婚約者は妹をご所望のようです…

春野オカリナ

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32.後悔と懺悔

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 ゲイルは、カインデルの顔を見て深い溜め息を零した。

 何かがひっかるカインデルは、どうしても確認したい事があった。

 今までアマンダやマリアンヌに何もしてこなかったゲイル…。

 その急な態度の変化に戸惑わない方がおかしいのだ。

 寧ろ今まで放置していた方がおかしいのだが、しかしそれも仕方がない。アマンダはマリアンヌと違って必ず抜け道を作っている。

 今まではレスティーナに直接何かを仕掛けた事はない。

 どちらかと言えばマリアンヌを焚き付けている節があった。

 今回の様に目の前で暴力を振るおうものなら、自分がどのような事になるのかよく分かっている。そこが姑息で狡賢いところだが、アマンダの場合、計算してやっていない。

 だから、今までは処罰したくとも出来なかったのだ。

 ゲイルは、カインデルに見せたいものがあると言って、書棚の奥詰まった所にある古い本を持ってきて目の前に置いたのだ。

 「義父上…これは…」

 「これを見つけたのは、レスティーナが5才の誕生日を迎える前だ。その日、昔の本を読み返そうと書棚に手を伸ばしたら、奥の方に本がしまってあることに気付いて、手に取ってみたらそれがあった。中を見てごらん」

 ゲイルに言われるままにカインデルはその本を開くと、それはゲイルの日記だった。しかし、その本の外装は何十年も経っているかのようにボロボロで、中の紙は黄ばみ所々、敗れている箇所もある。

 中の内容を部分的に読んでいくと、1回目の時間枠の時のものだった。

 「それを読んだ時、私は自分がおかしくなったのかと思ったよ。そこには未来の事が描かれているはずなのに、どう見ても何十年も前の物の様な状態だ。私はふと思ったんだ。もし、誰かが時計の針を撒き戻しているのなら、辻褄が合うのでは…とね。しかもそれを見つけたのはレスティーナの誕生パーティーを開く一週間前だった。きっと彼女の両親が彼女の為に私に真実を見せようと知らせたのではないかとね…」

 「義父上…それで貴方はどうしたのですか」

 「まずは、この家の監視を強化した。アマンダにつけていたメイドや執事、侍女らは私に忠実な者ばかりで、アマンダの行動を見張らせ報告させていた。もし、君やレスティーナに危害が及びそうになれば、助ける様にと指示も出していた。表向きは今までと変わらず接して、アマンダを公爵家から追い払う機会を狙っていたんだよ。それに私自身の後悔もある。レスティーナが生まれた時、イレーネ様に育てもらっていれば彼女は幸せな環境で過ごせたのではないかと……」

 「何故、そうしなかったのです」

 「彼女があまりに似すぎていたからだ…彼女の母親ジュリエッタに……。それでつい欲が出た。このまま、ここでレスティーナがジュリエッタに似た娘に成長するのを見ていたい。できることならカインデルと一緒になって公爵家を継いではもらえないだろうかとね」

 「じゃあ、イレーネ様とソニア様が誕生パーティーに出席したのは…」

 「ああ、今回、私が招待したんだ。二人との関係をやり直す為に。その日記に書かれている事が真実なら、せめて二人が亡くなる前に孫との触れ合いをと考えていた。前の時は彼女らの申し出をかたくなに拒否してしまって、あんな結末を迎えたのなら、自分の判断が間違ったのだと思い知らされた。思った通りレスティーナと二人は仲良くなった。私の中でイレーネ様はジュリエッタを貶める姑にしか見えなかったが、イレーネ様は別の考えをお持ちだったのだ。伯爵家の庶子として生まれたジュリエッタの事を本気で心配していた。だから、ジュリエッタに厳しい現実を突きつけ、言い続けた。それを私が捻じ曲げて解釈していたのだ。レスティーナとイレーネ様との関係を断ち切ったのは私だったのだから、今度はそうならない様にした。きっと、二人ならアマンダからレスティーナを救う手立てを講じてくれるとね」

 「何故、ご自分でなさらなかったのですか」

 「そうすればアマンダはレスティーナに容赦なく悪意を向けただろう」

 「前から不思議に思っていたんですが、義母は何故そこまでレスティーナを嫌うんです」

 「それはね。アマンダはレスティーナが私とジュリエッタとの子供だと思い込んでいるんだよ。そんな事は在り得ないのにね」

 ゲイルは何処か遠い眼差しを向けながら、深い溜め息をついて目を伏せた。

 そこには後悔の表情がありありと浮かんでいるのだった。
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