ていた。
私は物心付いた頃から王太子妃に相応しい人間になるように厳しく教育されていた。
しかし、二つ下の妹のローズマリアは両親に甘やかされて育てられた。
それは王家に嫁ぐ私と公爵家を継ぐ妹の差だと信じていた。両親はそう思って格差を付けていたのだとただ思い込みたかったのかも知れない。
妹は母親譲りのハニーピンクの髪とアメジストの瞳を持つ魅力的な少女だった。母親は伯爵家の出身で父とは身分を越えた恋愛結婚。そんな母親に瓜二つな妹を溺愛するのは仕方がないのかもしれない。
私は父親に似た亜麻色の髪に青い瞳の容姿で、華やかな美貌とはいえなかった。自分でも地味だと思っていたが、美貌の王太子ジークレストの隣に立つと尚更際立つ。
そんな妹を溺愛する両親から優しい声を掛けられた事は記憶にない。寧ろ叱咤される事は多々あった程だ。
「サフィニアもっと頑張りなさい」
「貴女なら上を目指しなさい」
「そのくらい、貴女なら当然できるでしょう」
出来ても出来なくても叱責される事は合っても誉められた事はなかった。かといって虐待や冷遇された訳でもない。そこに両親の期待は合っても愛情はないだけ。
それとは別に妹は両親から嫌だと言えば何かと免除されている。厳しい教師に注意されれば両親は妹の言い分だけ聞き、次々と解雇した。お陰で妹の教師達は妹のご機嫌取りだけをしている。跡継ぎ教育等当然出来ていない。それでもまだ、公爵家を支えられるだけの能力のある殿方を掴まえれれば、どれ程妹が不出来でも体裁は整えられる。妹ならその肢体と容姿で殿方を夢中にさせれるだろう。
私は自分の卑屈な考え方が一番嫌いだ。早くこの家から出て行きたかったのに…
「それで、私は一体どうしていたのでしょう?何故公爵家に戻っているのですか?」
「お前は覚えていないのか?」
「よく分かりません。王宮でバルコニーに立って殿下を見送っていたところまでしか…」
その先を思い出そうとすると頭が痛みだす。
「貴女は、一年眠っていたのよ」
「一年も…」
そんなに長く眠っていたなんて、一体私に何が合ったのだろう。
「あ…の…婚姻は…」
「…」
「私は、婚約を解消されたのでしょうか?」
「…そ、それは」
「いい、私から話そう。お前がバルコニーから落ちて直ぐに婚姻は解消された。いつ目覚めるか分からないお前を殿下は待つと仰って下さったのだが、婚姻しなければならない理由が出来たのだ」
「それはどういう…」
「相手が懐妊したからだ」
「お相手は誰ですか…まさか…」
「ローズマリアだ」
私は衝撃を受けた。噂は親切を装った人々から聞いてはいたが、現実になって私に返って来るとは思いもよらなかった。
「そ…そうですか。申し訳ありませんが、気分が優れませんので…」
「そうだな、目覚めたばかりだ。ゆっくり休むといい、私達はお前の味方だから安心しなさい」
扉を締める両親の姿を見るよりも先に私は寝台の布団を被った。そして、ラナに命じて一人にさせて貰った。それは私なりの矜持。誰にも涙を見せたくなかったから、一人で布団の中で涙を流した。
そう、私は王太子ジークレスト殿下を愛していたから、彼だけは私を見てくれていた。そう思っていたのに…やはり私は妹の様に愛される事はなかった様だ。その事実が私の心に抜けない棘の様に突き刺さっていった。
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