【完結】この愛に囚われて

春野オカリナ

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序章

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 建国記念日の式典で王太子ジークレストはパレードの先頭をきって、行進していた。王宮のバルコニーでは、彼の婚約者であるサフィニアが手を振っている。

 誰もがこの光景を幸せに満ちた恋人同士のやり取りだと思っていたことだろう。

 しかし、次の瞬間、国旗を広げて行進中の中央にドサッと鈍い音と同時に重みが加わった。旗を広げていた騎士達はその衝撃と重みで思わず手を放してしまう。

 慌てて行進を中断し、丸まっている旗を広げると一人の若い女性が血塗れで現れた。

 その女性は先程、バルコニーから手を振っていた王太子の婚約者。

 騎士達の動揺と侍女達の叫び声、民衆の混乱の声が入り交じり、大混乱となった。式典はその日の夕刊に『ブラッディ・マンデー』と呼ばれる程、新聞の紙面を大きく飾る事になる。

 果たして、彼女は事故なのか。事件に巻き込まれたのか。いや、一番皆が口にしないが自殺しようとしたのではないかと確信を持っていた。

 何故なら以前から王太子とその婚約者は不仲であるとの噂が社交界で囁かれていた。

 理由はある女性と王太子が親密な関係にあると。

 その女性は婚約者の実の・・妹だった。

 婚約者の妹を王太子妃にするのではと噂される程、数多くの密会を目撃されている。勿論、ご親切な・・・・友人や使用人らが婚約者に全て耳に入れていたことは当然だが、王太子は全て否定していて、勿論これ迄もサフィニアを蔑ろにしたことは一度もなかったが、噂は一向に消える事はなかった。

 最近では王太子と婚約者の間は誰もが関係を再構築していると思われていた矢先の出来事。

 結婚まで後一年というタイミングでこの様な結果となった。

 ぐったりと虫の息の婚約者を抱き締めながら王太子は慟哭している。

 沈着冷静な王太子が取り乱す姿を周りは初めて見たのだった。

 そして、誰もが

 これ程悲しむのなら、何故不貞を疑われるような行動をしたのだろうと口には出さないが心ではそう思った。

 薄い銀色に金の刺繍を縁取りした王太子の色のドレスは彼女の血で染まっていた。

 まるでその罪を暴きたてるように…
 
 彼女は国旗に阻まれて落下速度が落ちた為に奇跡的に一命を取り止めた。
 
 だが、醜聞は既に広まって婚約は解消となり、結局次の婚約者には妹が宛がわれた。

 自業自得だと誰もが思ったが、王太子は拒み続けた。

 婚約者の取り替えなど認めないと、しかしそれも半年後に一変して、結局慌てて結婚しなければならない事情・・ができたのだ。

 

 そして、事故から一年後に元婚約者サフィニアが意識を取り戻してから物語りは始まるのである。
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