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20.呪われた王子
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レスティーナが死んでから、王国には影が差してきた。元気であった国王と王妃は相次いで病に倒れ、新王太子となったアーロンは多忙を極めていた。
その上、兄のカインデルは国を出て行った。
父もグレイシスもレスティーナがいないこの国を見限ったのだろう。そう言っていた。
彼もまた、偽りの噂の所為で母親を亡くしている。噂を広めたのが当時側妃だった母グレイシスだと言われ、母もまた前王妃を追い詰め死なせたとして皆から責められた。
前王妃から生まれたカインデルは国王に似ておらず、隣国セガールの特徴を持っていた。その為、前王妃が自国から連れてきた騎士が相手ではと噂が立ったのだ。
その噂の所為で王妃は精神的に追い詰められ、食事がのどを通らない程になった。死んだときは体重が半分ほどになっていたのだ。
悪質な噂を流したとして、グレイシスの名が挙がったが、調査した結果、ある者が呟いた事がきっかけで実しやかに広まっていっただけだった。
その魔法の呪文の様な言葉「陛下に似ていないわね。瞳の色は護衛騎士と同じなのね」そう言ったのはアマンダだった。
アマンダには悪気がなかったのだろうが、その言葉は皆の猜疑心を煽る良き材料となった。
噂は大げさに広まって、二人が密会している等とまでなってしまい。護衛騎士は隣国に強制的に帰された。一人取り残された前王妃は次第に心を病んでいって、食事ものどに入らなくなっていったのだ。
そして、生まれたばかりのカインデルをサトラー公爵家に預けたのだ。
元々、ゲイル・サトラー公爵は子供が出来ない身体だった。
そのことを聞いても私は気付かなかった。マリアンヌの正体に……。
彼女の正体に気付いた時には全てが遅かった。
神殿の小さな祭壇の前で私はとうとうマリアンヌと式を挙げた。幸せだと思っていた。
レスティーナが死んでから、空は雲に覆われて、光が射してこない。その為、作物の実りが減ってきている。砂漠化している土地もある。
原因がレスティーナの死に関係があることは皆知っていた。だから、誰も来ない。唯一来たのはマリアンヌの母親アマンダだけだった。
祭祀が結婚の誓約を読み上げようとした時、大きな落雷がアマンダを直撃したのだ。
それは有りえない光景だった。
室内に落雷等あるはずがない。きっと女神の神罰だと祭祀たちが逃げ惑う。私は、燃えて何か呻き声を上げているアマンダを他所にマリアンヌの方を見た。
彼女は頭から砂となって消えて行った。そして純白のウェディングドレスだけが残ると、その中に何かうごめく物がある。
私が覗くと無数に複雑に絡み合った糸という糸が束になってうねり、それはどんどん大きく膨らんで最後には巨大な手になって私を呑み込んだ。
体中に糸が這うような感覚を覚えていた。それと同時に口を開けた大蛇の様な手から女の顔が生えている。
その美しい少女は微笑みながら、
──これで永遠にずっと一緒よ。私だけの王子様。
そう言ったのだ。
その時、初めて皆がマリアンヌの事を人形だと言っていた本当の意味が理解できた。
彼女は、アマンダの望んだ人形だ。魂が入っている訳でもない。彼女が望んだとおりに動くただの人形だったのだ。
私は、愚かにもそんな物に魅かれて大切な者を全て失った。
何もかも無くした私の頭にはレスティーナの名前だけがこびり付いた。
私の記憶からマリアンヌの名前は消えて、マリアンヌとの思い出はレスティーナに置き換えられていく。
糸が消えて祭祀たちが戻ってきた時には、私は一人純白のウェディングドレスを握って呆けていた。
もう、私の心は全てマリアンヌに持って行かれ、体の中に僅かに残った魂だけが毎日レスティーナを探し回っていた。
自分が無残に捨てた妃を探し回っている私の姿はさぞかし滑稽であっただろう。
ある夜、離宮にある池に映るレスティーナの姿を見た。
手招きする彼女の手を取ろうとして、池に身を投げ出し、溺れたのだ。
こうして、私の一度目の生涯が終わった。
狂った私のレスティーナへの執着が二度目三度目と石版で時を戻すことになるとは、私も思ってもいなかった。
そして、石版で時を戻せば戻すほど、呪いが濃く深くなることも分かっていなかったのだ。
その上、兄のカインデルは国を出て行った。
父もグレイシスもレスティーナがいないこの国を見限ったのだろう。そう言っていた。
彼もまた、偽りの噂の所為で母親を亡くしている。噂を広めたのが当時側妃だった母グレイシスだと言われ、母もまた前王妃を追い詰め死なせたとして皆から責められた。
前王妃から生まれたカインデルは国王に似ておらず、隣国セガールの特徴を持っていた。その為、前王妃が自国から連れてきた騎士が相手ではと噂が立ったのだ。
その噂の所為で王妃は精神的に追い詰められ、食事がのどを通らない程になった。死んだときは体重が半分ほどになっていたのだ。
悪質な噂を流したとして、グレイシスの名が挙がったが、調査した結果、ある者が呟いた事がきっかけで実しやかに広まっていっただけだった。
その魔法の呪文の様な言葉「陛下に似ていないわね。瞳の色は護衛騎士と同じなのね」そう言ったのはアマンダだった。
アマンダには悪気がなかったのだろうが、その言葉は皆の猜疑心を煽る良き材料となった。
噂は大げさに広まって、二人が密会している等とまでなってしまい。護衛騎士は隣国に強制的に帰された。一人取り残された前王妃は次第に心を病んでいって、食事ものどに入らなくなっていったのだ。
そして、生まれたばかりのカインデルをサトラー公爵家に預けたのだ。
元々、ゲイル・サトラー公爵は子供が出来ない身体だった。
そのことを聞いても私は気付かなかった。マリアンヌの正体に……。
彼女の正体に気付いた時には全てが遅かった。
神殿の小さな祭壇の前で私はとうとうマリアンヌと式を挙げた。幸せだと思っていた。
レスティーナが死んでから、空は雲に覆われて、光が射してこない。その為、作物の実りが減ってきている。砂漠化している土地もある。
原因がレスティーナの死に関係があることは皆知っていた。だから、誰も来ない。唯一来たのはマリアンヌの母親アマンダだけだった。
祭祀が結婚の誓約を読み上げようとした時、大きな落雷がアマンダを直撃したのだ。
それは有りえない光景だった。
室内に落雷等あるはずがない。きっと女神の神罰だと祭祀たちが逃げ惑う。私は、燃えて何か呻き声を上げているアマンダを他所にマリアンヌの方を見た。
彼女は頭から砂となって消えて行った。そして純白のウェディングドレスだけが残ると、その中に何かうごめく物がある。
私が覗くと無数に複雑に絡み合った糸という糸が束になってうねり、それはどんどん大きく膨らんで最後には巨大な手になって私を呑み込んだ。
体中に糸が這うような感覚を覚えていた。それと同時に口を開けた大蛇の様な手から女の顔が生えている。
その美しい少女は微笑みながら、
──これで永遠にずっと一緒よ。私だけの王子様。
そう言ったのだ。
その時、初めて皆がマリアンヌの事を人形だと言っていた本当の意味が理解できた。
彼女は、アマンダの望んだ人形だ。魂が入っている訳でもない。彼女が望んだとおりに動くただの人形だったのだ。
私は、愚かにもそんな物に魅かれて大切な者を全て失った。
何もかも無くした私の頭にはレスティーナの名前だけがこびり付いた。
私の記憶からマリアンヌの名前は消えて、マリアンヌとの思い出はレスティーナに置き換えられていく。
糸が消えて祭祀たちが戻ってきた時には、私は一人純白のウェディングドレスを握って呆けていた。
もう、私の心は全てマリアンヌに持って行かれ、体の中に僅かに残った魂だけが毎日レスティーナを探し回っていた。
自分が無残に捨てた妃を探し回っている私の姿はさぞかし滑稽であっただろう。
ある夜、離宮にある池に映るレスティーナの姿を見た。
手招きする彼女の手を取ろうとして、池に身を投げ出し、溺れたのだ。
こうして、私の一度目の生涯が終わった。
狂った私のレスティーナへの執着が二度目三度目と石版で時を戻すことになるとは、私も思ってもいなかった。
そして、石版で時を戻せば戻すほど、呪いが濃く深くなることも分かっていなかったのだ。
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