21 / 31
王都での流行
しおりを挟む
捕らえたバーナードの供述によれば、彼が仕掛けたのはアイゼンの剣を隠して、アレクセイとの決勝でアレクセイを負かし、求婚を阻止しようとしたことと今回の誘拐未遂事件だけだった。
彼は、誰かにそそのかされただけで、熱に浮かされたように行動したのだ。アレクセイはバーナードとアイゼンにコーネリアが王都に戻ってくる事は伝えていたが、詳しい事は伝えていなかった。だが、申し合わせた様に襲撃が遭った。実はオルフェ侯爵家の御者はバーナードに買収されており、御者が金目当てで主を売ったのだ。
コーネリアは無事だったから良かったものの一歩間違えば、アレクセイは愛しい者を永遠に失う事になる所だった。
そんな事情もあり、コーネリアを密かにギャロット伯爵領に行かせた。護衛にはアレクセイ自ら、元騎士や傭兵崩れの荒くれ者ばかりを選んだ。彼らの腕前も良いが何より、アレクセイへの忠誠は揺るぎないもので、そんな彼らだからこそ大切なコーネリアを命をかけて守るだろうと考えた。
翌日、不審な動きをギャロット公爵家とオルフェ侯爵家が察知した。直ぐ様、神官長に例の神官の身柄を引き渡してもらい、身代わりを立て、獲物が罠にかかるのを静かに待っている。
思惑通り、神官を始末しようと暗殺者を送り込んできて、待機していた近衛騎士らがそれを捕縛した。陣頭指揮を取っていたのはアイゼンだった。
彼は密かにローレン公爵から騎士団の不正を掴む様に指示されていたのだ。彼は元々孤児の浮浪者で、幼い頃に公爵の乗っている馬車に飛び出した。所謂『当たりや』と呼ばれる強請・たかりの類いなのだが、一歩間違えば死んでしまうのに大人でも躊躇する事を平然とやってのけていた。
公爵は彼の度胸が気に入り、密かに彼を援助していた。そして、騎士学校を卒業すると本格的に公爵家の密偵として働いてもらっていたのだが、彼は腕が立ちすぎている上に人目を引く容貌をしている為、ご婦人方に人気が高い。
まあ、密偵としては目立ち過ぎるのが困るのだか。
しかも、ローランドがペドラー侯爵令嬢リディアに偶然を装って、出会う様に仕向けた事から、侯爵がローレン公爵とマデリーナの元を訊ねてきた。
隣国との境を守護する侯爵家に
「辺境を守るには、アイゼン殿のような才能と実力のある人物が欲しい。是非娘の婿に迎えたい」
そう言われれば、ぐうの音も出ない。国境を守護する役目は国にとっては、重要事項だけに反対出来ない。コーネリアとの事が無ければアレクセイを王命で侯爵家に婿入りさせたのだが、今や時の人となった彼らを引き裂く真似をすれば、政治にも影響するほどの大問題になる程。
実は、アレクセイが神殿で『童貞』判定を受けたことで、おかしな風潮が流行り始めた。
それは、娘を持つ親にすれば喜ばしいことなのだが、男にとってはつらい現実でもあった。
ーーーあの聖騎士様のように清廉潔白な殿方を夫にしたいーーー
と令嬢等はアレクセイを『聖騎士』と呼び始め、彼の様な『童貞』を求める様になった。その上、既に筆おろしを済ませて、女体を知っている男には聖約血判なる物を強要している家まで出てきた。
この聖約血判の内容は、神殿に於いて
ーーー絶対に浮気はしないし、貴女だけに愛を捧げる
という内容のもので、神の名に於いて行われる神聖な儀式。その為、男性らは浮気できない体にされてしまうのだ。
アレクセイに掛けられた『白い結婚』とは違い、妻や婚約者以外に好意を抱いても反応しなくなる呪い。
まあ、率直にいうと【萎える】もしくは【勃起しない】というもので、もし婚約者に初夜の痛みを和らげる為に、経験したい場合は、相手にいつ・どこで・誰と致したいと一々報告し、婚約者の同意を求める必要があった。
こんなやり取りが貴族の間で流行り出した事を知らないアレクセイは、男性貴族らにかなり恨まれている。
殺気に満ちた目で見られる事が多くなったアレクセイがアイゼンに問うと
「最近、何だか殺気に満ちた目が向けられる事が多いんだが、僕は何かしたんだろうか?」
「はあ?!自覚がないのか?お前が【童貞鑑定】を公にした事で、お前達に憧れる貴族令嬢が増えだしたんだよ。お蔭で、神殿は大忙しだ。婚約するにも釣書や絵姿そして【童貞鑑定書】がないと相手に納得してもらえない。しかも既に経験した男は、【聖約血判】をして、相手の言いなりだ。拒否した奴の末路は年上の未亡人の愛人かとんでもない性癖の持ち主に好い様に飼われる奴隷の様な生活が待っている。男からすれば地獄で、女からは天国だろうけどな」
「それは、大変済まない事をした。こんな事になるとは思わなかったんだ。僕はただ無実を証明して、コーネリアとの新婚生活を一日でも早く取り戻したかっただけなのだが……ん?でも、そもそもお前が教えてくれたんだよな?何で僕だけが恨まれるんだ。おかしいだろう?お前も一緒に恨まれろ!」
「嫌だね。【コーネリア症候群】って名づけられた今の流行に巻き込まれるのは、勘弁してほしいよ。既に俺も色々巻き込まれているんだから…」
「コーネリア症候群?なんだそれは」
「お前、マジで世情に疎すぎるぞ。妻ばかりに気を取られてないで、もう少し周りをよく見ろよ。今、貴族の令嬢方はお前の事を【聖騎士様】と呼び、コーネリアの様に愛されたいと思っている考えの令嬢方を【コーネリア症候群】と呼んでるんだよ」
アレクセイはただコーネリアを真剣に愛しているのだが、貴族ではその純愛は稀なもの。年若い令嬢からすればアレクセイとコーネリアは身近な恋物語の主人公なのだ。
波紋は市井にも広がり、彼らの物語は観劇にもなっていた。純白の白い花を恋人に捧げ、求婚する人が増えた為、花屋は常に白い花を買い求める人々で賑わっている。
一方で、娼館が寂れていき、無理やり人買いに売られる子供が減って行った。アレクセイとコーネリアの純愛は多くの人に影響を与えている事に、鈍感なアレクセイ自身は全く気付いていないのである。
彼は、誰かにそそのかされただけで、熱に浮かされたように行動したのだ。アレクセイはバーナードとアイゼンにコーネリアが王都に戻ってくる事は伝えていたが、詳しい事は伝えていなかった。だが、申し合わせた様に襲撃が遭った。実はオルフェ侯爵家の御者はバーナードに買収されており、御者が金目当てで主を売ったのだ。
コーネリアは無事だったから良かったものの一歩間違えば、アレクセイは愛しい者を永遠に失う事になる所だった。
そんな事情もあり、コーネリアを密かにギャロット伯爵領に行かせた。護衛にはアレクセイ自ら、元騎士や傭兵崩れの荒くれ者ばかりを選んだ。彼らの腕前も良いが何より、アレクセイへの忠誠は揺るぎないもので、そんな彼らだからこそ大切なコーネリアを命をかけて守るだろうと考えた。
翌日、不審な動きをギャロット公爵家とオルフェ侯爵家が察知した。直ぐ様、神官長に例の神官の身柄を引き渡してもらい、身代わりを立て、獲物が罠にかかるのを静かに待っている。
思惑通り、神官を始末しようと暗殺者を送り込んできて、待機していた近衛騎士らがそれを捕縛した。陣頭指揮を取っていたのはアイゼンだった。
彼は密かにローレン公爵から騎士団の不正を掴む様に指示されていたのだ。彼は元々孤児の浮浪者で、幼い頃に公爵の乗っている馬車に飛び出した。所謂『当たりや』と呼ばれる強請・たかりの類いなのだが、一歩間違えば死んでしまうのに大人でも躊躇する事を平然とやってのけていた。
公爵は彼の度胸が気に入り、密かに彼を援助していた。そして、騎士学校を卒業すると本格的に公爵家の密偵として働いてもらっていたのだが、彼は腕が立ちすぎている上に人目を引く容貌をしている為、ご婦人方に人気が高い。
まあ、密偵としては目立ち過ぎるのが困るのだか。
しかも、ローランドがペドラー侯爵令嬢リディアに偶然を装って、出会う様に仕向けた事から、侯爵がローレン公爵とマデリーナの元を訊ねてきた。
隣国との境を守護する侯爵家に
「辺境を守るには、アイゼン殿のような才能と実力のある人物が欲しい。是非娘の婿に迎えたい」
そう言われれば、ぐうの音も出ない。国境を守護する役目は国にとっては、重要事項だけに反対出来ない。コーネリアとの事が無ければアレクセイを王命で侯爵家に婿入りさせたのだが、今や時の人となった彼らを引き裂く真似をすれば、政治にも影響するほどの大問題になる程。
実は、アレクセイが神殿で『童貞』判定を受けたことで、おかしな風潮が流行り始めた。
それは、娘を持つ親にすれば喜ばしいことなのだが、男にとってはつらい現実でもあった。
ーーーあの聖騎士様のように清廉潔白な殿方を夫にしたいーーー
と令嬢等はアレクセイを『聖騎士』と呼び始め、彼の様な『童貞』を求める様になった。その上、既に筆おろしを済ませて、女体を知っている男には聖約血判なる物を強要している家まで出てきた。
この聖約血判の内容は、神殿に於いて
ーーー絶対に浮気はしないし、貴女だけに愛を捧げる
という内容のもので、神の名に於いて行われる神聖な儀式。その為、男性らは浮気できない体にされてしまうのだ。
アレクセイに掛けられた『白い結婚』とは違い、妻や婚約者以外に好意を抱いても反応しなくなる呪い。
まあ、率直にいうと【萎える】もしくは【勃起しない】というもので、もし婚約者に初夜の痛みを和らげる為に、経験したい場合は、相手にいつ・どこで・誰と致したいと一々報告し、婚約者の同意を求める必要があった。
こんなやり取りが貴族の間で流行り出した事を知らないアレクセイは、男性貴族らにかなり恨まれている。
殺気に満ちた目で見られる事が多くなったアレクセイがアイゼンに問うと
「最近、何だか殺気に満ちた目が向けられる事が多いんだが、僕は何かしたんだろうか?」
「はあ?!自覚がないのか?お前が【童貞鑑定】を公にした事で、お前達に憧れる貴族令嬢が増えだしたんだよ。お蔭で、神殿は大忙しだ。婚約するにも釣書や絵姿そして【童貞鑑定書】がないと相手に納得してもらえない。しかも既に経験した男は、【聖約血判】をして、相手の言いなりだ。拒否した奴の末路は年上の未亡人の愛人かとんでもない性癖の持ち主に好い様に飼われる奴隷の様な生活が待っている。男からすれば地獄で、女からは天国だろうけどな」
「それは、大変済まない事をした。こんな事になるとは思わなかったんだ。僕はただ無実を証明して、コーネリアとの新婚生活を一日でも早く取り戻したかっただけなのだが……ん?でも、そもそもお前が教えてくれたんだよな?何で僕だけが恨まれるんだ。おかしいだろう?お前も一緒に恨まれろ!」
「嫌だね。【コーネリア症候群】って名づけられた今の流行に巻き込まれるのは、勘弁してほしいよ。既に俺も色々巻き込まれているんだから…」
「コーネリア症候群?なんだそれは」
「お前、マジで世情に疎すぎるぞ。妻ばかりに気を取られてないで、もう少し周りをよく見ろよ。今、貴族の令嬢方はお前の事を【聖騎士様】と呼び、コーネリアの様に愛されたいと思っている考えの令嬢方を【コーネリア症候群】と呼んでるんだよ」
アレクセイはただコーネリアを真剣に愛しているのだが、貴族ではその純愛は稀なもの。年若い令嬢からすればアレクセイとコーネリアは身近な恋物語の主人公なのだ。
波紋は市井にも広がり、彼らの物語は観劇にもなっていた。純白の白い花を恋人に捧げ、求婚する人が増えた為、花屋は常に白い花を買い求める人々で賑わっている。
一方で、娼館が寂れていき、無理やり人買いに売られる子供が減って行った。アレクセイとコーネリアの純愛は多くの人に影響を与えている事に、鈍感なアレクセイ自身は全く気付いていないのである。
3
お気に入りに追加
2,721
あなたにおすすめの小説

もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました
香木陽灯
恋愛
伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。
これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。
実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。
「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」
「自由……」
もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。
ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。
再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。
ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。
一方の元夫は、財政難に陥っていた。
「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」
元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。
「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」
※ふんわり設定です
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
貴方に私は相応しくない【完結】
迷い人
恋愛
私との将来を求める公爵令息エドウィン・フォスター。
彼は初恋の人で学園入学をきっかけに再会を果たした。
天使のような無邪気な笑みで愛を語り。
彼は私の心を踏みにじる。
私は貴方の都合の良い子にはなれません。
私は貴方に相応しい女にはなれません。

あなたを愛するつもりはない、と言われたので自由にしたら旦那様が嬉しそうです
あなはにす
恋愛
「あなたを愛するつもりはない」
伯爵令嬢のセリアは、結婚適齢期。家族から、縁談を次から次へと用意されるが、家族のメガネに合わず家族が破談にするような日々を送っている。そんな中で、ずっと続けているピアノ教室で、かつて慕ってくれていたノウェに出会う。ノウェはセリアの変化を感じ取ると、何か考えたようなそぶりをして去っていき、次の日には親から公爵位のノウェから縁談が入ったと言われる。縁談はとんとん拍子で決まるがノウェには「あなたを愛するつもりはない」と言われる。自分が認められる手段であった結婚がうまくいかない中でセリアは自由に過ごすようになっていく。ノウェはそれを喜んでいるようで……?
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……
矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。
『もう君はいりません、アリスミ・カロック』
恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。
恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。
『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』
『えっ……』
任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。
私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。
それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。
――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。
※このお話の設定は架空のものです。
※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる