婚約者は妹をご所望のようです…

春野オカリナ

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9.運命の糸車③

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 レスティーナがクロイツェルの待つ応接室に行くと、そこには何故かマリアンヌの姿があった。楽しげに話をしている二人を見て、きっと姉の婚約者に挨拶に来たのだろうと単純にそう考えていた。

 しかし、レスティーナが来たのに部屋を出て行こうとはしない。内心イライラした気持ちを押えながら、レスティーナは心の平穏を保とうと必死だった。

 何とかその日のお茶会は無事に終わったはずだった。

 妹の突拍子のない一言で、レスティーナの心の平穏はいとも簡単に崩壊した。

 「ねえ、お母様!私クロイツェル様の婚約者になりたい。お姉様の様な老婆のような髪よりも私の蜂蜜色の髪の方が、クロイツェル様の金色の髪と良く似合うと思うの。それに今日は、私とたくさんお話をしてけれど、お姉様とはほとんど話さなかったわ。きっとお姉様のお話はつまらなかったのよ」

 無邪気に微笑みながら、マリアンヌは残酷な言葉を吐いている。

 そして、それを聞いていたアマンダも否定はしなかった。

 「それなら、挨拶だけして、紹介もされていない殿方を許可なく、名前で呼ぶマリアンヌは早速、お勉強の成果が現れたのね」

 咄嗟にレスティーナは嫌味を言ってしまった。

 言葉に詰まったマリアンヌはいつもの様に愛らしい目に大粒の涙を溜めて、声を震わせて、

 「ひどいわ、お姉様…いつもそんなふうに私に意地悪をいうなんて…」

 マリアンヌの鳴き声でアマンダも、

 「レスティーナ!!なぜ、貴女は妹を大切に出来ないの!キツイ物言いはお止めなさい!」

 有無を言わさず叱りつけてきた。

 レスティーナにとって運が悪い事に、忘れ物を取りに来たクロイツェルにその現場を見られたことだ。

 最後のマリアンヌとアマンダの言葉しか聞こえなかったクロイツェルは、レスティーナは、自分の前では猫を被った嘘つきだと思ってしまった。

 「何を騒いでいるの?レスティーナ、君がそんな人だと思わなかったよ。たった一人の妹に優しく出来ないのか?」

 レスティーナの耳に冷たいクロイツェルの声が聞こえた。

 その双眼は、今までとは違って冷たく蔑むような目だった。

 好きな相手からそんな冷たい言葉を聞いたレスティーナは、静かに謝罪の言葉を口にした。

 「ごめんなさい…私が言い過ぎました」

 心のなかで、私は間違っていないのに…。

 そう思いながら、泣いているマリアンヌをアマンダと二人で宥めている婚約者…クロイツェルを見つめていた。

 クロイツェルが帰ると、アマンダは、レスティーナを別棟に追いやった。

 別棟には、カインデルが住んでいる場所なのだが、今はいない。

 レスティーナとクロイツェルの婚約が整うのと同時に隣国セガールに留学に行ったのだ。

 こんな時、兄カインデルがいたら、きっとレスティーナを頭を撫でながら、慰めてくれただろう。

 そんなことを泣きながら、カインデルの私室のベッドサイドに腰掛けていた。

 ベッドに横になると、カインデルの匂いがした。

 まるでカインデルに抱きしめられているような感覚で、レスティーナは泣きつかれて眠ってしまったのだ。

 夕飯に現れないレスティーナを心配したゲイルは、事のあらましを家令から聞くと、カインデルの部屋で寝ているレスティーナを見つけた。

 ゲイルは、レスティーナを自室に連れ帰り、自分のベッドに寝させた。

 家令のテレンスから詳しい事情を聞くと深い溜め息をついた。

 寝ているレスティーナの頭を撫でながら、

 クロイツェルとの婚約を保留にしてもらおうと考えていた。

 物事の表面しか見ないクロイツェルでは、レスティーナを深く傷付けるかもしれないと考えていた。
  
 数日後、ゲイルは国王…エルガードに会うために登城した。 
 
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