23 / 44
21.時を戻したのは……
しおりを挟む
カインデルは、レスティーナを蘇らせるため、隣国セガールにある賢者の石を探していた。
しかし、そんなものは存在すのかどうかも分からない。何の手がかりもないままに時間だけが過ぎた頃、セガールにある母方の従兄弟ロダンから別の事を聞かされた。
『なあ、お前知らないのか?お前の故郷エイダールには女神クレマンテの石版があるのを…』
『石版…?』
『ああ、何でも時を戻すことが出来るそうだ』
『時を…』
カインデルは知らない。自国エイダールに伝わる女神の石版は王位を継ぐ者…つまり王太子時代に国王自ら口頭でしか伝えられない事を……。なら何故ロダンが知っているんだ?
『今、何で知っているのか不思議に思ったんだろう?それはお目が持っている『神眼』を昔持っていた王族の一人が日記に記して残してあるんだよ。だから王族はその日記をある時期に読まされる。お前も読んでみればいいさ』
『俺が読ませてもらえるのか?』
『当然だ。お前はもう200年以上生まれなかった『神眼』の持ち主なんだから、生きているだけでこのセガールでは生神様扱いだよ。いっそエイダールなんか捨ててこっちにくればいい。王にはなれないが枢機卿にはなれる。どうだ』
いい話だろうとばかにロダンはカインデルに囁いた。
しかし、カインデルはそんなことよりもレスティーナを生き返らす事の方が重要だったのだ。
言い伝えの賢者の石を使っても死んだ者は生き返らないだろう。なら、時を戻せば全てを取り戻せるのではないか?その方がいい。時を戻したら、今度は自分の手でレスティーナを救い出し、手元に置けばいい。
そんな考えが沸々と湧き起って来た。
そうと決まればここにはもう用はない。急いで帰り支度をしているとロダンが部屋に入って来た。
『なあ、手荒真似はしたくなかったんだが仕方がないよな。お前をこのままエイダールに戻すと思っているのか?伯母上の腹から『神眼』を持つ者が生まれると分かっていたなら、彼女を他国に嫁がせなかったのに……』
『そんな事は俺には関係ない』
『関係あるさ。お前が『神眼』を持っている限り、永遠にセガールの者だ!』
ロダンが連れてきた騎士達に合図を送ってカインデルを拘束しようとした。
カインデルも抵抗し、両者の攻防が暫しの間繰り広げられたが、騎士の剣が過ってカインデルの右脇腹を刺してしまったのだ。
『愚か者!全知全能の神イフェルの加護を持つ者を死なせる気か!!神罰が下るぞ!!』
そうロダンが声を上げて怒鳴りつけている時に、カインデルを何か大きな光が包み込んでいた。カインデルは心に中で『エイダールの王城に行きたい』そう呟いた。
光は渦となって、カインデルを呑みこんで消えていったのだ。
カインデルが目を開けるとそこは王城の回廊に立っていた。
先程までは、確かに自分はセガールの従兄弟の所にいたはずだ。誰かが自分を助けてくれた。これが神の慈悲でなければ何だと言うのだろう。しかし最早カインデルに残された時間は僅か、一刻も早く石版の所に辿りつかなければならない。痛む脇腹を手で押さえ、止血しながら歩いて行く。
──目指すは王太子アーロンの元へ……。
レスティーナを取り戻す。その想いだけが瀕死の身体を突き動かしていた。
たまたま、アーロンは誰かに呼ばれたような気がして、夜中に回廊を歩いていた。
そこで出くわしたのだ。腹から血を流して片膝をついているカインデルに……。
『カインデル兄上…』
アーロンはカインデルに駆け寄って、肩を貸そうとした。だが、それよりも早くカインデルの両手がアーロンの襟ぐりを掴み、恐ろしい形相でアーロンを締め付けた。
『アーロン、女神の石版は何処だ!時間が無い、その場所に案内しろ!!』
『ですが兄上あれは緊急時にしか…』
『今がその時だ!!次期に王侯は消滅する。そうなってからでは遅いんだ!!やるなら今しかない。お前も分かっているだろう?あいつのように判断を誤るな』
強い口調で脅しの様な言葉を投げかけられ混乱しながらもアーロンは同調した。
──確かに使うなら今しかないだろう。
アーロンとカインデルは女神の像がある地下への扉を開いたのだ。
しかし、そんなものは存在すのかどうかも分からない。何の手がかりもないままに時間だけが過ぎた頃、セガールにある母方の従兄弟ロダンから別の事を聞かされた。
『なあ、お前知らないのか?お前の故郷エイダールには女神クレマンテの石版があるのを…』
『石版…?』
『ああ、何でも時を戻すことが出来るそうだ』
『時を…』
カインデルは知らない。自国エイダールに伝わる女神の石版は王位を継ぐ者…つまり王太子時代に国王自ら口頭でしか伝えられない事を……。なら何故ロダンが知っているんだ?
『今、何で知っているのか不思議に思ったんだろう?それはお目が持っている『神眼』を昔持っていた王族の一人が日記に記して残してあるんだよ。だから王族はその日記をある時期に読まされる。お前も読んでみればいいさ』
『俺が読ませてもらえるのか?』
『当然だ。お前はもう200年以上生まれなかった『神眼』の持ち主なんだから、生きているだけでこのセガールでは生神様扱いだよ。いっそエイダールなんか捨ててこっちにくればいい。王にはなれないが枢機卿にはなれる。どうだ』
いい話だろうとばかにロダンはカインデルに囁いた。
しかし、カインデルはそんなことよりもレスティーナを生き返らす事の方が重要だったのだ。
言い伝えの賢者の石を使っても死んだ者は生き返らないだろう。なら、時を戻せば全てを取り戻せるのではないか?その方がいい。時を戻したら、今度は自分の手でレスティーナを救い出し、手元に置けばいい。
そんな考えが沸々と湧き起って来た。
そうと決まればここにはもう用はない。急いで帰り支度をしているとロダンが部屋に入って来た。
『なあ、手荒真似はしたくなかったんだが仕方がないよな。お前をこのままエイダールに戻すと思っているのか?伯母上の腹から『神眼』を持つ者が生まれると分かっていたなら、彼女を他国に嫁がせなかったのに……』
『そんな事は俺には関係ない』
『関係あるさ。お前が『神眼』を持っている限り、永遠にセガールの者だ!』
ロダンが連れてきた騎士達に合図を送ってカインデルを拘束しようとした。
カインデルも抵抗し、両者の攻防が暫しの間繰り広げられたが、騎士の剣が過ってカインデルの右脇腹を刺してしまったのだ。
『愚か者!全知全能の神イフェルの加護を持つ者を死なせる気か!!神罰が下るぞ!!』
そうロダンが声を上げて怒鳴りつけている時に、カインデルを何か大きな光が包み込んでいた。カインデルは心に中で『エイダールの王城に行きたい』そう呟いた。
光は渦となって、カインデルを呑みこんで消えていったのだ。
カインデルが目を開けるとそこは王城の回廊に立っていた。
先程までは、確かに自分はセガールの従兄弟の所にいたはずだ。誰かが自分を助けてくれた。これが神の慈悲でなければ何だと言うのだろう。しかし最早カインデルに残された時間は僅か、一刻も早く石版の所に辿りつかなければならない。痛む脇腹を手で押さえ、止血しながら歩いて行く。
──目指すは王太子アーロンの元へ……。
レスティーナを取り戻す。その想いだけが瀕死の身体を突き動かしていた。
たまたま、アーロンは誰かに呼ばれたような気がして、夜中に回廊を歩いていた。
そこで出くわしたのだ。腹から血を流して片膝をついているカインデルに……。
『カインデル兄上…』
アーロンはカインデルに駆け寄って、肩を貸そうとした。だが、それよりも早くカインデルの両手がアーロンの襟ぐりを掴み、恐ろしい形相でアーロンを締め付けた。
『アーロン、女神の石版は何処だ!時間が無い、その場所に案内しろ!!』
『ですが兄上あれは緊急時にしか…』
『今がその時だ!!次期に王侯は消滅する。そうなってからでは遅いんだ!!やるなら今しかない。お前も分かっているだろう?あいつのように判断を誤るな』
強い口調で脅しの様な言葉を投げかけられ混乱しながらもアーロンは同調した。
──確かに使うなら今しかないだろう。
アーロンとカインデルは女神の像がある地下への扉を開いたのだ。
6
お気に入りに追加
2,709
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
会うたびに、貴方が嫌いになる
黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
長身の王女レオーネは、侯爵家令息のアリエスに会うたびに惹かれた。だが、守り役に徹している彼が応えてくれたことはない。彼女が聖獣の力を持つために発情期を迎えた時も、身体を差し出して鎮めてくれこそしたが、その後も変わらず塩対応だ。悩むレオーネは、彼が自分とは正反対の可愛らしい令嬢と親しくしているのを目撃してしまう。優しく笑いかけ、「小さい方が良い」と褒めているのも聞いた。失恋という現実を受け入れるしかなかったレオーネは、二人の妨げになるまいと決意した。
アリエスは嫌そうに自分を遠ざけ始めたレオーネに、動揺を隠せなくなった。彼女が演技などではなく、本気でそう思っていると分かったからだ。
【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中
殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね
さこの
恋愛
恋がしたい。
ウィルフレッド殿下が言った…
それではどうぞ、美しい恋をしてください。
婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました!
話の視点が回毎に変わることがあります。
緩い設定です。二十話程です。
本編+番外編の別視点
愛なんてどこにもないと知っている
紫楼
恋愛
私は親の選んだ相手と政略結婚をさせられた。
相手には長年の恋人がいて婚約時から全てを諦め、貴族の娘として割り切った。
白い結婚でも社交界でどんなに噂されてもどうでも良い。
結局は追い出されて、家に帰された。
両親には叱られ、兄にはため息を吐かれる。
一年もしないうちに再婚を命じられた。
彼は兄の親友で、兄が私の初恋だと勘違いした人。
私は何も期待できないことを知っている。
彼は私を愛さない。
主人公以外が愛や恋に迷走して暴走しているので、主人公は最後の方しか、トキメキがないです。
作者の脳内の世界観なので現実世界の法律や常識とは重ねないでお読むください。
誤字脱字は多いと思われますので、先にごめんなさい。
他サイトにも載せています。
もう尽くして耐えるのは辞めます!!
月居 結深
恋愛
国のために決められた婚約者。私は彼のことが好きだったけど、彼が恋したのは第二皇女殿下。振り向いて欲しくて努力したけど、無駄だったみたい。
婚約者に蔑ろにされて、それを令嬢達に蔑まれて。もう耐えられない。私は我慢してきた。国のため、身を粉にしてきた。
こんなにも報われないのなら、自由になってもいいでしょう?
小説家になろうの方でも公開しています。
2024/08/27
なろうと合わせるために、ちょこちょこいじりました。大筋は変わっていません。
公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。
【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる