8 / 44
閑話 巻き戻し前の密談
しおりを挟む
王城の一室で二人の青年が溜め息をついている。
「はあ─っ、また兄上は時間を巻き戻すつもりなのかな?」
「まあ、そうなるだろうな」
「兄上は平気なの?こんなに何回も同じ時を過ごさなくていけないのに……僕は嫌だな─…。一体いつになったらリーゼロッタと結婚できるのさ」
「それを言うなら俺は子供に会いたい…」
「そうだよね。義姉上のお腹の子供が生まれてきたことがないもんね」
「ああ、いつも生まれる前に時を戻されるからな」
「よく落ちついて居られるね。僕はもう我慢の限界だよ!大体女神の石版は、緊急時の時、王国が取り返しがつかない事態に陥った時にしか使っちゃいけないのに、こんな私的なことで使っているのはいいの?」
「よくないだろう。心配しなくてもその次はない…」
「はははっ、断言できるってことは、その兄上の眼には未来が見えているんだよね。僕と違って兄上はその眼のおかげでやり直しの記憶を持っている。僕はいつも時間が撒き戻る時に思い出すんだ。それはきっとあの兄上も一緒なんだろう。だから女神の石版に触れて何度も時間を戻すんだから……呪われているのにさ」
「本人は知らない。最初の時にした行いで女神クレマンテの怒りに触れた事を分かっていない。いや分かっているのかもしれないが、理解しない様にしているんだろう」
「ほんと─っっ、迷惑な話……いい加減に認めたらいいのに、レスティーナとの縁の糸はとっくの昔に切れているんだ。どんなにクロイツェル兄上が足掻こうと元には戻らない。自分が選んだ偽りの愛にしがみ付けばいいんだ」
「その愛が作られたものだから認めるのが怖いんだろう…。自分で全てを壊した事実を受け入れられないのだ」
「もう、どうしてカインデル兄上はいつも落ち着いて居られるの?レスティーナを最初の時みたいに失ったらどうするつもりなの?」
「心配してくれるのか?アーロン。そうならない様にいつも平静を装って我慢しているんだ。出ないと壊しそうだから…」
アーロンは目の前のカインデルの左眼がエメラルドの瞳が鋭く光ったような気がして、ゾッとした。
この一番上の兄は、何時も何時も王城から出されて、サトラー公爵家で秘密裏に育てられる。
表舞台に立てない兄の心中は表面の穏やかさと違ってきっと嵐が吹き荒んでいるのだろう。
部屋の外には、アーロンの婚約者リーゼロッタとレスティーナが仲良く、楽しそうにお茶を飲んでいる。きっとこれからのお互いの未来について話しているのだろう。
まだ来ないその先の未来を夢見て……。
カインデルとアーロンは「そろそろ時間だ」と言わんとばかりに部屋から出て行った。
彼らの向かう先にはそれぞれの愛しい者達が微笑みながら手招きをしているのだった。
カインデルは見ている。
近い未来、あの石版が壊れて行く様を……。
もう少しだ…もう少しで全てが終わる。
今度で最後なのだ。
もうじき女神の最後の審判が下るだろう。
その時になれば自分の愚かさにやっと気付くのかもしれないな。クロイツェル……。
すぐ下の弟の名を心の中で呟きながら、カインデルはレスティーナの元へ早歩きで向かうのだった。
そうして、その夜にまた時間が撒き戻る光が皆を包み込んでいった。
──これで最後……。
カインデルの耳に誰かの囁きが聞こえたような気がした。
それは弟の声なのか…。
それとも他の誰か…女神の声なのかもしれない。確かめる術もないカインデルは、その光に身を任せていった。
「はあ─っ、また兄上は時間を巻き戻すつもりなのかな?」
「まあ、そうなるだろうな」
「兄上は平気なの?こんなに何回も同じ時を過ごさなくていけないのに……僕は嫌だな─…。一体いつになったらリーゼロッタと結婚できるのさ」
「それを言うなら俺は子供に会いたい…」
「そうだよね。義姉上のお腹の子供が生まれてきたことがないもんね」
「ああ、いつも生まれる前に時を戻されるからな」
「よく落ちついて居られるね。僕はもう我慢の限界だよ!大体女神の石版は、緊急時の時、王国が取り返しがつかない事態に陥った時にしか使っちゃいけないのに、こんな私的なことで使っているのはいいの?」
「よくないだろう。心配しなくてもその次はない…」
「はははっ、断言できるってことは、その兄上の眼には未来が見えているんだよね。僕と違って兄上はその眼のおかげでやり直しの記憶を持っている。僕はいつも時間が撒き戻る時に思い出すんだ。それはきっとあの兄上も一緒なんだろう。だから女神の石版に触れて何度も時間を戻すんだから……呪われているのにさ」
「本人は知らない。最初の時にした行いで女神クレマンテの怒りに触れた事を分かっていない。いや分かっているのかもしれないが、理解しない様にしているんだろう」
「ほんと─っっ、迷惑な話……いい加減に認めたらいいのに、レスティーナとの縁の糸はとっくの昔に切れているんだ。どんなにクロイツェル兄上が足掻こうと元には戻らない。自分が選んだ偽りの愛にしがみ付けばいいんだ」
「その愛が作られたものだから認めるのが怖いんだろう…。自分で全てを壊した事実を受け入れられないのだ」
「もう、どうしてカインデル兄上はいつも落ち着いて居られるの?レスティーナを最初の時みたいに失ったらどうするつもりなの?」
「心配してくれるのか?アーロン。そうならない様にいつも平静を装って我慢しているんだ。出ないと壊しそうだから…」
アーロンは目の前のカインデルの左眼がエメラルドの瞳が鋭く光ったような気がして、ゾッとした。
この一番上の兄は、何時も何時も王城から出されて、サトラー公爵家で秘密裏に育てられる。
表舞台に立てない兄の心中は表面の穏やかさと違ってきっと嵐が吹き荒んでいるのだろう。
部屋の外には、アーロンの婚約者リーゼロッタとレスティーナが仲良く、楽しそうにお茶を飲んでいる。きっとこれからのお互いの未来について話しているのだろう。
まだ来ないその先の未来を夢見て……。
カインデルとアーロンは「そろそろ時間だ」と言わんとばかりに部屋から出て行った。
彼らの向かう先にはそれぞれの愛しい者達が微笑みながら手招きをしているのだった。
カインデルは見ている。
近い未来、あの石版が壊れて行く様を……。
もう少しだ…もう少しで全てが終わる。
今度で最後なのだ。
もうじき女神の最後の審判が下るだろう。
その時になれば自分の愚かさにやっと気付くのかもしれないな。クロイツェル……。
すぐ下の弟の名を心の中で呟きながら、カインデルはレスティーナの元へ早歩きで向かうのだった。
そうして、その夜にまた時間が撒き戻る光が皆を包み込んでいった。
──これで最後……。
カインデルの耳に誰かの囁きが聞こえたような気がした。
それは弟の声なのか…。
それとも他の誰か…女神の声なのかもしれない。確かめる術もないカインデルは、その光に身を任せていった。
19
お気に入りに追加
2,713
あなたにおすすめの小説
愛を語れない関係【完結】
迷い人
恋愛
婚約者の魔導師ウィル・グランビルは愛すべき義妹メアリーのために、私ソフィラの全てを奪おうとした。 家族が私のために作ってくれた魔道具まで……。
そして、時が戻った。
だから、もう、何も渡すものか……そう決意した。

お飾りな妻は何を思う
湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。
彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。
次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。
そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

恋という名の呪いのように
豆狸
恋愛
アンジェラは婚約者のオズワルドに放置されていた。
彼は留学してきた隣国の王女カテーナの初恋相手なのだという。
カテーナには縁談がある。だから、いつかオズワルドは自分のもとへ帰って来てくれるのだと信じて、待っていたアンジェラだったが──

新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

高いお金と引き換えに家族から売られた私ですが、どうやら最終的には過去一の幸せが待っているようです。
加集 奈都
恋愛
「2つも同じ顔など、我が家に必要はない。」
そう言われ、高いお金と引き換えに子供好きと噂される変態伯爵の元へと売られた男爵令嬢のアイヴィ。
幸せとは程遠い生活を送り、いやらしい要求を嫌々のむ毎日。
まだ愛玩動物としての価値があるだけ喜ばしいことなのか。それとも愛玩動物としての価値しかないことに絶望するべきなのか。
そんなことを考えていたアイヴィだったが、助けは突如としてやって来た。
助けられたことをきっかけに、高名な公爵家とされるウィンストン家の養女となったアイヴィ。そしてそこで出会う、3人の兄弟+1人の王太子。
家族に捨てられ、変態伯爵に可愛がられてしまったことで、すっかり感情を表に出すことが苦手になってしまったアイヴィと、そんなアイヴィを可愛がりたい兄弟達+王太子+大人達の物語。

やり直し令嬢は本当にやり直す
お好み焼き
恋愛
やり直しにも色々あるものです。婚約者に若い令嬢に乗り換えられ婚約解消されてしまったので、本来なら婚約する前に時を巻き戻すことが出来ればそれが一番よかったのですけれど、そんな事は神ではないわたくしには不可能です。けれどわたくしの場合は、寿命は変えられないけど見た目年齢は変えられる不老のエルフの血を引いていたお陰で、本当にやり直すことができました。一方わたくしから若いご令嬢に乗り換えた元婚約者は……。

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】
雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。
誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。
ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。
彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。
※読んでくださりありがとうございます。
ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。
(完結)「君を愛することはない」と言われて……
青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら?
この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。
主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。
以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。
※カクヨム。なろうにも時差投稿します。
※作者独自の世界です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる