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28.終わりが近づく時…
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アーロンの記憶は時間が遡った時点と戻る時にしかない。
カインデルの眼は常には眼帯で封印を施されている為、全てを見ることはできない。それをしてしまえばカインデルはカインデルでいられなくなる。別の誰かに支配される。過去のセガールの王族の様に……。
セガールの王族にとってカインデルの眼は便利な予知能力程度として利用しているだけだった。
かつて、誰も信じられなくなったセガールの王が布いた恐怖政治の様に皆を支配した当時を教訓にした結果だ。
人の数だけ色々な考えや想いがあり、それらを全て否定して支配することは愚かな王のすること。過去から学んだセガールの王族は、この眼を持って生まれた子供を保護し、守る事を決めた。
聞こえはいいが、つまるところ監視付きの隔離に近い。
彼らは検問を受けた学問しか許されず、神殿の奥深くで俗世とかけ離れて過ごし、生涯誰とも交わる事も赦されなかった。
そう考えればカインデルは、公爵家の別棟を与えられ、学問や剣術も自由に学べる事が出来るだけでも破格の扱いだ。
その上、伴侶を持つこともできた。
今までの眼の持ち主は、誰かを愛したことはない。
自分は恵まれている。もしセガールに生まれていたならそう思っただろう。
しかし、エイダールでは当たり前の事も享受できない悔しさに歯痒さを何度覚えたのだ。
欲望には限りがない。
カインデルがそんな状況で唯一執着しているのが、レスティーナだった事は不幸中の幸いだと言えよう。
カインデルの願いは何時も一つ、彼女を手に入れて自分も幸せになる…単純明快な答えだけが常に頭を支配している。
他の事などどうでもいい。カインデルにとって何よりも優先するのはレスティーナのことなのだから…。
時間を戻した時もただ、レスティーナを蘇らせることしか頭になかった。
その想いに打算はなく、純粋にそう考えていただけなのだ。
カインデルの想いに女神が答えたのなら、クロイツェルはどうなのだ?
クロイツェルからはレスティーナへの想いなど無いに等しい。
逆にマリアンヌと共に生きたいのなら話は分かる。
だが、本当にそれを望んでの行動なのだろうか?
クロイツェルの行動には常に監視が付けられている。
なのに、何故かレスティーナは豊穣祭で暴走馬に出くわして、体中に深い傷を負った。
いくら癒しの能力があっても、直ぐには直せず春までかけてレスティーナは体を公爵領で直すとレスティーナはまた王都に帰っていた。
レスティーナがいない時間をクロイツェルはマリアンヌと過ごしたようで、二人はまたもや親密な仲となっていた。
そんなある時、王妃グレイシスが主催するお茶会でお茶を口にしたマリアンヌがその場に倒れた。
医師の診断の結果、毒を口にしたのだと言われ、会場は騒然となった。
誰もかれも疑心暗鬼の状態で、一人冷静なレスティーナはふと思い出した事があった。
マリアンヌが自分でお茶に花弁を入れていたことを……。
その事を医師に告げると、直ぐにマリアンヌのお茶を調べると『リラ』という薔薇に似た花弁が見つかった。
以前、レスティーナがお茶に薔薇の花びらを浮かべていたのを真似したようだが、時と場所が悪い上に全くの別物だ。
勉強嫌いのマリアンヌは、何も考えずに自分が持っていた花弁が薔薇ではなく、『リラ』だという事にも気付かずに飲んでしまった。
幸いな事に命には別状はなかったが、王命で修道院に送られることになった。
そんな危険なものを王城に持ち込んだのだから、当然の処罰である。母親のアマンダも監督不行き届きで、マリアンヌに付き添う様に同じ修道院にはいった。
ゲイルは事態を重く見て、職を辞して領地に帰り、代わりにカインデルに家督を譲ることになった。
クロイツェルはマリアンヌの処罰に不服をいい、レスティーナが仕組んだのだと言い張った。しかし、マリアンヌが修道院に行った後は、レスティーナに会う為、公爵家に通い始める。
クロイツェルのおかしな行動に周囲は首を傾げるばかりだった。
段々、クロイツェルの行動は拍車がかかった様におかしくなり始めた。そしてついにレスティーナを無理やり襲おうとした。
未然に防いだものの、事を重く見た国王はクロイツェルを北の塔に幽閉した。
そして、公爵家を継いだカインデルは18才になったレスティーナを婚姻したのだが、またもや時が戻ったのである。
あれほど監視が付いたクロイツェルがどうやってその眼を逃れて、王城の地下に行けたのか。
謎は深まる一方だった。
何度も何度も時を撒き戻すクロイツェル……。
女神の最後の翼は、7回目にして全て朽ちてしまった。
ひび割れた石版と翼のない女神像だけが王城の地下に静かに佇んでいる。
そして、最後のやり直しが始まったのだ。
カインデルの眼は常には眼帯で封印を施されている為、全てを見ることはできない。それをしてしまえばカインデルはカインデルでいられなくなる。別の誰かに支配される。過去のセガールの王族の様に……。
セガールの王族にとってカインデルの眼は便利な予知能力程度として利用しているだけだった。
かつて、誰も信じられなくなったセガールの王が布いた恐怖政治の様に皆を支配した当時を教訓にした結果だ。
人の数だけ色々な考えや想いがあり、それらを全て否定して支配することは愚かな王のすること。過去から学んだセガールの王族は、この眼を持って生まれた子供を保護し、守る事を決めた。
聞こえはいいが、つまるところ監視付きの隔離に近い。
彼らは検問を受けた学問しか許されず、神殿の奥深くで俗世とかけ離れて過ごし、生涯誰とも交わる事も赦されなかった。
そう考えればカインデルは、公爵家の別棟を与えられ、学問や剣術も自由に学べる事が出来るだけでも破格の扱いだ。
その上、伴侶を持つこともできた。
今までの眼の持ち主は、誰かを愛したことはない。
自分は恵まれている。もしセガールに生まれていたならそう思っただろう。
しかし、エイダールでは当たり前の事も享受できない悔しさに歯痒さを何度覚えたのだ。
欲望には限りがない。
カインデルがそんな状況で唯一執着しているのが、レスティーナだった事は不幸中の幸いだと言えよう。
カインデルの願いは何時も一つ、彼女を手に入れて自分も幸せになる…単純明快な答えだけが常に頭を支配している。
他の事などどうでもいい。カインデルにとって何よりも優先するのはレスティーナのことなのだから…。
時間を戻した時もただ、レスティーナを蘇らせることしか頭になかった。
その想いに打算はなく、純粋にそう考えていただけなのだ。
カインデルの想いに女神が答えたのなら、クロイツェルはどうなのだ?
クロイツェルからはレスティーナへの想いなど無いに等しい。
逆にマリアンヌと共に生きたいのなら話は分かる。
だが、本当にそれを望んでの行動なのだろうか?
クロイツェルの行動には常に監視が付けられている。
なのに、何故かレスティーナは豊穣祭で暴走馬に出くわして、体中に深い傷を負った。
いくら癒しの能力があっても、直ぐには直せず春までかけてレスティーナは体を公爵領で直すとレスティーナはまた王都に帰っていた。
レスティーナがいない時間をクロイツェルはマリアンヌと過ごしたようで、二人はまたもや親密な仲となっていた。
そんなある時、王妃グレイシスが主催するお茶会でお茶を口にしたマリアンヌがその場に倒れた。
医師の診断の結果、毒を口にしたのだと言われ、会場は騒然となった。
誰もかれも疑心暗鬼の状態で、一人冷静なレスティーナはふと思い出した事があった。
マリアンヌが自分でお茶に花弁を入れていたことを……。
その事を医師に告げると、直ぐにマリアンヌのお茶を調べると『リラ』という薔薇に似た花弁が見つかった。
以前、レスティーナがお茶に薔薇の花びらを浮かべていたのを真似したようだが、時と場所が悪い上に全くの別物だ。
勉強嫌いのマリアンヌは、何も考えずに自分が持っていた花弁が薔薇ではなく、『リラ』だという事にも気付かずに飲んでしまった。
幸いな事に命には別状はなかったが、王命で修道院に送られることになった。
そんな危険なものを王城に持ち込んだのだから、当然の処罰である。母親のアマンダも監督不行き届きで、マリアンヌに付き添う様に同じ修道院にはいった。
ゲイルは事態を重く見て、職を辞して領地に帰り、代わりにカインデルに家督を譲ることになった。
クロイツェルはマリアンヌの処罰に不服をいい、レスティーナが仕組んだのだと言い張った。しかし、マリアンヌが修道院に行った後は、レスティーナに会う為、公爵家に通い始める。
クロイツェルのおかしな行動に周囲は首を傾げるばかりだった。
段々、クロイツェルの行動は拍車がかかった様におかしくなり始めた。そしてついにレスティーナを無理やり襲おうとした。
未然に防いだものの、事を重く見た国王はクロイツェルを北の塔に幽閉した。
そして、公爵家を継いだカインデルは18才になったレスティーナを婚姻したのだが、またもや時が戻ったのである。
あれほど監視が付いたクロイツェルがどうやってその眼を逃れて、王城の地下に行けたのか。
謎は深まる一方だった。
何度も何度も時を撒き戻すクロイツェル……。
女神の最後の翼は、7回目にして全て朽ちてしまった。
ひび割れた石版と翼のない女神像だけが王城の地下に静かに佇んでいる。
そして、最後のやり直しが始まったのだ。
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