婚約者は妹をご所望のようです…

春野オカリナ

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プロローグ

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 ああ、またいつも・・・の朝が始まった。

 これで何度目なのだろうか?

 私は何度も繰り返す……後悔と消失感を……。

 いつまで繰り返したら彼女・・との未来に辿り着けるのだろうか──。

 始まりはいつも決まっている。

 彼女が10才になった年、王城のお茶会で婚約者として会った時からだ。

 そして、婚約者との交流会での彼女は、何時も遅れてくるのだ。待っている間彼女の妹が私の相手をしてくれている。いつもいつもいつも……。

 そして、来ない彼女から『今日は急な習い事が入ったので…』申し訳なさそうに家令が言伝を届けに来てくれる。

 避けられている自覚はある──。

 そう仕向けたのは他ならぬ自分自身なのだから……。

 初めての顔合わせが終わると、次に婚約者の彼女の家を定期的に訪問する事は習慣で、億劫で気乗りしない事ではあった。

 だが、それが一変したのは、彼女の妹のおかげなのだろう。

 彼女が来るまでの間、私の相手をすることが彼女の妹の役割なのだと勝手に解釈していた。その行動や言動に深い意味などないと単純に考えてしまっていた当時の自分に腹が立つ。

 意味がないなどあり得ない。彼女の置かれた境遇を考えれば自ずと答えは見えてくる。それすらもしなかった。

 本来なら婚約者の置かれている境遇や事情を当然私は分かっていなければならなかったのに、縋る様な目を向けられ、私に歪んだ執着を見せる彼女を疎ましく思っていた。

 同時に実の妹に辛く当たる様を見れば、嫌になっていく。

 ──どうしてこんな女が私の婚約者で、女神の代弁者なのだと……。

 彼女より彼女の妹の方が相応しい……。

 冷たい鋼の様な白銀の髪に赤い瞳の婚約者……。

 確かに美しいがその瞳が禍々しいもののように私は感じていた。

 そんな彼女よりも妹の方が何倍も愛らしくて美しいと……。

 明るく朗らかで天真爛漫な彼女の妹に初めて会った時から癒されていた。無邪気な笑顔を私に向けてくれる妹…。

 姉を気遣って中継ぎの相手として常に傍に居てくれたことも嬉しかった。

 話題が豊富で話をしていても尽きることがない妹との時間が増えていく。

 婚約者に妹を優先されて彼女はどんな想いだったのだろう……。

 今となってはそれを訪ねる事も出来ない。何しろ彼女は最早人妻で、私も既婚者だ。相手は元婚約者の妹……。

 それだけで、私達の間に何があったのか想像がつくだろう。

 私は間違えた。

 何処から……何時から……何を……全てが……そう全てを間違えたのだ。

 だからやり直そう──もう一度最初から…彼女と出会った時から……。

 今度こそ彼女を手にしてみせる。失敗はしない。

 私はそう決心して王城の地下の女神の間に向かった。

 そこには今まで何度も使った石版が置いてある。


 ──時戻しの石版


 かなり傷んで処々文字版が消えている。

 今回で恐らく最後になるかもしれない…。

 そんなことを考えながら、私は石版に手を乗せ、魔力を流し込んだ。

 石版が光だし、当たりが白い光に包まれる。



 ──こうして、私は時を巻き戻した。


 彼女に会ったお茶会の時まで──。
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